学修を学習に変える

1994年以降インターネット、携帯電話の普及が進み、知識を引き出すツールが増えた。北欧諸国の教育は知識や技能を使うプロセス(コンピテンス・ベース)で評価をしている。日本でも「コンテンツ・ベース」から「コンピテンス・ベース」への変革が求められる。

知識を新しい状況に活用する力

デンマークの中学生は、公式集を持ち込み、計算機を使い、全員がインターネットにつないだコンピュータ上で、おやつや食事をとりながら、テストを受ける。1教科4時間かけて解答する

7月号でも写真で紹介したが、デンマークの全国学力テスト風景は、私たち日本人には大きなカルチャーショックだ。日本では、テストというものは、これまで学修した(study)こと、つまり名前や年号など知識をどれだけ知っているか、計算力や英会話などどれだけ技能があるかを確かめるものと考えてきた。

しかし、デンマークの中学3年生が受けていた統一テストは、公式集を持ち込んで、計算機を使って、全員がネットにつないだコンピュータ上で、おやつや食事をとりながら、1教科4時間もかけて解答するというものであった(写真参照)。日本とはまるで違うのである。

伝統的なテストは「これまで何を学んだか」を測るものであったが、OECDの国際学力調査PISAは「これから何ができるか」という能力を測ろうとした画期的なテストである。

1960年代の欧米諸国では、知識や技能の内容(コンテンツ)の習得を教育目標とせず、学ぶ力、学び続ける力、知識や技能を関連させ総合して使う力(コンピテンス)を身につけることこそを教育目標とし、学力は知識や技能を使うプロセス(コンピテンス・ベース)で評価していこうという大きな動きがあった。北欧諸国はコンピテンス・ベースの教育を着々と進展させ、現在のOECDはそこに注目しているということだ。

このPISAの統括責任者、アンドレア・シュライヒャーOECD教育総局次長がよく使う例だが、1994年に世界的に現れたインターネットが、またその数年後に登場する携帯電話が世界を変えることになると、50年前に教育者たちは予想しただろうか。だから、教育の目的は知識内容を覚えさせ、それを再生することではなく、知っていることから推測したり、知識を新しい状況に活用する力を育てることなのだ、とシュライヒャー氏は主張する。

自立した強い個人を育てる

基礎教育で身につけるべき学力は、2002年に、OECDが中心となって「キー・コンピテンシー」として定義された。それは「異質集団の中で相互交流する」「自律的に行動する」「相互交流的に道具を使用する」の3つの次元からなり、この道具のうち言語・情報、数学、科学を使用する能力を国際学力テストPISAで測定していることになる。そして、この言語・情報を使う力が「PISA型読解力」として、2006年から日本の教育現場、とりわけ国語教育の分野に入ってきた。

PISA型読解力の根幹はコミュニケーション力と見なされる。コミュニケーションとは、人間が交流しながら「共通理解」を築いていく作業に他ならない。

なぜなら、EUは国境を越えて労働力が移動することを前提にしており、その意味で学力もまた国境を越えたのである。すると、考え方の違う者、知識の違う者、理解の違う者、言語も違う者が、同じ職場や地域社会の中に存在する。家族だってそうなるだろう。

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