社会課題に光を当てる書籍を表彰 第11回不動産協会賞

第11回を迎えた不動産協会賞。一年間で出版された多数の書籍から3作品が選ばれ表彰式が開催された。混沌とした現代社会の一筋の光となる、新しい観点とアプローチに注目が集まる。

一般社団法人不動産協会(菰田正信理事長)は、第11回『不動産協会賞』(2020年刊行分)を決定し、表彰式を開催した。本賞は、日本経済や国民生活に関する著作物の中から、同協会が取り組む幅広い課題の理解に資する作品を選定し表彰する。選考は一年間で出版された多数の書籍から候補作品を絞り込み、数回の選考委員会を経て受賞作品が決定する。協会の社会貢献活動の一環としても位置づけられる本賞への期待が高まる中、今回は「社会的孤立」「資本主義」「まちづくり」をテーマにした3作品が受賞した。

式典は感染対策の上オンラインと併用で行われた

社会の在り方を根本から問う

『社会的処方:孤立という病を地域のつながりで治す方法』(学芸出版社)編著者の西智弘氏は、がんを専門とする医師だ。患者が病気に加え、社会から切り離される孤立の苦しみに苛まれる姿に直面し、問題の分析および対策を模索した先に「社会的処方」の考えを提言した。表彰式で西氏は「社会的孤立が重大な健康リスクになることは明白。個々がこの問題に目を向け意識してもらうきっかけになれば」と語った。

「変化の中にこそ新しい産業の芽があると考えたことが本著執筆の動機となった」という諸富徹氏の著作『資本主義の新しい形』(岩波書店)は、現代の構造変化の核心である"資本主義の非物質主義的転回の分析"を通じて、経済産業課題の考察やあるべき社会の将来像に迫る。無形資産の重要性や脱炭素へ向けた産業構造の転換にも言及し、読者に多彩な気づきを与えている。

まちづくりに新たな観点を示したのは、柳田良造氏と森下満氏の共著『色を使って街をとりもどす:コミュニティから生まれる町並み色彩計画』(学芸出版社)だ。建築家である柳田氏は、世界各国の美しい町々の事例を交えながら、市民が日々の暮らしのなかで自ら表現し参画できる、色彩によるまちづくりの可能性を説いた。

受賞作品について、三橋博巳選考委員は「3作品の共通項は人と人のコミュニケーション、連携・協力。これからの社会の在り方に重要な視点を提供し、実践している点がさらに素晴らしい」と高く評した。増田寛也選考委員は、「不動産を基軸としながらもそこで生まれる街、コミュニティ、人間社会のありとあらゆる営みを幅広く捉えた上で、多くの方々に読んでいただきたい作品を選考した」と本賞の意義に触れた。座長を務めた青山佾選考委員による総評では、「受賞作品はいずれも不動産あるいは社会の在り方に根底から問題提起したもの」と今年度の受賞3作品に称賛と感謝が贈られた。

受賞者と審査員の記念撮影(撮影時のみマスクを外しています)