いかなる災害、場所にも対応 世界初の「ヘリサットシステム」

日本のあらゆる場所からリアルタイム映像を伝送する、世界初のヘリコプター直接衛星通信システム(ヘリサット)の開発を手掛けた、三菱電機。この世界初のヘリサットの導入を実現した同社の開発の背景や技術を紹介する。

京都市消防局ヘリコプター「あたご」

周囲環境に左右されず安定した情報伝送が可能

3.11 東日本大震災のような巨大地震や津波などの大規模災害で、何よりも求められるのは一刻も早い初動活動と応急救護活動、そして被災地域の正確な情報収集である。現場の状況をいち早くキャッチし、そして正確に把握するために活躍するのが、ヘリコプターからの映像伝送システムである。従来、被災地域の空撮映像の伝送は地上に整備した中継局を経由して伝送を行う「ヘリコプターテレビ電送システム(ヘリテレ)」と呼ばれるシステムで行われている。

しかし、このシステムには様々な課題があった。まず、空撮映像を伝送するために複数の地上中継局等、それなりの設備を整えなければならない。また、山岳部や高層建築物がある電波遮蔽環境では通信が困難になり、空白地帯ができる。三菱電機はその課題に着目し、ヘリコプターと地上受信局を衛星回線でつなぎ、撮影した空撮映像や音声データをリアルタイムに伝送する「ヘリコプター直接衛星通信システム(ヘリサット)」を考案した。

ヘリサットの概要

 

ヘリサットの技術的な大きな特徴は、ヘリコプターのブレード(羽根)回転に同期した間欠送信技術の採用である。間欠送信技術とは、高速回転するヘリコプターのブレードの隙間を縫って通信衛星に電波を直接伝送するという仕組みで、これにより、直接衛星通信を実現し、空撮した映像を安定送信することが可能となった。また、映像圧縮方式としてH.264/MPEG-4 Advanced Video Codingという圧縮符号化方式の採用によって、日本中のあらゆる場所で撮影した空撮映像が、リアルタイムで全国配信できるようになったのだ。衛星を追尾する技術には、三菱電機での以前からの研究内容であった、船舶や移動通信アンテナ研究の技術の蓄積と応用する開発力があるからこそ取り組めた、画期的な技術である。

空中で留まる状態のホバリングや、ホバリング状態から垂直や水平方向に飛行もでき、なおかつ比較的狭い場所でも離着陸できるヘリコプターは、様々なシチュエーションで活用され、防災の分野でも何かと重宝されている。

「中継局を使わずに衛星を経由するというシステムの採用により、海上や離島、山岳部などの辺鄙な場所、孤立した場所をはじめ、高層建築物などが林立する市街地においても、周囲環境に左右されずに安定した伝送を実現。いかなる状況下においても情報の収集や送受信に柔軟に対応でき、また、災害などにより地上中継局が破損してしまうなどの緊急事態でも通信が可能という点が画期的なのです」と、三浦氏は自信をのぞかせる。

三浦 千明 三菱電機通信機製作所 営業部 衛星・通信情報システム営業課

ユーザーの声を活かしシステムを改善・構築

離島や海上、山岳地帯などは地形的な問題で地上中継局の建設が困難な場所である。ヘリサットであればこのエリアへの対応が可能であるということはいうまでもなく、基地局1局で全国どこでもカバーでき、地上中継局が不要となるため、従来のシステムに比べて大幅にコストが削減できるのも、ヘリサット導入による大きな利点の一つといえる。

ヘリコプター衛星通信システムの特徴

 

地震や台風、土砂崩れといった天災、突発的な事故などに対処するための備えは大切だが、地上局の設置や管理・維持にはそれなりの費用がかかる。その点、ヘリサットであれば、いくつもの地上中継局の設置は必要なく、費用を最小限に抑えることが可能だ。日本列島、周辺の島々、海域、どこからでも素早く情報をキャッチし、それをリアルタイムに全国各地で伝送・共有することができるのは、大災害や事故といった緊急事態においては何より心強いパイプラインとなる。記憶に新しいところでは、2014年9月に発生した御嶽山の噴火災害時、被害情報の収集にヘリサットが活用された。

また、このシステムでは、ヘリコプターから地上への一方的な情報の伝達にとどまらない。ヘリ局-地上局双方向通信が可能であり、これによって地上局から、より欲しい情報の迅速な伝送を求める指示や、空撮の遠隔操作が行えるため、災害や事故時などの緊迫した状況下では、本機能は非常に有用であると言える。「情報の双方向通信機能は、ただ双方向に送受できるだけでなく、音声会話のみならずデータを送ることも可能です。ユーザーの用途に応じてアプリケーションを活用しカスタマイズもできますので、今後はその方面のサポートにもより尽力していきたいと思っております」と福井氏。

福井 貴之 三菱電機通信機製作所 通信情報システム部 システム第四課

ヘリサットは2013年春以降、総務省消防庁(東京消防庁、京都市消防局、埼玉県防災航空隊、宮城県防災航空隊、高知県消防防災航空隊)5機、国土交通省(九州地方整備局、近畿地方整備局)2機が採用され運用を開始している。全国各地でリアルタイムに同報映像受信が可能となったことで、何時いかなる時、どこで自然災害が起こり得るかもわからない危機に常に直面している我が国の防災・災害対策機関には画期的な開発であることは間違いない。同時に今後はより、「ユーザーの声、現場の声をしっかりと拾い上げ、システムの改善とさらなる構築に活かし、ユーザーとともに創り上げ、成長していく防災システムの一環でありたい」と福井氏は話す。

お問い合わせ

  1. 三菱電機株式会社 社会システム第二部
  2. TEL:03-3218-2633
  3. URL:http://www.mitsubishielectric.co.jp

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