2018年7月号

21世紀のモノ作りとは?

Appleが示すモノ作りの行方 イノベーションの真髄は設計にあり

吉川 智教(早稲田大学ビジネススクール元教授、横浜市立大学名誉教授)

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グローバルな分業化が進み、先進国のモノ作りが大きく変化している中で、日本のモノ作りは、どのように変わるべきか? これからのモノ作りの方向性を「Designed by Apple in California, Assembled in China」から読み解く。

製造と設計の地理的分離が進行

多くのApple製品には「Designed by Apple in California, Assembled in China」と書かれています。これは「Made in USA」とも違うし、「Made in China」とも違います。

意味することは、米国のカリフォルニア州で設計され世界各国で作られた部品を、中国で製品として組み立てている、という意味です。経済学で言う『製造と設計の地理的な分業化』という現象が起きています。

単なるモノ作りでは競争に勝てなくなっていることが、21世紀のモノ作りの特徴です。これは、米国で生産までを行うといった単なるモノ作りでは、利益が出ないことを明確に示しているとも言えます。人件費が5、6倍もする地域でモノを作ることの困難さを示しています。

いずれ新製品はコモディティ化

モノ作りの変化は、新製品の寿命にも表れています。

他に同じような製品がなければ、新製品は高く売れます。かつて、そうした新製品は先進国から生まれていました。場所も、最初は開発した場所や都市部で作られていました。開発と製造の場所が一致していたのです。

それがある期間を経ると、新製品に対して類似品が出回ります。そうすると価格競争が始まり、価格を安くしないと売れなくなります。都市では人件費も高いため、地方に生産拠点を移行し、製造コストの低減を図ります。

そして、さらに生産コストを削減するために、開発途上国へ生産拠点を移転します。このような段階で、生産の空洞化が始まります。日本でも、1990年から2000年にかけて、工場が海外へと移転する空洞化現象が見られました。

長期で見ると、このようにして新製品も、最終的には100円ショップや安売り店でも売られるような商品になり、コモディティ化の道に進みます。

競争の第一条件となる
「機能」は変化

新製品が登場し、それがコモディティ化するプロセスは、上で述べたとおりです。ここでそのプロセスを、「Design、設計」に関してのイノベーションという視点で詳しく見てみましょう。

新製品の競争に関して、PCを例に機能種類の変化を確認しましょう。かつてのPCは、処理スピードが早いことが競争の第一条件でした。ところが処理スピードが早くなり、顧客が要求する技術レベルを超えると、いくら高度な技術を使って処理スピードが早くなっても、顧客は、それ以上の技術を評価しなくなります。

次の段階では、未だ顧客が満足しない他の機能が求められます。それが、例えば、画像処理の技術とすると、その技術に関しての競争が新たに始まります。つまり競争の対象となる技術の種類が変化していくのです。

10年程前の例ですが、ソニーのプレイステーション3と任天堂のWiiの売れ行きの差にも、それを見ることが出来ます。画像が奇麗なのはソニーのプレイステーション3でしたが、任天堂のWiiの方が数倍も売れました。

それは、なぜなのか? 画像の機能に関して、プレイステーション3とWiiは両方とも、当時の消費者の要求レベルを超えていたのです。したがって画像に関しては、プレイステーション3とWiiに対する消費者の評価には差がありませんでした。

しかしながら、プレイステーション3のコントローラとWiiのコントローラを比較すると、遥かにWiiの方が簡単な操作が可能です。この点、プレイステーション3のコントローラは消費者の要求レベルを超えておらず、軍配はWiiに上がったのです。特に一般の消費者にとって、このコントローラの使い易さは、大きく影響したと考えられます。

このように『望ましい技術の種類と技術レベル』は、企業ではなく消費者が決めることを理解しないと、『特定の技術レベルは高いれども、イノベーションには成功しない』という、しばしば日本企業で指摘されている現象が起こります(図参照)。

図 クリステンセンの理論

(出典)C.クリステンセン(2003)

 

任天堂Wii のコントローラには3軸加速度センサーが内蔵され、ユーザーは物に見立てて振り動かすことで、ゲームを操作することができる

イノベーションの焦点は、
「Design、デザイン」に

最近の新製品のめまぐるしい変化を見てきました。この数年、スタンフォード大学ではしばしば、B.SchoolからD.Schoolへと言われています。B.SchoolとはBusiness Schoolのことであり、現在のイノベーションの焦点がDesignに移りつつあることを表しています。

もちろん、スタンフォード大学には、Design Schoolはありません。D.Schoolは正式な形態は取っていませんが、ワークショップを中心とした場です。Piscione(2013)によれば、特に、工学理学系の博士課程の学生を中心として、自分の専門を生かして、新しく何かを解決するような機械・器具を設計しようとする、イノベーションを試験的に実施する場になっています。

大変に興味ある動きです。それぞれの専門分野を持つスペシャリストが、現在解決されていない特定のテーマ・課題に対して、具体的に解決するための機械・装置を設計して作る。その教育を具体的に行っているのが、D.Schoolです。

「Design」という言葉は、もともとはラテン語で、英語のdesignateやdelegationと同じ意味で、「権限を委譲する」、あるいは「代理を派遣する」という意味です。したがって、Designのもともとの意味は、開発者の権限や意図をその製品に委譲するという意味と理解して良いでしょう。

イノベーションの元となる製品やサービスを設計することは、イノベーションにつながる開発者の意図をいかに具体的に設計図に委譲するか、と言い換えることも出来ます。

21世紀に入り、先進国のモノ作りは大きく変化しています。日本が得意としていた『高品質、短納期、低価格のモノ作り』ではなく、消費者が望む機能を備えたモノ作りに変化しています。そして、その真髄は多くの場合、「Design、設計」にあるのです。

スタンフォード大学のキャンパス。同大のD.Schoolに象徴されるように、近年、「Design」への注目は高まっている

 

<参考文献>

・Christensen, Clayton,2003、『The Innovator `Solution』Harvard BS Press,イノベーションへの解(翔泳社)
・Piscione P. Deborah, 20013, 『Secrets of Silicon Valley』
・Palgrave Macmillan
・吉川智教、2016、『クレイトン、クリステンセンのイノベーターのデレンマの分析枠組とその意義に関して』
・P89-96、早稲田大学、WBS研究センター、早稲田国際経営研究,No47

 

吉川 智教(よしかわ・ともみち)

 

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