2016年12月号

自然の宝庫は、ビジネスチャンス

スマホを「命を守る」ツールに 電波がなくても使える地図アプリ

春山 慶彦(YAMAP 代表取締役)

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リリース以来約3年半で、日本最大級のアウトドア・プラットフォームへと成長したアプリ「YAMAP」。開発・運営を行うベンチャー企業、YAMAPの代表・春山慶彦氏は「人間の生きる力は、自然の中でこそ磨かれる」と信じる。

「YAMAP」は、あらかじめ地図をダウンロードしてスマホに保存しておくことで、電波が届かない山の中でもスマホで自分の位置を確認できる

「スマホのすごさは、デバイスと位置情報が結び付いていること。だから、スマホは単なる便利な道具じゃなくて、命を守る道具になり得ると思っています」

YAMAPの春山慶彦代表は、こう切り出した。とはいえ、一般の地図アプリは、地図を表示するのに携帯の電波を必要とするため、携帯の電波が届かない山の中や海の上では使うことができない。

そこで、春山代表らが開発したのが、新しい地図アプリ「YAMAP」だ。最大の特徴は、あらかじめ地図をダウンロードしてスマホに保存しておくことで、電波が届かない山の中でもスマホで自分の位置を確認できること。さらに、ユーザーは「活動日記」を記録し、他のユーザーと山の情報を共有することができる。

「YAMAP」は2013年3月のリリース以来、ダウンロード数42万件超、月間PV約3200万という、日本最大規模のアウトドア・プラットフォームに成長している。

屋久島、そしてアラスカが原点

春山代表の自然への興味は、屋久島が原点だ。大学時代、屋久島で出会った旅館の主人から、モリで魚を獲る漁の仕方、魚のさばき方、植物の見分け方などを1ヵ月間教わった。教わる中で自然のすごさを知り、こんな世界が自分の「すぐ隣」にあったことに衝撃を受けたという。

大学に戻り登山をするようになり、出会ったのが星野道夫の写真集。そこから足はアラスカへと向かう。

「自分の手で動物を獲ってさばいて、食べ物や衣服にするという人間の原点を経験したくて」、大学の夏休みの1ヵ月、アラスカの先住民イヌイットの村でアザラシ猟などを体験。そこで、イヌイットがGPSを使って猟へ出ていることに驚いた。

「イヌイットの方たちが伝統的な知恵を使う一方で、GPSも利用しているとは想像しませんでした。イヌイットのおじさんから、『お前、GPSはすごいんだぞ。宇宙の視点で自分の位置がわかるんだから。GPSがあれば無事に家に帰ることができる』と言われたんです。そのとき感じたのが、アナログやデジタル、伝統的知恵や最新技術などという分類に意味はなくて、使えるものは何でも使って無事に帰るという、道具に対する健全な向き合い方でした」

大学卒業後しばらくは東京で働き、福岡へ帰郷。アプリ開発を思いついたのは、2011年5月、福岡の久住山に登ったときだ。着想にはアラスカのアザラシ猟の体験が大きく影響しているが、同年3月に起こった東日本大震災も開発を後押しした。

「命は紙一重。都会にいても、『使える道具はなんでも使って生き抜く』。そんな意識は必要だと感じたんです」

春山 慶彦(YAMAP 代表取締役)

自然に親しむことを邪魔しない

当初、春山代表はアプリ制作の知識をまったく持っていなかった。それでも、会社のメンバーの協力を仰ぎながら、開発に2年をかけて「YAMAP」を完成させた。

春山代表は「迷ったとき以外、山の中でスマホは見なくてもいいと思う」という。

「山に登っているときは、都会にいては鈍りがちな五感を、自然の中で開放してほしい。スマホを見るよりも、風に揺れる木々の姿、足元に咲く花々、山から見える景色こそ、楽しんでもらえたら。迷ったりして、道が正しいかなどを確認したいときだけ、スマホを取り出し、YAMAPで現在位置を確認してもらえれば、それで十分だとも思っています」

春山代表らは、オフラインで自分の位置がわかり、それを簡単にシェアできるという最大の機能を徹底的に磨きあげることを重視。「自然に親しむことを邪魔しない」。その思いを貫こうとしている。

登山は今、遭難事故が過去最悪を記録している。

「山岳部や山岳団体に入る人が少なくなり、人から人への情報伝達の場が激減していることが、遭難増加の背景にあります。今の時代に合った形で、人が出会う場をつくり、山登りの技術やマナー、地図読みなど、登山に必要な技術や楽しみ方を共有できたらと考えています」

「YAMAP」を滞在型観光に応用

「日本の自然は、世界的に見ても素晴らしい」と春山代表は続ける。

「日本の自然を象徴する代表例が里山、里海だと、私は思っています。元来自然は人間も含めての自然です。人の手が適度に入ることで、生態系がより豊かになり、バランスが保たれる日本の里山、里海の素晴らしさを、私たち日本人自身が再認識しなければならない時期に来ていると感じています。その上で、日本の自然、さらには、日本人が培ってきた自然観を、国外にも発信することができればと思います」

春山代表は、登山・アウトドアを軸に地域の自然の魅力を引き出し、滞在型観光を推進するプラットフォームへと、「YAMAP」を成長させようとしている。

「身近にある自然、地元の方々に愛される山々を地域の観光に組み込むことで、消費を中心とした観光形態から、一地域を長く楽しむ滞在方観光へ脱皮できるのではないかと考えています。今後は、地域の自然を中心に、その土地で培われてきた文化や食についても、YAMAP上で、ユーザーさんと一緒に発見・発信していく仕組みを入れたい」

YAMAPが提供するアウトドア・プラットフォーム

 

自然に触れるきっかけづくりをしながら、人間の身体性を取り戻し、地域も元気にする。

春山代表が、東京ではなく地元・福岡で起業した理由は、どこに住んでいても、本気で取り組めば良い仕事ができるというロールモデルをつくりたいと考えたからだ。

「これまで出会った人やお世話になった方々へ、仕事を通して、恩返しをしたい。また、少しでも楽しい社会を次の世代へ引き継ぐことができれば、これ以上のやりがいはない」

その言葉に力を込めた。

春山 慶彦(はるやま・よしひこ)
YAMAP 代表取締役
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