思考の迷いを断ち切り、駆け引きを制す

フェンシング選手千田健太は、長いキャリアを持ち、多種多様な技を覚えた、現在日本のナショナルチームの中心を担う選手である。彼はこれまで得た経験から、試合中のあらゆる動きを想定できるようになっていた。だが、その経験は彼に多くの選択肢を与え過ぎ、逆に剣に迷いを与えていた――。迷いを捨て、集中するために彼が実行したメソッドとは。
文・小島 沙穂 Playce

 

千田 健太(フェンシング選手)

フェンシングは、狭いピスト(競技場)の中、1対1で行われる。それだけに、一手一手の意味が大きく、優勢を取るには、相手の観察が重要となる。3分という短い競技時間の中で相手の動きを予測しながら、突きを繰り出す、フェンシングは駆け引きの競技だ。

ひとえに自分の得意なところを攻めていくのではなく、フェイントを交えながら相手の剣の軌道を見て、最善の手を判断し、勝負に出る機会を狙う。攻撃が得意な選手であっても、相手が防御が得意な選手であれば、攻撃一辺倒の戦術は通用しない。むしろ守りに入って隙を突く方がいい場合もある。自分の強みをすべての試合で活かせるとは限らない。

男子フルーレ種目の選手、千田健太は、フットワークの得意な選手だ。始めの1分間は様子見をしつつ、足を使いながら相手の動きを受け流し、どんな攻撃をねらっているのかをまず探っていく。相手のリズムを感じながら、徐々に自分のペースに巻き込んでいく。それが千田の競技スタイルだ。

選択肢をあえて狭めることで迷いをなくす

2016年、リオデジャネイロオリンピックを迎えるころには、30歳を超えている。フェンシングをはじめてから15年目を迎えた2014年冬、千田健太は迷いの中にあった。「試合に勝てないことが続きました。練習量も落ちていないのに、成績がどんどん落ちて行って、どうしてなのだろうと悩みました」

キャリアも積み、技のレパートリーも非常に多い。フィジカル面にも自信がある。でも勝てなかった。ああ、迷いがあるな――そう感じた。

キャリアを積み、基本の型も応用技も豊富な千田には、戦いのすべはいくらでもあった。しかし、技の選択肢が多いことが逆に、試合中に「考える」時間を生み、即時に判断し、対応することができなくなっていたのである。自身の強みを活かすことができていなかった。

「試合中、相手の出方を見て、どの手で反撃しようかと考える時、迷いが生まれていたのです。そこで、相手の研究をして、自分がどう立ち回るかシミュレーションする際に、試合中に使う技をあらかじめある程度絞っておくことにしました」

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