伝える側も受け取る側も、緊急避難情報は「やさしい日本語」が一番

250万人の在留外国人と年間2000万人に及ぶ外国人観光客。災害が発生すると、地域住民に向けて、災害状況や避難情報が伝えられるが、多くの外国人へは適切な災害情報や避難情報が届かず、被災傾度・率が高まってしまう。災害下の外国人が、身の安全を迅速に確保するための情報を日本人と同じように得るための具体策を考える。

1995年1月に起こった阪神・淡路大震災では、日本にいた多くの外国人も被害に遭った。彼らからは「地震のあと、情報は盛んに流されたが、日本語ばかりでどうすればよいのかわからなかった」という声がよく聞かれた。中には、避難所にたどり着けず、壊れかけた家にずっと残っていたという人もいた。

多くの外国人が、日本語での災害情報や避難情報を理解できず、地震による物理的な被害に加え、情報からも遮断され、幾重にも被災してしまった。

災害が起きると、自治体やマスコミから地域住民に向けた災害状況や避難情報が伝えられる。しかし地域には、日本人だけでなく日本語に不慣れな在住外国人やいろいろな国からの観光客もいる。2015年秋に起きた茨城県常総市での洪水被害や、いま起きている熊本県や大分県での大地震でも例外なく状況は同じである。

つまり、日本政府は2020年の訪日外国人観光客数を2015年の倍にしたいというが、他方で、外国人観光客を多く迎えてきた熊本県や大分県での、外国人観光客への情報伝達や被災地外への誘導が適切に行われていない現実があるように、国の課題として外国人に緊急時の身の安全を確保させることばを用意しなければならないということである。

JR九州は、新幹線内での多言語放送や駅構内の多言語表記を進めてきたが、今回の大地震に際し、多言語で運行状況を伝えたり、列車内での状況説明を外国語で放送したりできなかった。それらは専ら日本語で、英語であってさえ十分な案内は不可能だった。

ここで伝えねばならないことは、外国語対応が不備だから行政や交通に携わる人たちは複数の外国語で対応できるような能力を身につけるべきということではない。それが非現実的なことはいうまでもない。危機管理やロジスティックのための言語様式はイメージアップのための外国語とは別に担保されるべきで、フェイルセーフとしての言語様式を危機管理の一環として準備しなければならないということである。

緊急時は伝える側も混乱している

さて、日本語に不慣れな外国人へ、情報を確実に伝えるには、彼らの母語で伝えることが最も有効である。しかし母語で伝えるといっても、住民の母語は様々で、一方で災害発生時に早く伝えねばならない情報はつぎつぎに生じる。

それらをすべて多言語にすることはできない。時間的な余裕もない。それなら英語で伝えるのはどうか。じつは日本に来ている外国人は、英語を十分に理解できない人も多い。英語のみに依存すると、まんべんなく伝えられないだけでなく、互いに片言の英語は意図しない誤解を生じる危険をはらむ。英語だけに頼った外国人への情報発信は危険である。

つぎに、被災生活に密着した緊急性の高い情報を伝えるのは、自治体や消防、ボランティア団体、町内会の世話役といった、必ずしもコミュニケーションに長けた人たちだけではないことである。

災害発生から72時間以内に必要な情報を担う表現は、外国人にわかりやすく、しかも、情報を提供する側の日本人も、正確、的確、かつ迅速に伝えられるようでなければならない。

このことに対処するため、専ら外国人住民を対象として考案されたのが「やさしい日本語」である。緊急性の高い情報を簡潔にし、外国人が理解しやすい表現で伝える。

「やさしい日本語」が有効な時間は72時間

ところで、「やさしい日本語」の活用時間を、災害発生から72時間にした理由は次の通りである。

外国語での支援が整うには3日を要する。その間の外国人を情報の空白から守るためである。72時間が過ぎれば、外国人支援のボランティア団体も支援に入る。そうなれば保険や医療、教育のことなど、複雑な話題も母語で相談できる。すなわち、災害下の安全を日本人と同じように担保する表現が「やさしい日本語」である。日本語を母語としない外国人にとって、情報はやはり母語で伝えられるのが望ましい。そのことは精神的な安定にもつながる。だから「やさしい日本語」が有効な時間は72時間と設定し表現を整備した。

文の意味を理解しやすくする表記法

外国籍住民の多い自治体が、災害発生時の危険について伝える表現を用意しておくことは住民サービスの一環である。多言語での情報伝達体制の整備が可能なら、それに超したことはない。しかし先に記したように、そのこととは別にフェイルセーフとしての「やさしい日本語」による伝達手段を用意しておくことは別の課題である。そのためのボランティ団体や外国人住民とのコミュニケーションを日常からしている仕組みも用意しなければならない。

広域災害が発生すると 「やさしい日本語」での情報がさまざまに求められる。情報量は増え、それに伴って文は長く複雑になる。このことを避けるため、「やさしい日本語」では、一文の長さをひらがなで書いたとして24文字以内に収めることを提案していた。長くても30文字以内にすると、文は簡潔になり、漢字圏の外国人にも非漢字圏の外国人にも確実に伝わる。さらに日本に来て1年以上の外国人であれば80%以上が理解できることを実験によって確認している。

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