多地域の水害対策を一気に実現

「加須低地」と称される加須市は、平坦な土地に多くの河川が横断しており、水害に対する備えが必要な地域を数多く抱えている。対策に力を入れている中で、新たに移動可能な送排水ポンプを活用する意図とは?

角田守良 加須市副市長

重要課題である水害対策

日本は自然災害の多い国であり、全国各地の自治体が、大雨や台風などに対して、河川改修等の整備を進めている。埼玉県加須市においても、水害対策は最重要課題のひとつであった。

加須市は、崖や険しい谷がなく、高低差5m以内にほとんどの地域が収まっている平坦な地形。市内に利根川の左右両岸を抱えるなど河川と接している地域が多いことも地域の特徴だ。

「過去に、水路溢水や道路冠水、家屋の床下・床上浸水など浸水被害が多数発生してきました」と加須市の防災に対して熱をこめて話す角田守良副市長。この状況を打破するために同市では地域防災計画や溢水対策計画を策定するなどして、ハード・ソフト両面から水害対策を行ってきた。これまで市内6カ所の排水機場や調整池、雨水流出抑制施設を整備。一方でソフト面では市民への的確な情報提供と円滑な避難行動が行えるよう大規模な避難訓練を実施するなど、水防活動においては、日本の中でも成功例であるといえる。

大容量水中ポンプシステム「Vowcan(ボーキャン)」

送排水ポンプで災害への備えを

「自然災害が起きる可能性をゼロにすることはできません。だから、備えはどれだけしても足りません」と角田氏。ただ、地形的な特性から、河川と接する地域が多く、従来の送排水ポンプを設置しようにも、設置すべき箇所すべてに設置することは財政的に難しい現状があった。そこで2016年2月に、片倉工業グループで前年に共同

開発した大容量水中ポンプシステム「Vowcan」の運用をベースとして、移動式排水ポンプの活用を第二次加須市溢水対策計画の改訂において明記。さらに同年11月には加須市と片倉工業(機械電子事業部)が、「災害時支援に関する協定」を締結した。

「車に積めるなど移動が容易であるため機動力があって設置ひとつあたりの費用対効果が高いこと、油圧式で大雨でも漏電の心配がないこと、ホースをつなげば最長1.8kmになり大規模災害時にも大容量・遠距離の送水・排水ができること、最大60mの高低差があっても揚水が可能であるというような特徴から、市内の広域に対する備えができるシステムであることが、Vowcanのメリットだと感じています。溢水している場所へ急行して大量の水を遠くの排水路まで排水が可能であるため、市域面積が広く平坦で排水先が少ない加須市としては、とても効果的であり魅力的でした」という点が評価された結果としての締結だった。

被害の最小化、逃げ遅れゼロを目指す

これからも加須市においては、さらなる備えをしていくという。「備えによって、被害の最小化、逃げ遅れゼロを目指す」と角田氏。具体的には、水路及び道路側溝の水系ごとの整備・改修の推進、排水機場及び貯留施設の維持管理等の徹底、市民との協働による浸水被害軽減対策の推進、市民への洪水情報等の確実な伝達体制の整備、水防団をはじめとした水防体制の充実強化などを実施していく予定だ。

水害に対して脆弱な地形をもつ自治体ならではの施策も数多くあるが、そのような自治体が厳しい基準で選んだ「Vowcan」には、多くの自治体の水防に貢献できる良さがあるのだろう。

片倉工業

片倉工業 峠賢治 機械電子事業部長

取水高さ60m、最長1.8㎞の送水・排水ができる移動可能なポンプシステム

片倉工業(機械電子事業部)は、自動車エンジンの関連部品を中心とした機械加工関連と、工業計器、各種プラント用バルブ、水道用の空気抜き弁などの流体機器関連、更には工業用洗浄装置や工場の廃油・廃液を削減する環境改善システムを取扱う機械部品メーカー。グループ企業には、消防自動車を生産している日本機械工業、農業用機械を製造・販売している片倉機器工業がある。「Vowcan」は、これら3社で培った技術を結集して生まれた画期的な製品だ。

同社の峠賢治事業部長は、「自社の技術を用いて社会に貢献したいという思いを原点として、何ができるかを考え続けていた」ことが開発のきっかけだという。2012年に構想が始まり、2015年3月に完成。その後、加須市との協定へとつながっていった。

これまでも送排水ポンプは世の中に存在していた。ただ、いくつもの課題があり、それをクリアしたのが「Vowcan」なのだという。それは大きく4つある。

ひとつは送排水の早さだ。これまではかなりの時間をかけて送排水を行っていたが、3500L/分と大量の送排水ができるシステムで大幅に短縮が可能になった。次にこれまで設置型のみであり相当数が必要であった点を、可搬式にすることで中型トラックでも持ち運びができるようにした。さらにホースさえつなげれば1.8㎞になり、山間部など近くに水源がない場所においても海や河川から遠距離送水が可能になる。また、ポンプの圧力によって坂であっても水を運ぶことができ、ゲリラ豪雨や長雨によって発生した洪水の排水も可能だ。電気式のポンプでは漏電の可能性もあったが、油圧式ポンプにすることで心配をなくした。

「今後は『Vowcan』を広めていくことで、コストを抑えながら水害対策ができる自治体を増やし、そこで暮らす人々に安心を提供していきたい」と峠氏。操作方法が簡潔であることも、災害時に強いと評価される理由だろう。

お問い合わせ


機械電子事業部 セグメント戦略室
TEL.03-6832-0267
URL:http://www.katakura.co.jp/

 

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