2020年10月号
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持続可能な社会のための千年科学技術

不確実な状況を切り抜けるための「順応的管理」と「予防原則」

沖 大幹(東京大学 大学院工学系研究科 教授)

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現代社会のキーワード“持続可能”。これが具体的にどういったことか、イメージできるだろうか。本連載では、長年、水文学の視点から環境の持続可能性を研究してきた沖大幹氏に、千年先の世界を見据えた持続可能な社会の要件をさまざまな角度から解説いただく。

まだまだ
“わからない”COVID-19

新型コロナ感染症(COVID-19)の感染拡大が続いている。5月にいったん収まったかに見えた新規感染者数も、6月になってからじわじわと増え始め、本来であれば東京オリンピックが開幕する予定であった4連休を契機として全国で新規感染者数の増大が観察された。

4月の第一波の際に比べると、7月の第二波の方が感染者数は多いものの、重症患者数や死者数はそれほどでもない。これは4月の際に本来感染を確認すべきだった患者へのPCR検査がなされなかったため当時の感染者数は過小評価されているからだという見方がある一方で、ウイルスが弱体化したのではないか、という希望的な観測もある。

いったんCOVID-19に感染して抗体を獲得したら二度と感染しないのか、それとも数カ月で抗体はなくなってしまうのか。野外など開放空間であれば感染のリスクは低いのか、バーベキューなどではトングなどを介した接触感染や、会話の際の飛沫感染が生じ得るのか。欧米と東アジアや東南アジアとでは人口あたりの死亡率に大きな差があるが、人種の差ではないとしたら何の違いが死亡率の差をもたらしているのか。そもそも感染者全体のうちどのくらいが無症状で、それはどの程度年齢に依存しているのか。

こうした疑問に対し、国際的な情報交換によってある程度は知見が蓄えられつつあるが、半年後には全く逆の通説になってしまっている可能性もある。

“不確実性”に対応するための
2つの指針

データが蓄積し、研究が進んだ後になってみれば、これまでの各国のCOVID-19感染防止策の一部は不適切だったと判明するかもしれない。しかしそれは後出しじゃんけんのようなもので、不確実な情報に基づき、その時点その時点で最善だと考えられる対応をせざるを得ないのが「新型」感染症リスクの特徴だろう。

しかも、地震や電源喪失事故のように、生起してしまったら社会的な対応をする間がほとんどないままに甚大な被害が生じるわけではなく、感染症の場合には増大しつつある脅威に対してある程度対策を講じる時間の余裕がある。

この場合、増大しつつある脅威による被害を抑え込もうとする新たな対策が、特定の人やビジネスにそれなりの経済的あるいは社会的な損失をもたらす可能性があり、そうなると例えば感染症対策と経済振興のバランスをどう取るかに関して社会的な意見の対立が生じてしまう。

こうした構図は環境問題ではしばしば観察されている。1992年の国連環境開発会議で採択されたリオ宣言第15原則では、「深刻な、あるいは不可逆的な被害のおそれがある場合においては、完全な科学的確実性の欠如が、費用対効果の大きな対策を延期する理由として使われてはならない。」という“ 予防原則(precautionary principle)”が述べられている。

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