みんながつくり出す「共創」の未来

クラウドソーシングは、日本と世界をどう変えていくのか。業界のキーパーソンたちが、外部とのコラボレーションがもたらす企業へのインパクトや、今後生み出されるイノベーションの可能性を語り合う。

宗像 日本でクラウドソーシングは、一部の企業が興味を持ち始め、どうすれば活用できるのかを探っているという印象。

山口 企業はクラウドソーシングをまだコスト削減の手段としか見ていませんね。クラウドソーシングは、社内にない専門性を社外から調達することに意味がある。

ランサーズには70の仕事カテゴリーがあって、幅広い案件に対応できることを知ると、こんな使い方もあるんだと思われたりする。企業にとって、まだ〝気づき〟の段階でしょう。

(右)山口豪志(ランサーズ ビジネス開発部部長)(左)大塚雅文(まなび 代表取締役)

適切に発注するにはノウハウが必要

山口 受注者は、仕事分野をより広げられる機会を得られます。たとえば、これまで印刷物中心だったデザイナーがウェブも手がけるといったように。デザイナーやエンジニアが、自分のコアの強みを発揮しやすい環境になってきています。

柴田 米国でもoDeskのサービスが始まった当初はコストを追求して、東南アジアなどへの発注が中心でした。しかし最近は、これまでエージェンシーを通さないとできなかったような高単価の仕事も、oDeskで可能になっているんですよ。

大塚 インドのインフォシスやリプロなどの企業では、優秀な社員が辞めてしまって、oDeskで独立する動きもあるようです。そうした企業の競争力が弱っているという話を聞きます。

最近、変わってきたと思うのは、誰もがウェブで表示される評価を非常に気にするようになったこと。私は現在、oDeskで7~8人の外国人に仕事をお願いしますが、発注する際には、スカイプで動画や音声の面接を必ず行うようにします。

宗像  適切に発注するには、ノウハウが必要になりますよ。たとえば、海外のウェブマーケティングに詳しいリサーチャーを探したいとき、単に実績を聞くだけではダメ。どんなサイトを普段チェックしているかなど、具体的に聞いてみる。そこで、業界で認められているニッチなサイトを挙げるようなら信用できる。実績は過大にアピールするからあまり信頼しない。

(右)柴田憲祐(PurpleCow CEO)(左)宗像淳(イノーバ代表)

発注内容の明確化は大きなポイント

大塚  日本式の曖昧な発注は、絶対にやめたほうがいいですよ。成果物の仕様だけではなく、一つ一つの仕事を具体的に指示する必要があります。

柴田  同感。発注内容の明確化は、日本でクラウドソーシングが広がるうえで大きなポイントだと思う。海外と文化の違いは、大きなテーマですよ。

山口  細かく伝えないと、受注者がやったつもりになっているケースもある。ランサーズは、発注内容がきちんと伝わるかどうかをケアするために、スタッフの半数を充てているんです。

柴田  海外企業から日本人への発注案件もあります。そこで受注できるかどうかは、英語でコミュニケーションできるかどうかが大きい。インドネシア人やフィリピン人は、英語が不得意でも必死に食らいつく。仕事に対するハングリーさも競争力になります。

受注するために必要なセルフブランディング

宗像 たとえば、4万もの店舗がお店を出している楽天では、個々のお店が埋没しないように、注目を集める工夫をしています。同じようにクラウドソーシングでも、自己のアピールが重要になります。言い換えるなら、セルフブランディングの能力が求められる。

山口 どのデザイナーに発注するかの決め手は、成果物であるデザイン以上に、なぜそのデザインにしたのか、コンセプトやアイデアの部分も大きい。クライアントに〝納得感〟をもたらすコミュニケーション能力が求められています。

