日本サッカーを 「可視化」し事業価値を高める トレセンが挑むデータ活用革命

ITとスポーツの融合により、選手のパフォーマンスを複合的に可視化するプラットフォーム開発に挑む株式会社トレセン。「人と社会の可能性を高め、新たな未来を創る」というミッションのもと、日本サッカー界の国際競争力向上と若手選手の可能性を広げる取り組みを推進している。IT業界16年のキャリアとサッカー選手としての経験を持つ代表取締役・山口雅隆氏に、ヨーロッパ企業との提携や日本のスポーツ界におけるデータ活用の展望について話を聞いた。

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株式会社トレセン 代表取締役の山口雅隆氏

技術とサッカーに精通しているからこその視点

テクノロジーと感性の融合

「サッカー選手はコンマ数秒の世界で判断をし、プレーしています。分析している時間はありません。テクノロジーだけではなく、人間的な感性も大切です」。

そう語るのは、株式会社トレセン代表取締役の山口雅隆氏だ。IT業界で16年のキャリアを積み、サッカー選手としても大学推薦入学の経験を持つ山口氏は「ITだけでは突き抜けることは出来ない」との考えから、2019年8月に自身の専門分野を掛け合わせた企業を設立した。

「面接に来てくれた人には『技術だけじゃなくて大切なものがある』と伝えています」。

山口氏は、スポーツにおいて、テクノロジーの持つ先進性と試合で必要とされる感性、両方が重要であると理解している。

現在、同社はAI事業・システムインテグレーション事業・スポーツ事業の3本柱で展開している。売上の9割はAIとSI事業が占めるが、現在、サッカーを中心としたスポーツ事業が重要な研究開発分野となっている。

伊データ企業と協業

日本最大のサッカーデータ・プラットフォームの設立へ

元々、山口氏は「一定の年齢を超えたら、自分の好きな事をしよう」と考えていた。そんな中、得意とする「IT+スポーツ」の領域で実際に事業化するきっかけとなったのが、ベンチャー企業の関係者が集まるフットサル大会だ。

「月1回、大会が開かれていましたが、そこで参加者のプレー時の走行距離が分析出来る仕組みを作りました」と当時を振り返る。この取り組みがきっかけとなり、元高校サッカーの教員が立ち上げたクラブチームと関係性を築くようになる。

「繋がった方が個別育成を謳っていて、これが私の考えと繋がりました。ITで選手のスキルを可視化していく点とリンクしたわけです」。

データを可視化していく事で選手が窮屈さを感じるという論調が存在するが、山口氏の見解はむしろ正反対だ。「弱点が丸見えになると思われがちですが、逆だと思います。自分が得意な部分や出来ていないと思っていたけど実は出来ていた点に気付く事が出来るので、選手はプラスに感じることが多いです」と語る。

データプラットフォームの本質的価値は「自分を知る事」にある。これまでバラバラだった体重や走力、試合中の動きなどのデータを組み合わせ、立体的に分析する事で、「自分が伸びる為のゴールに対してのアクションまで見えてくる」と強調する。

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日本サッカーの可視化に挑む山口氏(写真右から2番目) 元日本代表監督アルベルト・ザッケローニ氏や元日本代表川島永嗣氏と肩を並べる

同社は、世界最先端のスポーツインテリジェンスプラットフォームであるIterproと複数年にわたる戦略的ライセンスパートナーシップを締結。日本のスポーツ業界に最先端のデジタルインフラの導入を加速させる本締結により、Iterproはトレセンに対して独占ライセンスを付与した。

選手データ可視化の上でIterproを選んだ理由として、「パリ・サンジェルマンやACミラン、セリエAのバレーボールチームなど、様々なスポーツでの実績がある点が魅力的でした。何よりスカウトデータと連携できる統合的なプラットフォームの構造を持っている点が重要です」と山口氏は説明する。

トレセンが所持していたスカウトデータとの連携は、選手評価や移籍に関わる重要な要素だ。放映権収入増加や外部オーナーによるクラブ買収等により莫大な資金がサッカー界に流れ出して以降、サッカー選手の移籍金は「バブル」と評される程に膨れ上がっているが、スカウトデータを含めた統合的プラットフォームは選手を「安く買って、高く売る」為の先進的なツールであり、クラブチームからの注目度は高い。

サッカーにまつわる複雑なデータを組み合わせる事で、「例えば、静岡の高校生が試合をした時、その選手がどのチームに適しているか、どの国の選手に似ているかといった傾向も出すことが出来ます」と山口氏は語る。

学生スポーツも支援

フィジカル面だけでなく「メンタル面」の理解に活用

同社サービスのターゲットはプロレベルに留まらず、アマチュア(大学、高校、中学)まで幅広く特に学生スポーツのボリュームゾーンに可能性を見出している。

「身長測定や体組成計測、試合結果の記録など、すべてを同じプラットフォームで管理できれば大きな価値があります」。

現状、大学などの部活動では、データの蓄積や統合などが不十分といった課題がある。そこで学校や部活動でデータを取得、一つのシステムに統合する事が出来れば、プレーの改善だけでなく選手のケガ予防やメンタルケア、ひいてはキャリア形成に役立てる事が出来る可能性があるわけだ。

「学業成績も含めた総合的なデータ管理が可能になれば、サッカー以外のフォローも出来ます。それが学生スポーツの意義です」。

生活面の「可視化」も視野に入れるトレセンは、事業構想としてサッカー界のみならず教育界や社会全体を見据えているわけだ。

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学生への支援を加速すべく 展示会など幅広い活動を行うトレセン

日本から世界へ

スポーツを起点にプラットフォームの事業拡大構想

インタビューを通じて山口氏は、このプラットフォームを利用した選手能力の可視化や日本人選手の評価向上に向けた構想を熱く語ったが、一方で海外への進出も試みている。

同社は現在事業拡大への取り組みを急ピッチで進めており「日本だけでなくアジア市場も視野に入れています。認知されるには成功事例が必要で、その意味でも移籍の成功事例を作っていきたいです」と山口氏は語る。

選手の能力を可視化するプラットフォームを中心に、日本サッカーの地位向上を通じて事業拡大を画策するトレセン。テクノロジーと感性を融合させ、日本サッカーひいては育成年代の新たな未来を切り拓く挑戦が形になろうとしている。

文・小松 颯太

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