デジタルの分身で健康の未来予測 我慢しない行動変容を導く
IOWN構想で、医療健康分野の柱となるのが「バイオデジタルツイン(BDT)」だ。BDTにより、個人の状況に合わせた精緻な健康の維持、病気の予防や治療のほか、個人や人間集団の心身の状態の未来予測が可能になることを期待している。
身体の様々な不具合や不調を防いだり、適切な介入により良い状態に持っていきたい。このような目標の下、医療・ヘルスケアから、当事者による日常生活上の注意まで、様々な取組がなされている。一方で、現在の社会は高齢化や医療費の高騰、医療・介護の担い手不足といった課題を抱えている。優れた解決策を、より早く実用化しなければならない。
BDTは、サイバー空間における人それぞれの身体および心理の写像(デジタルツイン)だ。治療薬・医療機器、それを用いた治療法の開発や、感染症・肥満などの公衆衛生上の課題の解決には時間がかかるが、BDTはそのプロセスを大きく変える。NTTでは、IOWN構想の構成要素の1つであるデジタルツインコンピューティングによってこれを実現し、将来的には人間の心身の未来を予測しようとしている。
COVID-19で
デジタルツインに注目
「私たちは以前からBDTの必要性を認識し、心臓のBDTを作る研究を進めてきましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を機に、これを医療健康分野のR&Dの柱とすることとしました。COVID-19では症状や重症度、致死率、予後に関し、大きな地域差や個人差が見られます。対処法を考える上で、人それぞれをデジタルツイン化する技術は、ますます重要になっていると感じます」。
BDT の研究開発に取り組んでいるNTT研究企画部門のプロデュース担当チーフプロデューサー、林勝義氏は、こう語る。BDTでは、事前シミュレーションによる個人の治療や健康活動の最適化、より精緻で個別化された予防や治療・ケアを目指している。さらに、疾病の発生を事前に予測して対処するなど、心身の未来予測も実現していく方針だ。IOWNでは、常時モニタリングとリアルタイムでのシミュレーションが同時に可能になることから、従来の臓器シミュレーションの概念ではできなかったことも期待できる。
「人体のシミュレーションでは現在、一般的なモデルが使われています。BDTではこれをパーソナライズするところがポイントです。環境変化やそれまでの生活習慣を考慮し、個人のデジタルツインを作るのは難しいですが、まずは心臓で先行してパーソナライズを進めます。将来的には、その知見を他の臓器を複製する際にも役立てたいと考えています」。
BDTは、①臓器および臓器連関モデル、②個人情報(生理情報やそれに影響を与える行動情報)、③シミュレーター(臓器の動作状況の表示、心身の状態の未来予測、薬効等のシミュレーションの実施や結果の表示)によって構成される。
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