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小さいタスクから戦略のコア部分へ

山口  クラウドソーシング研究の第一人者である東工大の教授が言うには、経営のコンセプトと意思決定以外、90%の仕事は、すべて外部に出せる。

大塚 ある雑誌によると、米国では弁護士人口が、09~10年で2%、10~11年で1%減少しているようです。その理由は、企業の業務が海外に出ていっているから。

米国の失業率は約8%と言われているけれど、クラウドソーシングで企業内の業務が減って、潜在的な失業者はもっと多いのでは。

宗像 一方でクラウドがイノベーションをもたらす例もある。不特定多数の人たちが力を合わせることで、ペルーでは雪山で遭難した登山者を衛星写真から見つけ出した。遭難したと思われるエリアの写真を拡大して分割し、その雪上を多くの人たちが手分けして探し、2~3時間で場所を特定した。

山口 そうしたクラウドをどう使うかという、発想の部分はまさにリプレースできない。

独立した専門家が「仮想の会社」で活躍

柴田 最近、サンフランシスコに行っていたんです。そこで注目されていたのがスペシャリスト同士のコラボレーション。

例えば、有名アーティストがCDジャケットをつくる際、クラウドソーシングで一流デザイナーの参加を促したり。

宗像 映画「オーシャンズ11」のように、独立した専門家が集まってチームを組み、仮想の会社のように機能するようになります。

すでにオンラインゲームの世界では、柔軟にチームを組んでノウハウを共有し、新たな知識を創造するコラボレーションが進んでいる。そうした動きは、ビジネスの世界でも進んでいくでしょう。

外部では代替できない構想の「絵を描く」力

大塚 クラウドソーシングにより、世界の所得格差がなくなってくる。米国とアジアのワーカーが同じ賃金で仕事を受けており、それが広がれば世界の貧困層の底上げにつながります。

先進国の国内では賃金が下がっているように見えても、世界的に見たら、その水準は中位におさまっていく。

そして、ディレクションやプロデュースなど、 〝絵を描ける〟能力の価値が高まっていきます。

柴田  人件費などの固定費が変動費に変わるので、企業は初期投資をしやすくなる。スタートアップは動きやすくなり、今までにないスピードで成長する企業も出てくるはず。

宗像 固定費の負担が軽減すれば、従来では難しかった小ロットの生産も可能になる。大企業も新事業にチャレンジしやすくなります。

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クラウドソーシングでイノベーション

大塚 ワーカーのライフスタイルも大きく変わってきます。英語でアクセスできれば、膨大な情報に接するのでチャンスが広がり、新たな発想を得ることができる。そこから面白いものが生み出される可能性がある。

山口 一方で、ローカルのサービスが進化する可能性もあります。個人の信用がオンラインで担保できるようになると、「その場にいること」が価値になる。近所にいる人に何かを頼んだり、さまざまなニーズがある。

クラウドソーシングによって、企業にとっても、個人にとっても、チャレンジのハードルが下がる。それは、大きなチャンスだと思う。

宗像  アマゾンやアップルのようなイノベーティブな企業は、失敗を受け入れる文化があって、小さな失敗をたくさんすることを推奨します。

例えば、日本企業も「実験予算」のようなものを組んで、クラウドソーシングで新たな試みを繰り返すことができれば、それがイノベーションにつながっていくでしょう。

写真 = 村上誠太

山口豪志(ランサーズ ビジネス開発部部長)
茨城大学理学部卒。クックパッドに勤務。大手広告代理店、大手食品・飲料 メーカーを担当。効果検証を通じたマーケティング支援を得意とする。2012年、ランサーズ株式会社に参画。
大塚雅文(まなび 代表取締役)
4歳から12歳まで米国在住。慶応大学経済学部卒業、東海銀行に入社。米国バージニア大学にてMBA取得。卒業と同時に、まなび株式会社設立。現在、グローバル人材育成のスクールを経営。
柴田憲祐(PurpleCow CEO)
中央大学商学部卒業後、ソフトバンクテレコム入社、孫正義社長の下で起業を学ぶ。起業チャレンジで最優秀賞を受賞し、12年6月に創業。デザインのクラウドソーシング「designclue(デザインクルー)」を提供。
宗像淳(イノーバ代表)
東大文学部卒。富士通に勤務後、ペンシルバニア大学ウォートンスクールにてMBAを取得。イノーバで、海外ノウハウに基づき、コンテンツマーケティングのサービスを提供。

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