2019年12月号

「事業をつくる人」を育てる

組織内の潜在的なイノベーターを起動させる、新たな人材育成の本質

小野 淳哉(事業構想研究所 教授)

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新規事業を創出し続ける組織に変革していくには、イノベーターが必要だ。そして、イノベーターの素養がある人材は気付いていないが、既に組織内にいる。その潜在的なイノベーターを起動させる、新たな人材育成の本質を紹介する。

既存事業の延長線上に
ゴールはあるのか

平成の時代に、日本企業は活力を失ったと言われる。事実、現在世界の株式時価総額TOP20に日本企業は入っておらず、一人当たりのGDPも4位から26位へと順位を落とした。日本の産業構造は、30年前と比較してほとんど変わっておらず、既存の延長線上にゴールを求める事業活動を、日々繰り返しているように映る。

一方で事業環境は2つの観点から大きく変化している。一つは、グローバル競争の中で、顧客への提供価値を創造していくためには、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用していくことが今や必要条件となっていること。もう一つは、地球環境問題を起点として企業は単なるCSR活動ではなく、ESG経営を強く問われるようになったことだ。

全ての従業員に
イノベーターとしての素養あり

現在日本企業は経営戦略を見直し、M&Aによる事業の「入れ替え」、「選択と集中」によりグローバル競争で勝ち残るべく事業の再編を加速させているが、この環境変化を捉え、自らの事業の社会的意義を見つめ、顧客へ提供価値を創出し続ける企業へと変革していくためには、新規事業を連続的に生み出す組織能力が必要となる。そのためには今こそ経営トップが主導し、企業の最も重要な資源である人材、特にイノベーターの育成に力を注ぐことが必要であろう。

現実には日本企業の組織は、「縦割り」、「リスクへの恐れ」が根強く染みつき、イノベーションを阻害する要因となっているケースが多い。縦割り組織の内部にいる従業員は、一般的に組織のヒエラルキーに基づき自分の役割が決められるため、その役割を超えて発想することは難しい。

一方で、多少の向き不向きはあるが全ての従業員にイノベーターとしての素養はあり、「動機付け」、「新規事業を真剣に検討する場」、「事業構想の考え方」等を提供することにより、本人にそれを気付かせ、内発的動機に基づく現場での行動変容につなげることは可能である。

事業構想大学院大学のプロジェクト研究からも潜在的なイノベーターの存在を確信している。

事業構想の主体は
「顧客」ではなく「自分」

事業構想の起点は、本人の未来に対する問題意識、好奇心、経験や原体験による各自の視点にあり、そこから不確実な未来に対してどんな世界を作りたいのかを考えることが求められる。そして、バックキャスティングによりこのビジョンを実現するための課題と対象となるステークホルダーを明らかにし、手段としてテクノロジーを効果的に活用することによりユニークな解決策を見出し、提供価値を明確にしてビジネスモデルを構築していく。

これは、既存事業の顧客ニーズに応えるという単純なビジネスプロセスからは経験することはできない。事業構想の主体は、「顧客」ではなく「自分」にあるからだ。

現実には、大企業の一般的な現場の従業員は、新規事業の開発をほとんど経験することがない。そのため、環境変化に対しても非常に狭い視野で捉えていることが多い。組織内に新規事業開発部門が存在する場合でも、実際に自らの構想をもとに新規事業を立ち上げた経験を持つ人材は一握りであることが想定される。企業内イノベーターを育てていくには、未来に対する強い問題意識もっている人材に対して自らの構想を発露する機会を提供することが必要だと思う。研修等を通じて実際に新規事業開発を経験させることも効果的だ。

一方で、社内でこれらの新規事業構想に関する人材育成のカリキュラムを独自に開発し指導することは難しいケースも多く、産学連携に解決策を求めるのも一つの方法であろう。

事業構想の考え方

出典:著者作成

 

既存事業と離れた「出島」が
新規事業の孵化器となる

これらの経験を通して生まれたイノベーターと筋のいい事業構想を、社内でどのように育て、将来のビジネスの柱にしていくかを十分に検討しておく必要がある。特に大企業は資産も多く、目の前にやるべきことは沢山ある。そのため、既存事業から見ると直近の事業へのインパクトの観点から新規事業は余計なことに見られることも多い。そのため、理想的には経営トップの理解の元で、既存事業と離れた「出島」を作り、リソースと自由度を与え、経営サイドが側面支援しながら成長を見守ることが必要ではないかと思う。さらに、新規事業を立ち上げる際は、既存事業と異なる制度や仕組みが必要となることも多く、経理、人事等の専門職能部門の理解と協力は不可欠だ。イノベーター本人は、自分が主体となって考えた事業構想であること、即ち自分がやりたいことであるからモチベーションは高く、成果を求めて真剣に取り組む。

このように、イノベーターと事業構想の孵化器としての機能を組織に組み込み、既存事業を成長させつつ、連続的に新規事業を生み出すプロセスを生成していくことがこれからの事業発展の原動力となるのではないかと考えている。

 

小野 淳哉(おの・あつや)
事業構想研究所 教授

 

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