CCC創業者、増田社長が語る TSUTAYAの構想と戦略

TSUTAYA、Tカードをはじめとする「カルチュア・インフラ」を創り出し、自治体図書館の運営、家電販売にも新規参入したカルチュア・コンビニエンス・クラブ。増田社長が事業構想の源泉と戦略を、事業構想大学院大学の特別講義にて語った。

「代官山 蔦屋書店」は60歳以上のプレミアエイジをターゲットに、ライフスタイルの提案をする書店

企画会社としてライフスタイルを提案する

「我が社はレンタル業の会社ではなく、企画会社」と話すのは、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)創業者であり、代表取締役社長を務める増田宗昭氏。CCCは、雑誌・書籍販売とCD・DVDレンタルや販売をするTSUTAYA、Tカードを全国に展開、また自治体の図書館運営をしている。さらに今年は家電販売店も新規オープンした。

創業は1983年。アパレル業界に身を置いていた増田氏が大阪・枚方市で蔦屋書店の一号店をオープンした。

「創業時から今日まで、我が社のコンセプトは『ライフスタイルの提案』です。32年前に創業する時、『自分の生き方を探す場所』がこれからの時代に必要だと考えました」

増田氏は、アブラハム・マズローの「欲求5段階説」の最後の段階「自己実現の欲求」に対応したビジネスモデルを目指した。

「戦後の日本は、マズローの段階に沿って発展しました。まず生理的欲求を満たすための食品会社、次に安全を求めた住宅会社ができ、そしてファッション、高級品などの産業も発展しました。需要は満たされた。それでも、人々は何かが足りないと感じています。それは『自分らしさとは何か』という根源的な欲求です。その欲求を持つ人が自分らしさを探す場、それがTSUTAYAです」

TSUTAYAにある音楽や映画、本には、様々なライフスタイルのイメージが散りばめられている。その中から、人々は自分に必要な要素を引き出し、自分らしさを見出していく。

増田 宗昭(カルチュア・コンビニエンス・クラブ 代表取締役社長 兼 CEO)

事業チャンスは環境と時代の変化から

今年5月には、東京・二子玉川にCCC初の家電店「二子玉川 蔦屋家電」をオープンした。TSUTAYAが異業種参入したとも言われたが、あくまでも「ライフスタイル提案」のコンセプトに沿った参入である。店舗には家電が種類ごとに並んでいるのではない。ライフスタイルに合わせたインテリアや本と一緒に並んでいる。さらに「コンシェルジュ」と呼ばれるスタッフが、個々人の生活に合う商品を提案している。

この販売スタイルは、CCCの他の業態でも行われている。書店はインターネット発展に伴い、廃業や売上低下が続いている。その中で、売上を伸ばし続ける書店。それが「代官山 蔦屋書店」である。本だけでなく、音楽、映画の商品が置かれ、店内のスターバックスで購入したコーヒーを飲みながら、店内の本をゆったり読むことができ、さらに旅行の手配ができるトラベルカウンターも併設している。人生を深く愉しみ、生活をもっと楽しむための提案をする書店という位置づけだ。

「代官山 蔦屋書店のターゲットは、プレミアエイジ。日本の個人資産の約90%、つまり約1,500兆円を所有しているのが60歳以上の人々で、それがプレミアエイジです。日本は人口減少と超高齢社会を迎えています。環境や時代の変化をいかに捕まえて、チャンスを見出すことができるか。その答えは、全てお客さんの中にあります。新しい企画をつくる時、最も重視することは『時代』なのです」

TSUTAYAの顧客は若者が多かった。2009年、増田氏は加盟企業オーナーに向けて「5年後のTSUTAYA」を予測したシミュレーションを提示した。顧客ターゲットを若者に設定すると、人口減少のため毎年売上が下がり、高齢者をターゲットにしないと売上は上がらない。そこで時代に合う店舗 “大人TSUTAYA”として、代官山 蔦屋書店が企画された。プレミアエイジに対して「残りの人生でどう時間とお金を使うのか提案すること」が書店のコンセプトだ。料理、旅行、車など、様々なライフスタイルを提案している。さらにこの書店の成功戦略はもう一工夫ある。

「ターゲットはプレミアエイジですが、来客ターゲットは若者も含めています。なぜか。若者が来ない場所に高齢者は来ないからです。売上を上げるためのプレミアエイジを呼び込むためにも、若者が来て活気がある空間づくりが必要。そのため、若者も楽しめる価格のコーヒーも売っています。これが戦略です」

CCC初の家電店「二子玉川 蔦屋家電」では、家電とともにインテリアや本が並ぶ

イノベーションは外の視点で起こる

代官山での戦略を活かした自治体との取り組みが、佐賀県の「武雄市図書館」の企画だ。樋渡啓祐・武雄市市長(当時)から依頼された時、増田氏は「Googleで何でも検索できる時代に、図書館は必要なのか」と疑問を持った。

図書館は、十進分類法で書籍が並び、開館時間は平日18時まで、さらに販売はしないことが常識だ。しかし増田氏はそれらの常識を全て覆した図書館を構想し、作り出した。

「書籍の分類は全て変えました。図書館に来る人たちがイメージしやすいように、ライフスタイルを切り口に陳列しました。開館時間も21時までに変更し、年中無休に。『人が集まる居心地のよい空間』をコンセプトに、図書館の新しいあり方を提示しました」

書架は全て開架して、カフェスペースとしてスターバックスを併設。雑誌はカフェで閲覧できるが、貸出はなく、販売のみに変更した。貸出システムはTSUTAYAと同様にIT化し、利用者のセルフに切り替えた。人口5万人の武雄市で、12ヵ月で92万人が来館し、13ヵ月目で100万人を超える成果が出た。

「もともと書店の専門ではないからこそ、既存の書店が考えない、新しい書店を構想することができた。家電店、図書館でも同じことです。イノベーションは“外の視点”で起こります。どの業界もこれまでのプラットフォームでは立ち行かない時代になり、イノベーションが必要です。私は『プラットフォームイノベーション』を起こしていきたい」

環境と時代の変化を見据え、増田氏の事業構想はさらに広がりを持っている。

増田 宗昭(ますだ・むねあき)
カルチュア・コンビニエンス・クラブ 代表取締役社長 兼 CEO
 

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