地域創生の4大イノベーター 地域資源活用の成長戦略に勝機
過去2年半にわたり、現代日本のイノベーター30人をご紹介してきた。最終回の今回は、その中から“地域創生の4大イノベーター”と称すべき方々を取り上げ、彼らが、自社の成長戦略をどのように地域創生に繋げているか、その方法論を検討したい。
text by Hideyuki Shimada
1.中野BC・中野幸治
メタ・コンピタンスを駆使し地元産品の新用途開発追求
中野BCは、和歌山県海南市に本社を置く研究開発型酒造メーカーである。創業は1932年。資本金8000万円、売上約31億円で従業員数は約170人。
代表取締役・副社長の中野幸治氏(39)は、東京の大学・大学院に学び、宝酒造、中小企業大学校を経て、2005年に家業の中野BCに入社。
彼の想いは「自社として、どうすれば和歌山の地域創生に貢献できるか」に集約しており、それを実現するメタ・コンピタンス(基幹能力)が、同社のリサーチセンター食品科学研究所の技術研究開発力である。
同社の本業は日本酒製造だったが、日本酒市場は長期頽勢が顕著になっていた。彼は、その原因が「紙パック製品に代表される工場制機械生産による低価格商品の蔓延にある」と喝破。自社も機械生産だったことから、「本物志向の顧客ニーズに即応した酒造りに転換しないと...」と、“伝統の手仕込み”を復活し、その比率を高めてゆく。
結果的に、手仕込みの日本酒は国際的評価を獲得し事業は成功したが、「長期的に見た時、日本酒だけに依存しては危ない」と、彼は更なる事業構造革新を志向。
それは、地元名産の紀州南高梅を用いた梅酒事業への軸足シフトだ。同社では日本酒と併行して梅酒の製造販売も行っていたが、それを主事業に転換しようという企図。ターゲットは都市部の女性層だ。東京生活の長かった中野氏ならではの着眼である。
「フルーツ王国」として君臨する和歌山県であるが、生活者の嗜好の変化や、生産者の高齢化・後継者問題もあって、実は危機的様相を深めつつあった。
「だからこそ、長期にわたり梅干し作りに依存している南高梅はもとより、ゆず、みかん、はっさく、ブルーベリー、レモンなど地元産品の新規用途開発を追求し、地元農業を下支えしなければいけない」
この試みは、リサーチセンター食品科学研究所とマーケティング部の若い女性たちの努力で、ゆず梅酒を皮切りに、25種に及ぶ「カクテル梅酒」や「アロマ梅酒」として結実し大ヒット。売上は実に25倍に拡大し、同社には各地から見学者が詰めかけた。しかし...
「このブームは早晩終わる。新しい事業の柱を早急に構築しないといけない」
彼の事業構想は2つ。1つ目は、梅酒事業を核とするグローバル戦略。すでに17か国に輸出していたが一層の拡大を指向する。2つ目は、研究開発力をベースに、地元一次産品を原材料とする機能性食品などを新規開発してゆく。
後者に関しては、大学との共同研究を通じて、南高梅、柿、青蜜柑、じゃばらに人体に有益な様々な効能があることが立証され、画期的な機能性食品の製品化も始まった。薬事法改正の追い風も受けて、地元産品の更なる新用途開発への道が開けつつある。
2.湯浅醤油・新古敏朗
醤油発祥地の伝統を活かし「地域創生」と 「欧州の食の革新」
醤油発祥の地・和歌山県湯浅町に、今、欧州のミシュラン星付きシェフたちから「世界一の醤油職人」と絶賛される人物がいる。湯浅醤油の代表取締役・新古敏朗氏(45)である。
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