リカレント教育時代の実務家教員 経験を体系化し次代に受け継ぐ

なぜ、豊富な実務経験を持つ「実務家教員」が、今後ますます必要になるのか。暗黙知から形式知、ナレッジ・マネジメントを超えて、実務の経験を体系化し、次世代に受け継いでいくには、どうすればいいだろうか。

社会人の学びの大変化

現在、日本の教育は大きなターニングポイントにある。2020年の入試改革や教育指導要領の施行など〈こども〉の学びが取り上げられるなかで、実は〈大人〉の学びにも大きな変化が訪れようとしている。拙稿(「専門職大学の課題と展望」月刊事業構想2018年8月号p.140-141)でも触れたが、2019年からはじまる専門職大学である。専門職大学は、ただ単に職業教育を中心とした高等教育機関ではない。リカレント教育の場としての機能も期待されているのである。新たに専門職大学が制度化され、職業教育あるいは高度専門職業人の育成を担う「実務家教員」の役割がますます重要になってくる。

実務家教員の3つの要素と実践知の体系化

出典:筆者作成

実務家教員とはなにか

そもそも「実務家教員」とは何か。少し歴史を遡ると、1985年、大学設置基準の教授資格に「専攻分野について、特に優れた知識及び経験を有し、教育研究上の能力があると認められる者」が追加されたところに端を発する。実務家教員の重要性が高まったのは、高度専門職業人(高度の専門性が求められる職業)の養成を目的とした専門職大学院が制度化されてからである。

「専門職大学院」というと馴染みがなければ、ビジネス・スクール(MBA)、法科大学院や教職大学院を想定すればよいだろう。法科大学院で2割以上、教職大学院で4割以上、一般的な専門職大学院では3割以上の実務家教員を配置することが必須条件となっている。

実務の経験や能力を生かして専門職教育を行うのが実務家教員ということになる。実際、実務家教員は概ね5年以上の「専門分野における実務の経験を有し、かつ、高度の実務能力を有する者」(専門職大学院設置基準)と定義されている。

高度に専門性が求められる職業と聞くと、ハードルが高そうなイメージがある。だが、よくよく考えてみてほしい。現代のように高度に複雑化した社会においては、それぞれの実務において多様な知やスキルが必要とされているのである。皆それぞれが、状況にあわせた高度な実務の経験を有しているといってよいのではないだろうか。多様な知やスキルを要求される社会においては、それらに応える様々な実践知を教育することが求められるのである。私見が許されるのであれば、このように言ってもよいだろう。知やスキルが多様化した社会におけるリカレント教育の本質は、「一億総実務家教員」なのではないだろうか。つまりリカレント教育が要求される社会においては、誰しもが実務家教員としての素養を持ち合わせている必要があるのである。

実務家教員の条件

実務家教員としての必要な条件はなんだろうか。ひとつは専門職大学設置基準に示されているとおり、専攻分野における実務能力と経験である。そして、教員としての教育指導能力が求められていることは言うまでもないであろう。

ところが、今般制度化される専門職大学によって次のような要件が加えられた。必要とする専任実務家教員の二分の一以上は、研究能力を併せ有するものでなければならない。つまり、すべての実務家教員に必須ではないにしろ、これまでの実務能力と経験そして教育指導能力のほかに研究能力までもが求められるようになっているのである。

実務の経験を体系化する

よく考えてみれば、実務経験・教育指導能力・研究能力はそれぞれ関連しあっている。つまり、自分の実務経験を振り返って、その経験を第三者から見てもわかるように体系立てて整理し、従来の通説(理論)と比較をする。体系だった経験知だからこそ、系統的な教育が可能となるわけである。そうして蓄積された知が、新たな実務経験や専門職業を遂行する上での手がかりへとなる。つまり、実務家教員としての3つの素養は何も実務家教員だけにしか使えないものではない。何気ない日常の業務でも役立つ汎用性のある能力なのである。

暗黙知から形式知、
ナレッジ・マネジメントを超えて

理論と実践を架橋する専門職教育、そして専門職教育を支える実務家教員にはひとつの大きな課題がある。それは、まさに実務経験という暗黙知をどのように形式知と化し、体系化した実践知(専門職知)とすることができるのかという問いである。この課題は、看護でもビジネス・マネジメントでも行政でも、介護でもすべての専門職教育に共通する。

「理論と実践を架橋する」ための方法論が実務家教員、専門職教育には不足しているのである。そうした実践知を体系化する方法論として、省察的実践やナレッジ・サイエンス、知の理論(TOK)など手がかりとなるものは無数にある。もちろん、実践知を育むだけが専門職教育の課題ではない。実践知を体系的に指導するには、いわゆる教育学(Pedagogy)だけでなくアンドラゴジー(Andragogy)という成人教育学も考慮する必要がある。

そもそも実務家教員がクローズアップされ始めたのが最近であって、今後も様々な観点から実務家教員養成について考えなければならないだろう。リカレント教育の実践知をつくるのは一億総実務家教員なのではないだろうか。

実務家教員養成課程 研修員募集のお知らせ

自身の経験を体系化し、
次世代に受け継ぐ「実務家教員」を養成します。


■対象者
 大学、専門学校、各種学校等の教員を目指す方
 次世代に自身の経験、技術、知識、ノウハウなどを継承したい方
 ※ポスドク・専門職大学院在籍の方もご相談ください。

■養成する能力
 カリキュラムの作成、教育方法の習得だけでなく、
 論文作成などの実務家教員として必要な研究能力まで養成します。

■開講時間帯
 全30講(週1日2コマ×15週) ※1コマ=90分
 10月より開講
 昼課程 13:00~16:00
 夜課程 19:00~22:00

■セミナー・説明会
 日時:随時開催中
 場所:東京・大阪・福岡
 参加費:無料 ※事前申込が必要です
 申込:https://www.sentankyo.ac.jp/event-faculty/
 お問い合わせ:学校法人先端教育機構 先端教育研究所 実務家教員養成課程事務局
 TEL: 03-3478-8401 e-mail:info@sentankyo.ac.jp