広島県の支援制度 社会人大学院でイノベーション人材を育成

広島県では大学を活用したイノベーション創出が積極的に進められている。県が社会人大学院生に対して独自に実施している助成制度は、その支援策の1つだ。同制度を利用した200人以上の高度人材が、広島県の企業で活躍している。

広島県では、湯﨑英彦知事が、就任翌年の2010年に10年後の県の総合計画「ひろしま未来チャレンジビジョン」を策定している。

湯﨑 英彦 広島県知事

「人づくり」、「新たな経済成長」が重点政策分野として位置付けられている。その方針に基づき2011年から「広島県イノベーション人材等育成事業補助金」、2012年から「広島県未来チャレンジ資金」が導入されている。これらは、社会人が県内、県外、海外を問わず、大学院に通う場合に、県独自に支援するものである。

大学院に通う社会人を県が支援

湯﨑知事自身も、通産省(現経済産業省)在職時に、スタンフォード大学に留学し、経営学修士(MBA)を取得している。知事自身の経験を踏まえて、大学院に通う社会人を応援する制度が創設されている。

広島県の助成制度は、企業向けと個人向けの2種類がある。企業向けの制度は「広島県イノベーション人材等育成事業補助金」。広島県内に本社がある中堅・中小企業が対象で、社員が大学院に通う場合、授業料だけでなく、住居費や旅費も補助対象となる。2年間の修士課程の場合、最大で800万円の補助が受けられる。

個人向けは、「広島県未来チャレンジ資金」。国内大学院の修士課程の場合、2年間で最大240万円の奨学金が貸与される。これは返還義務があるものの、修了(卒業)後、9年間のうち8年間を広島県企業で勤務(県内で独立開業も可)すると全額返済免除となるものである。厚生労働省の教育訓練給付制度では、2年間で最大112万円の給付であるが、この制度では2倍以上の手厚い支援がある(両方の併用は不可)。

広島県商工労働局産業人材課によれば、「県独自で社会人大学院生に対して、ここまで支援している例は、他には聞いたことがない」という。

他の都道府県でもUターンやIターンを期待して学費支援を行う制度を持っているケースはあるものの、いずれも受給に至るハードルが高く、あまり活用されていないのが実態である。

広島県の制度は企業向けであれば県内の中堅・中小企業、個人向けでは応募時に40歳未満という条件はあるものの、それ以外は大きな制約がなく、自由度が高い制度といえる。

200名以上を採択、県内企業で活躍

これまでの実績は、広島県イノベーション人材等育成事業補助金が累計で124人・96社、広島県未来チャレンジ資金が112人となっている。進学先の大学は、地元の広島大学、県立広島大学、山口大学MOT(技術経営研究科)をはじめ、関西、首都圏の大学院などへ入学している。経営マネジメントの勉強をしたい、研究職で博士号を取得したい、新規事業をつくりたい、起業したいなど、入学の動機はさまざまである。修了後は8割以上が広島県内に定着して県内企業で活躍している。また、起業し成功している人材も出始めているという。

表 大学院修士課程に通学の場合の支援制度(国内・2年制)

資料:広島県商工労働局 産業人材課 利用実績は2020年10月現在

 

事業構想大学院大学を2017年に修了した平岡誠司氏も、広島県イノベーション人材等育成事業補助金を活用した中の1人だ。

生産地問屋平岡商店の平岡 誠司氏(事業構想修士/2017年修了)

「私は、両親が切り盛りする中小企業の経営現場を身近に感じながら育ったこともあり、自然と経営者を目指すようになっていました。自らが経営者となってからは、同族経営の難しさや、厳しい銀行交渉、取引先の破綻など、バブル崩壊後の中小企業の生き残りの修羅場の連続の中でなんとか経営危機を脱することが出来ました」

「そうした中小企業経営者としての経験に加えて、事業構想大学院大学の2年間で、アイデアを実現・実行可能な構想計画へと作り上げていくプロセスを体系的に学ぶことができました。そうした経験や知見を伝えていきたいと思うようになりました。現在は、家族経営、個人事業といった小さな会社向けの伴走型経営支援「ビジネスS&Cコーチ」事業を中心に、広島と横浜を拠点に事業を展開しています」と平岡氏。

広島県の制度については、

「広島県商工労働局の皆さんには申請前から親身になって相談に応じていただけました。私が大学院に入学した2015年当時は、まだ事業構想大学院大学は東京校だけでしたので、必然的に東京への単身赴任となりました。大学院は、平日は夜間の開講でしたので、昼間は新規事業のフィールドリサーチや共同研究等、有効に時間を使うことができました。また大学院では業種も専門も多彩なバックボーンを持つ方が院生として通っており、人的ネットワークを広げることができました。広島県の制度がなければこうした出会いもなかったと思いますので、大変感謝しておりますし、広島県の産業発展のために少しでも恩返ししたい気持ちでいっぱいです」と語る。

オンライン活用で全国の大学へ

コロナの影響による対応として、文部科学省では通学制の大学、大学院において、双方向性、同時性が確保されていれば、従来は認められていなかったオンライン教育を認める措置をとっている。大学院教育においては、ディスカッションやグループワークが中心となるため、完全なオンラインでは十分でない場合もあるものの、対面(教室での授業)とオンラインを併用するハイブリッド教育では、遜色のないレベルで教育が行われ始めている。

事業構想大では、いち早くハイブリッド授業を取り入れて、社会人大学生にとって最適なオンライン授業の環境を整備している。広島県の制度を活用して、イノベーション人材が輩出される良い循環の仕組みができることが期待される。

2021年度入学 事業構想大学院大学 修士課程説明会(オンライン)

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事業構想大学院大学