2017年11月号

PV至上主義からの脱却

PV至上主義に限界 メディアのマネタイズはどう変わる?

杉本 哲哉(グライダーアソシエイツ社長)、嶋 浩一郎(博報堂ケトル代表取締役社長・共同CEO)

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ネット上には、閲覧を集めることだけを目的に作られた情報があふれる。情報提供の質を維持したいメディア側では、一次取材の資金源確保が課題だ。玉石混淆の情報が世の中に氾濫する時代、広告を含めたメディアの在るべき姿を考える。

事業構想大学院大学主催、「メディアのイノベーション」というテーマでトークセッションが行われた

一次取材の重要性

インターネットが普及し、誰もがスマホひとつで情報収集や発信のできる時代、メディアに変革が起き始めている。

キュレーションアプリ『antenna*(アンテナ)』を運営するグライダーアソシエイツの杉本哲哉社長は、「ひとつのモノにみんなが集まる時代から、それぞれがデバイスに向かう時代となった。インターネットそのものはメディアではなくひとつの技術ですが、そこにメディア然としたものが生まれはじめています」と話す。

antenna*は、生活情報を中心としたキュレーションアプリ。東京を生活圏、意識圏とする人をターゲットに情報を集め、オリジナルなコンテンツを創りあげることで、独自の世界観を生み出している。さらに、コンテンツとネイティブアドを組み合わせ、コンテンツと広告を一体的に届ける取り組みにも力を入れている。

「デジタル化が進めばコンテンツがパーツ化します。パーツ化すると、配信がゲリラ化していくでしょう。そうした時代には、コンテンツと広告のマッチングを考えていく必要があります」(杉本氏)。

一方、1993年に博報堂に入社し、2006年、博報堂ケトルを立ち上げた、広告のスペシャリスト、嶋浩一郎氏。"手口ニュートラル"をコンセプトに、これまでの広告制作の既成概念にとらわれない、新しいスタイルの広告を創りだしている。

その嶋氏がデジタル時代のメディアに対し最も懸念するのは、マネタイズの問題だ。「メディアの行う一次取材にはそれなりの費用がかかります。PV(ページビュー)を換金するだけの現在のマネタイズ手法では、多くのメディアが現在行っているクオリティの一次取材はペイできません。これは、重大な問題です」(嶋氏)。

 "ガチャピンとムックが喧嘩した"といったブログから引っ張ってきたニュースと、新聞社が特派員を海外に送って書いた記事が、同じPVで同じお金しか稼げないとなれば、これは確かに問題だ。

昆虫化するメディア

取材があり、報告文がある。それを朝日新聞やニューヨーク・タイムズで発表するのか、それとも個人ブログで発表するのか。選べること自体は悪いことではない。問題は多くの人に見られれば儲かる、すなわちリーチの数、PVの数、ユーザー数だけが収益に比例するビジネスモデルが常態化していることだ。

杉本氏は「メディアの昆虫化」を危惧する。昆虫は、自分たちの種を保存するために徹底的な拡大を図り、非常に成功した生物となった。系統樹でも進化の最高段階に位置している。

 「メディアはいま、自分たちの種を保存することに飽くなき執着心があると思いますが、何の目的でそのメディアが存続しなければならないのか、そのメディアが存続した結果、世の中に何をもたらすのかといった部分が欠けていると感じます。多くの人に見られれば力があり収益があるというのはメディアの本質である反面、それが全てというのでは、正しい生き残りかたとは言えません」(杉本氏)。

多くの人に見られることが正義だという側面が広告やメディアにあることは否めない。ただ、節度は重要だ。水道のパイプに猫が首をつっこんでもがいている動画が5億回再生されたとして、その動画配信者に多額のお金が入るという仕組み。メディアは、それとは一定の距離を置くべきだ。

新しいマネタイズ手法が必要

嶋氏は「最終的に必要なのは、リテラシーとリスペクト」だと話す。リテラシーの面では、これからの時代、その情報を誰が選んで、どんなアルゴリズムで配信されているのかといったメカニズムを、情報の受け手側も知っておくことが大切だ。そして、一次取材をして情報を提供した人へのリスペクトを忘れてはならない。

リスペクトの最高のカタチはお金を払うことだが、読者への課金だけでなく、広告主がお金を払うのも媒体へのリスペクトと言える。antenna*のような独自の世界観を持つ媒体へ、世界観に見合った広告を出すといった仕組みが広がっていくことが理想的だ。

電通の吉田秀雄元社長が1950年代に作ったメディアの換金システムのビジネスモデルが機能し、新聞社もテレビ局も潤沢な広告収入を得てしっかりとした一次取材を実現してきた。デジタル化の進むいま、それに代わるマネタイズシステムが必要だ。

「PVではない、クライアントからネットメディアへお金が渡る新しい手法を、広告会社もクライアントも考えていく必要があると感じます」(嶋氏)。

メディアのゲリラ化を防げ

デジタル化が進めば、自分に合ったもの、好きなもの、耳障りや目障りでない口あたりのいいものだけを集約して集めることも、技術的には可能になる。コンテンツはパーツ化し、それらがまとまっている意味はなくなり、テレビで言えば編成、雑誌なら編集、新聞で言えば整理の機能が抜け落ちていく。

杉本氏は「最も怖いのは、コンテンツやメディアがゲリラ化していくこと」と言う。

これまでは、一定レベルのトレーニングを受けた人たちが、良識、知見、教養を持ったうえで選択し取材し編集した情報を発信していた。このため受け手は信頼を担保された情報を得ることができた。

デジタル化が進み、PVを取ることだけを主眼に発信された情報の中には、それが本当に今一番見るべきものなのかと思えるコンテンツも多々ある。

「デジタルメディアはいま、本物になれるかどうかの境目にきていると感じます。ブランドリフトできるメディア、真のジャーナリズムを育てていくためには、昆虫化を止め、節度あるところに上っていく必要があると感じます」(杉本氏)。

PV至上主義からの脱却、独自の世界観の構築、オーディエンス側のコンテンツへのリスペクト...。こうしたことが、次世代デジタルメディアを構築するカギとなりそうだ。

 

杉本 哲哉(すぎもと・てつや)
グライダーアソシエイツ社長

 

嶋浩 一郎(しま・こういちろう)
博報堂ケトル代表取締役社長・共同CEO
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