2020年2月号

Topics

配電網の「地域化」で何が起こるか 自治体・地域の役割が増す

稲垣 憲治(京都大学大学院プロジェクト研究員)

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経済産業省は「持続可能な電力システム構築小委員会」(以下「委員会」)において、一般送配電事業者から電力の配電網を譲渡又は貸与され運用を行う第三者を「配電事業者」として位置付け、ライセンスを付与することを検討している。本稿では、「配電網」に焦点をあて、管理・運用主体の在り方や、自治体・地域の役割について考えたい。

電力の送配電網は、一般的に66,000Vから6,600V等に変圧する配電用変電所を堺に送電部門と配電部門に分かれる。現在の日本では、一般送配電事業者(東京電力パワーグリッド、関西電力など)によって配電部門と送配電部門とは一体となって運用管理がなされているが、技術的・実務的に送電と配電を分けることは可能である。英国・米国・独国などは送電部門と配電部門の事業者が異なっている。

送電・配電の区分けと現在の費用構成(電力10社合計)(イメージ)
※電力・ガス取引監視等委員会 送配電網の維持・運用費用の負担の在り方検討ワーキング・グループ 中間とりまとめ(2018年6月)より抜粋

今回の配電事業の開放検討の背景には、「配電網の管理・運営コスト削減」と「レジリエンス向上」「新規ビジネス創出への期待」がある。特に、配電網の管理・運営コストの削減は、上下水道、道路、橋梁など他の社会インフラ同様に喫緊の課題である。人口減少や省エネの進展によって、電力需要の伸びが頭打ちになると予想される一方、今後は高度経済成長に整備された送配電網の維持管理・更新が発生してくる。配電網の計画的な更新(場合によっては廃止)、効率的な維持管理が必要な状況にある。このような中、これまでは一般送配電事業者が山間地・過疎地等を含め全ての送配電網を維持・管理してきたが、その運用方法の見直しが検討されている。

電力需要の推移
※経済産業省電力・ガス取引監視等委員会 送配電網の維持・運用費用の負担の在り方検討ワーキング・グループ 中間とりまとめ(2018年6月)より抜粋

設備更新投資の増大
※電力・ガス取引監視等委員会 送配電網の維持・運用費用の負担の在り方検討ワーキング・グループ 中間とりまとめ(2018年6月)より抜粋
※本グラフは66kV~500kVの「送電」部門のデータだが、配電部門でも同様の傾向があると推察される

配電網の他の社会インフラとの
一体的な管理・運営

経産省の同委員会においては、一般送配電事業者以外の第三者による想定される配電事業のモデルとして他の社会インフラとの一体的運用が挙げられている。例えば、上下水道、道路、地域熱供給、ケーブルテレビなどの管理・運営を請け負う事業者が配電網の管理等も併せて行うことで、①住民対応・修理・修繕の共通化、②巡回点検の共通化・効率化などが図れる可能性がある。一方で、配電網の管理・運営に係る技術はいわゆる電気技術が主であり、土木的な技術が主となる上下水道などの技術の横展開が難しいとの見方もある。一般送配電事業者が広範囲に管理するより、ローカルでの一体管理が、どの程度経費が圧縮できるかがポイントとなる。

配電事業のビジネスモデルのイメージ
(令和1年11月20日経産省持続可能な電力システム構築小委員会資料より)

配電網の潮流合理化による
ダウンサイジング

また、今後、配電網に太陽光発電などの再生可能エネルギーが多く接続されるようになるとそのエリアにおける電力品質(電圧等)を維持するため、配電網への設備追加(変電所への逆潮流防止装置など)が必要になるが、地域のEVやデマンドレスポンスできる機器をAI・IoTを活用して制御することで、エリア内で電力需給調整を可能とし、配電網の増強回避や配電網のダウンサイジングができる可能性がある。これらを得意とする事業者により、配電網を流れる想定潮流の合理化や、課金体系の工夫等を通じて、設備のサイズダウンやメンテナンスコストの削減が期待されている。上下水道によるデマンドレスポンスなど、配電網の運用を踏まえた社会インフラの協調もしやすくなるかもしれない。

山間部・過疎地における
独立系統化の検討

山間部等の過疎地における配電網の管理・更新経費の低減については、山間部等に至るまでの長距離の送電線を廃止し、独立系統化して地域分散電源による電気供給も議論されている。今後、人口減少や地方の過疎化が更に進展すると見込まれる中、山間地域や過疎地域への送配電設備に係る投資・維持の費用対効果は、相対的に低くなると考えられるためである。また、災害時に山間地まで続く送電線のどこかが切れてしまうと山間地は停電してしまう可能性が出てくるが、独立系統化しての地域分散電源による電気供給は、停電リスクを低減することが期待されている。この独立系統における配電事業の担い手は、これまでどおり一般送配電事業者が想定されるが、一定の負担金を一般送配電事業者が拠出しながら、管理・運用までを地域インフラ事業者に任せてしまうことも考えられる。

