データ経済が変える、富・技術・統治のかたち

社会のデジタル化があらゆる領域で進む現在、経済のかたちが変わり、新たなビジネスが次々と生まれている。経営情報学を専門とする國領二郎氏は、変化に対応するためには、今の状況を"文明の転換"レベルで理解すべきと指摘する。キーワードはデータ・可視性・信頼だ。

データで"どこまでもつながる"社会

AI、IoT、DXという言葉が巷に溢れ、スマホひとつでさまざまなことができるようになった今、多くの方が「社会がデジタル化している」ことを理解しているだろう。この変化は、単にビジネス形態の変化という以上の意味をもち、"文明論"として理解すべきだと慶應義塾大学の國領二郎氏はいう。國領氏は今まさに立ち現れつつある変化を"サイバー文明"と説明する。

國領 二郎(慶應義塾 常任理事、慶應義塾大学 総合政策学部 教授、経営学博士)

「この前提に、大量生産・大量販売社会を築いた工業文明があります。大量生産したモノを売るためには大きなマーケットが必要で、マスマーケティングの概念が生まれました。ところが、工業文明が発達した時代の技術では一度売ったモノの行き先はわからず、ある人との売り買いは一度きりになることも多い。誰が買うか・使うかわからないという条件のなかで、匿名取引を可能にするお金を媒介にモノを交換する資本主義経済が発展してきたわけです」

今、私たちが目にするブランドやコマーシャル、また定価販売というモノを売る仕組みやルールは、"前工程・後工程が見えない"ことが前提となっている。ところが今、情報技術の発達でさまざまなデータが取得できるようになり、これらの工程が急速に"見える"ようになっている。

「電子書籍がわかりやすい例です。紙の本は販売後の行き先がわかりませんが、電子書籍では誰が何ページ目を読んでいるか、どこにブックマークしたかまでわかります。売った後も継続的に買い手と関係が持てるという点は、工業文明で形成された経済のあり方を根本から覆す変化です」

こうした"トレーサビリティ"、つまりモノや人、情報の流れの追跡・可視化が可能になったことがサイバー文明の特徴だ。また、工業文明では所有権とお金を交換し、そのお金を媒介にさらに他のモノと交換するという交換経済が形成された。今後はこのあり方も変化するという。

「例えば、医療データは集積したほうが明らかに価値があります。そこから浮かび上がるのが個々人が社会にデータを提供して情報の価値生産に貢献するかわりに生み出された価値の分配を受けるという社会のあり方です。従来の、個人と個人の所有物の交換が軸となる経済から、"社会の情報価値の創造に貢献して、果実を社会から受け取るモデルが軸となってきます。実際に、中国のように社会がデータを管理するモデルと、データはあくまでも個人のもので、個人の判断に基づいて開示を決めるという欧米型のモデルで深刻な対立も起きています。サイバー文明経済の在り方として、発想の異なる経済が競争を始めているのです」

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