地域材が育むコミュニティ

日野市は、地域コミュニティの拠点となる公共施設「地区センター」に、多摩産材を活用。自然な美しさや風合いによって、温かみのある空間が生み出され、子育て世代や子ども、高齢者が集い、住民たちによる地域づくりが行われている。

日野市の東宮下地区センター。大建工業のWPC技術によって加工された多摩産材が、床材として使われている

東京都の西側、多摩地域にはスギ、ヒノキの山林が広がる。大都市のイメージが強い東京だが、実は面積の約4割が森林だ。

今、政府は「2020年までに木材自給率50%」の目標を掲げており、公共施設における国産材の利用を促進するため、2010年に「公共建築物等木材利用促進法」を施行。全国の自治体で、国産材を積極的に活用する動きが進んでいる。

そうした中で、東京都も多摩産材の需要拡大に向け、支援事業に力を注ぐ。日野市でも、約10年前から公共施設での多摩産材の活用を進めてきた。2016年3月に開設した「東宮下地区センター」は、床や天井に多摩産材が使われ、温かみのある空間がつくり出されている。

東宮下地区センターの目的は、単なる集会の場でなく、地域のつながりを創出すること。その実現を牽引したのは、市役所の若手女性職員たちだ。

住民参加でつくる「交流の場」

東宮下地区センターの建設は、コンセプトづくりの段階から住民参加で行われた。しかし、一口に「住民参加」と言っても、その実現は簡単ではない。

日野市は都心から西に約35㎞、アクセスの良さから首都圏の住宅都市として発展しており、新住民の流入も多い。地域の活動には、あまり積極的に参加したがらない住民もいる中で、日野市地域協働課・酒巻由佳氏は、住民たちと何度も顔を合わせ、思いを引き出していった。

「市民と協議する中で、『三世代交流』、『公園との一体的活用』、『心も体も健やかになる場』、『地域の自主防災に活かせる場』という4つのコンセプトが生まれました。また、ターゲットは、これまで地区センターとは無縁だった若い世代、特に『子育て中のお母さん』にすることが決まりました」

若い母親世代が気軽に立ち寄り、交流できる場をつくる。そうした場づくりを実現するうえで、重要な役割を果たしたのが多摩産材の活用だ。

美観に優れ、耐久性の高い床材

コミュニティの拠点をつくるうえで、木が持つ親しみ、ぬくもりは、大きなメリットとなる。しかし、スギやヒノキは材質が軟らかく、表面の硬さが必要とされる床材などの用途には向かないとされていた。

日野市には67館の地区センターがあり、多摩産材を活用したのは、東宮下地区センターが3棟目だ。

1棟目は2011年に建設され、床材として多摩産のスギを使ったが、何度も机や椅子を出し入れする中で、傷が目立っていた。2棟目は骨組みの構造材として多摩産材を利用したが、視覚的に隠れてしまうため、多摩産材を使っていることが利用者には伝わりづらかった。

日野市財産管理課・反町康子氏は、「床材として広く視界に入る用途で使えつつ、耐傷・耐久性も高い多摩産材を探していました」という。その条件を満たしたのが、大建工業の「WPCフロア」だ。「WPCフロア」は、大建工業の独自技術により、軟らかい国産材の表面硬度を高め、床の表面化粧材としても使うことができる建材である。

日野市地域協働課・熊澤修氏は、「地区センターにおいて、床が丈夫かどうかは大切な要素」と語る。

熊澤 修 日野市企画部地域協働課課長

「地区センターは、ダンスや卓球など身近なスポーツを楽しむ場所としても使われます。『WPCフロア』は多様な用途に耐えうる建材でした」

また、採用を決めてからの流れもスムーズだったという。

「かつて多摩産材は、供給が不安定で、納期の心配もありました。今回、そういった心配はまったくなく、品質も高まっており、多摩産材は昔より使いやすくなっています」(反町氏)

反町 康子 日野市総務部財産管理課

木材だから生まれる「つながり」

しかし、東宮下地区センターに木材を使うことに対して、反対する住民もいた。酒巻氏らは対話を繰り返すことで、そうした課題を乗り越えていった。

「縁側を木材でつくると、メンテナンスが大変になるから擬木にしてほしい、という声がありました。確かに木製の縁側には手入れが必要ですが、それによって共同作業が生まれます。みんなが関わり、協力する仕組みをつくることで、コミュニティは育まれます。それは、木材だからできることで、擬木や鉄筋コンクリートでは実現できないと考えました。今回、あえて行政はメンテナンスを担当せず、市民に任せました。最初から『任せます』では、市民の納得は得られなかったかもしれません。きちんと説明をし、意見を出し合ったことで、実現できたのだと思います」(酒巻氏)

酒巻 由佳 日野市企画部地域協働課

完成した東宮下地区センターは、地域で子育てを行う場として、月1回、誰でも気軽にお茶を飲みながらイベント等をする「東宮下みんなのひろば」など、自治会・老人会・NPO・大学などが協働した活動が行われている。そこでは、木の床に寝転がり、くつろぐ子どもたちの姿も見られる。

施設管理を担当する日野市財産管理課・川本泉氏は、公共施設で多摩産材を活用する意義をこう語る。

「多摩で木材が産出されていることを知らない市民もいる中で、認知の向上につながります。今後も、積極的に多摩産材を使い、民間に広がっていく起爆剤になればと考えています」

川本 泉 日野市総務部財産管理課主幹

日野市は東宮下地区センターに続く、次の地区センター建設でも大建工業の「WPCフロア」を採用した。大建工業の技術が、地域のコミュニティ創出を下支えしている。

縁側にも多摩産材を活用。東宮下地区センターのコンセプトの一つは、「公園と一体となった施設」。外に開かれ、地域交流が生まれやすい建築を目指し、設計された

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