注:配電事業者の配電網賃借料や回収方法などについては、今後検討されることになっている。

山間部・過疎地等における系統独立化イメージ
(令和1年11月8日経産省持続可能な電力システム構築小委員会資料より)

配電事業のノウハウは徐々に蓄積

これまでも工場やコンビナートにおいては自家用発電機からの電気を自営線によって融通する取組は行われていたし、近年では再エネなどからの電気を自営線を用いて供給する特定送配電事業も徐々に広まりつつある(※)。また、経済産業省の「地域マイクログリッド構築支援事業」においては、自治体が関与しながら12地域がマイクログリッド構築を検討している。一般送配電事業者以外の者による配電網の管理・運用ノウハウが徐々に蓄積しつつあるともいえる。

※自治体が関与する地域新電力の中では、例えば一般社団法人東松島みらいとし機構、ひおき地域エネルギー株式会社、そうまIグリッド合同会社が実施している。

地域マイクログリッド構築支援事業で採択された12地域

配電網の地域化の可能性と
地域のメリット

配電事業者のライセンス付与の要件、第三者が配電事業を行った場合の配電網接続に係る公平性の確保など種々の制度設計はこれからである。また、現時点で一般送配電事業者以外の第三者が配電事業を実施することが、社会的に合理的となるエリアは限られるかもしれない。

しかしながら、例えば、①再エネが配電網に多く接続されており、②地域に配電網の運営・管理との合理化・相乗効果を図ることができるインフラを管理する事業者がおり(上下水道、道路、ケーブルテレビなど)、③一般送配電事業者の管理コストが高い地域などで、第三者による配電事業が社会的にもメリットある形で実施される可能性はある。そうなれば、地域にノウハウが蓄積され、(地域で業務を内製化することができれば)地域経済循環が生じ、持続可能な地域の発展に寄与することが期待される。

また、仮に一般送配電事業者以外の「配電事業者」が配電網を管理・運用するだけではく、新設・更新・廃止も行うことが可能となるのであれば、大きな意義がある。分散型電源導入などを踏まえた配電網の増強・更新は重要なテーマである一方、現実的には、人口減少社会に突入し、今後ますます配電網の「ダウンサイジング」が重要となってくる。ダウンサイジングは現実的には、どこを更新しないか、廃止するかを決めることが重要になり、その実施にあたっては、広域を所管する一般送配電事業者より、やはり地域の事業者が地域の実情に応じて細かく行うことが一番効果的かつ摩擦がないとも考えられる。

更には、例えば、自治体が関与する地域事業者が配電網の維持管理・建設計画を担うことで、どの地域の配電網に投資をしてどの地域の配電網をなくしていくといった計画検討を、自治体が策定する都市計画・地区計画と密に連携して実施することが可能になるといった効果も生まれる可能性がある。

同委員会においても「新しい配電事業の姿としては、自治体が関与することで住民意思の反映が可能になるのではないか。今後、具体的なルール作りが必要」との意見もあり、これまで国・電力会社の領域だった配電事業においても自治体・地域の役割が増しそうだ。

過去、国の政策のもと大手電力が実施してきた電力事業は、再生可能エネルギーの拡大を背景「発電」が地域化し、電力自由化などを受けた地域新電力の広がりのもと「小売」が地域化しつつある。ここにきて「配電」も地域化の可能性が出てきている。これら地域エネルギー事業は、とても困難な「地域創生」への1つのツール、トリガーになるかもしれない。

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   TKPスター貸会議室 茅場町
定員:85名(先着順) 参加費:無料 

プログラム:
1.地域経済循環を図るドイツの都市計画・まちづくり
(村上 敦氏 一般社団法人クラブヴォーバン代表、在独環境コンサルタント)
2.地域でもてなし地域で稼ぐ「まちやど」(分散型ホテル)
(宮崎 晃吉氏  一般社団法人日本まちやど協会 代表理事)
3.再生可能エネルギーと地域新電力で地域にお金を回す
(青山 英明氏 一般社団法人 ローカルグッド創成支援機構 事務局長)
4.地域資源が地域循環を引き起こすマーケットとは何か
(鈴木 美央氏 O+Architecture主宰)
5.地域の稼ぎ・地域経済循環を見える化する
(稲垣 憲治 京都大学大学院プロジェクト研究員)

※本稿は京都大学大学院における研究一環で調査・検討した個人見解等であり、所属する団体の見解等を示すものではありません。また、制度面など公的資料等を基に記述の正確性には十分留意しておりますが、本稿に起因する損害について筆者が責任を負うことはできません。

 

稲垣 憲治(いながき・けんじ)
京都大学大学院プロジェクト研究員

 

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