「幸福途上国」で怒りを昇華させた勝負師

目崎雅昭氏 (日本メガソーラー整備事業/於代表取締役社長)/於・オ・デリス・ド・ドディーヌ text by Steve Moriyama

左)筆者、右)日本メガソーラー整備事業・代表取締役社長・目崎雅昭氏

――米系投資銀行のデリバティブ・トレーダーとして輝かしいキャリアをスタートし、ロンドン駐在もこなしながら、我欲の世界に嫌気がさし、1998年から旅人となったマサ目崎(目崎雅昭)さん。1年の予定が、約10年間、世界100か国以上にもおよぶ長い放浪の旅となりました。道中、ロンドン大学で社会人類学の修士もとり、2008年に日本に戻ってからは幸福伝道師的な活動をされ『幸福途上国ニッポン』という本を上梓しました。2012年秋には太陽光発電のベンチャー企業を設立し、今や業界で圧倒的な存在感をもつ会社に育てましたが、僕の中でのマサは、起業家以前に思想家なんです。しかも単なる思想家ではなく、たぶん事業を通して、マサの思想、つまり“社会個人主義”の具現化を試みているのではないかと感じています。

目崎氏: スティーブ、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいです(笑)。

――思想の話から入ってしまうと難しくなってしまうので、まずは起業に至った背景から伺いたいとおもいます。マサを理解するキーワードの一つに「女系家族」という言葉が挙げられます。男三人兄弟のなかで育った僕には、それが重要な意味をもつのではないかという気がしています。

目崎氏: そうそう。女性には何の幻想も抱いておりません(笑)。

――マサの軌跡を正しく理解するには、“男らしさ”とか“男のロマン”という言葉を解釈していく必要がありそうです。もっとも、“らしさ”というのはあまり当てにならない概念ですが。

目崎氏: 姉と妹に挟まれた男の子として育ち、親戚も女の子ばかりという環境でした。そのせいか、たしかに常に「男とは何か?」という疑問を抱えて育ったといえるでしょう。

――幼少期から、そうやって「自分とは何か?」と“哲学”してきたのは素晴らしいことです。

目崎氏: どういう巡り合わせなのか、地元の小学校が軍隊のような学校で、体罰当たり前、しかも自分は鼻っ柱も強かったので、教師たちの目の敵にされて、いつも殴られていました。

――確かにかつての日本の学校にはサディスティックな人が多かったですからね。僕もよく殴られましたよ(笑)。

目崎氏: そうでしたか。地元の中学は不良の巣窟で有名だったので、何とか地元を離れようと、私立の男子校にいったのですが、蓋を開けてみると、とんでもなく軍隊チックな学校で、とにかく「男子たるものかくあるべし」みたいな教師ばかりで、竹刀で叩かれ、ビンタを受ける毎日でした。特に鬼軍曹みたいな教師が自分を目の敵にしていて、不愉快な中学校生活をおくっていました。それで、慶応高校(通称“塾高”)にいったのです。

――なるほど、それでようやく安心できたのですね。

目崎氏: たしかに塾高は、それまでの環境とはまったく違い、リベラルで素晴らしい学校でした。生徒もいい人ばかりでしたが、もの足りなさを感じたのでしょうか、あるいは血なんでしょうか、とにかく体育会空手部を選んでしまったのです(笑)。

――“男らしさ”の呪縛から自らを解き放つことができなかったということでしょうか。

目崎氏: 女系家族で育った者の宿命かもしれません。お察しのとおり、空手部は、慶応の中でも異次元空間で、古めかしい封建社会を見事に再現していました。“愛のムチ”という美名のもと、下級生は毎日しごかれていました。今でも思い出すと怒りがこみ上げてきますが、ある時、先輩から練習中に顔を蹴られたことがあります。スティーブは「タメ語でいい」と言ってくれるので普通に話せますが、当時、先輩は絶対で、彼らに普通に話しかけるなど、ありえないことでした(注:本稿では「ですます」調に統一)。

――僕は空手部でもないし、中年になってまで先輩風吹かせる人なんて野暮じゃないですか。リスペクトできる相手なら、堅苦しさは邪魔になるだけですから。

目崎氏: ありがとう、同感です。とにかく、その先輩はリスペクトどころか軽蔑の対象でしたから、怒りにうち震えながらも、絶対服従を装い、リベンジの機会をうかがってました。毎日、人の倍、筋トレに励み、プロテインを飲み続けました。しばらくすると、運よく、その人と昇段審査で組むことになったのです。自分は勝ちました。

――フル・コンタクトじゃないですよね。

目崎氏: 寸止めが基本ですが、“勢いで当たってしまう”のはありなんです(笑)。不思議なことに、それをその時、何度もやっちゃいましてね(笑)。そうこうしているうちに、高校三年生になり、主将になったわけです。

――ついに、食物連鎖の一番上に来たわけですね。もちろん、そこでマサが人と同じことをやるとは思えないので、体育会につきものの“伝統”という名の負の連鎖を断ち切ったわけですね。

目崎氏: えーと...それが若気の至りで、結局、“伝統”を踏襲してしまいました(笑)。

――あらら、それじゃダメダメじゃない(笑)。

目崎氏: いまだに、下級生には恨まれているでしょうね。彼らの怨念なのかもしれませんが、結局、当時の塾高生の間では最も人気のない学部に推薦が決まり、英語もほとんどできない状態でした。空手とバンドとバイト(家庭教師)に明け暮れてましたから、当然の結果なんですが、ショックでした。そんななか、卒業前にハチ公前で馬鹿騒ぎしていたところ、カタルーニャ人がいたので、思いきって声をかけてみたんです。「俺たち馬鹿やってんでしょ?」と聞いてみたら、真面目な顔で「いや、きっとストレスが溜まっているんだろう」って言われて、脳天を撃ち抜かれたような衝撃を受けたんです。

――予定調和的な答えじゃなかったから?

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