新規参入企業が電気・ガス自由化市場で成功するには?
2016年~2017年は、電力・ガス自由化に伴うエネルギーのパラダイムシフトが予想される。コモディティサービスであるエネルギーは、高付加価値化を志向しなければパラダイムシフトを乗り越えることはできない。
電力自由化後、市場の切り替え攻勢は若干沈静化したように見受けられる。「4月22日時点での契約切り替え数が74万件程度で、市場全体の約1.2%。東京ガスの景況感としても「4月は切り替えの伸びが鈍くなっている」(毎日新聞調べ)」との認識である。しかしながら、博報堂調査での本来的な切り替え市場規模60%には遠く及ばず、今後の切り替え市場推移は、参入事業者のイノベーション&マーケティングエフォートにかかっていることは明白だ。
一方で、昨年末から東京ガスやKDDI、ソフトバンクはじめ、電力参入各社が派手な空中戦を展開している状況下、「割引・ポイント還元セールスモデル」が趨勢を強めていると見る向きがあるが、本質は違う。昨年、当時経済産業副大臣であった山際大志郎衆議院議員と対談した際、ダンピングは政策趣旨上許されない旨の発言をお伺いした。また、託送料金とのバランスによる電力価格がほぼ無弾力であることを考えると、一概に価格価値を持って市場を牽引し続けることが、戦略上優位であるとは言えない。もちろん、市場が一気に切り替えに移行すれば瞬発力のある割引・ポイント還元の優位性は高まるが、市場の移行スピードは緩慢で、多少移行度合いが上昇しても、年間5%前後程度ではないだろうか(あくまで筆者の予想として)。
ちなみに、イギリスでは2006年自由化が施行され、それ以降の年間平均切り替え率は10%程度で推移しているが、2008年と2013年が切り替えピークとなっている。ちなみに、2013年の切り替えピーク時は、電力メジャー6社の一斉値上げが起因している。
つまり、クリティカルな外部環境要因がなければ、大きく切り替え率が上昇することは想定しづらいため、長期戦を前提とした場合の「価格優位戦略」は潰し合いとなることが必至だ。あえて茨の道を進んでいるのが、今の電力自由化市場である。
話を少し変えよう。
日本は第二次大戦後様々な経済変遷を遂げてきた。
戦後復興の起点になったのは朝鮮戦争特需である。第一次高度経済成長期は特需景気の延長であり、第二次高度経済成長はオリンピック等大規模公共投資やベトナム戦争特需の延長である。当時はインフレ期であり、需要が供給を上回っていた時代だ。ところが、現在の景況は長期デフレである。バブル経済の崩壊以降「失われた20年(既に30年だが)」と呼ばれ、価格や品質だけでは売り切ることができない時代となった。それに伴い、今日のマーケティングトレンドはLTV(顧客生涯価値)最大化を前提としている。1人1人の顧客とコミットし、顧客シェアを最大化するマーケティングだ(下図参照)。
図表 顧客生涯価値最大化
- ・既に実績を持った既存電力とはロイヤリティポジション上雲泥の差が...
- ・しかし、相対的に既存電力のロイヤリティはさほど高くない(原発事故、総括原価のツケ)
- →現状顧客との関係が良好か、どの程度心理軸が高いか、によって、既存顧客のLTV、シェアを見込むことができる
話を戻そう。
電力も同様に、デフレ景況において価格だけで差別化を図り、ドラスティックに切り替え需要を高めることは難しい。現実的な市場の動きは緩慢に陥る。その中で、何が切り替えの動機付けになるのか。
答えは、行動の動機付けとなる価格やインセンティブではなく、継続性の端緒となる心理的構成要素だ。例え話だが...東日本大震災以降、徹底的に反原発意識を持った消費者は、原発を保有する一般電気事業者(東京電力等)から真っ先に切り替えようとするだろう。では、彼らは大資本参入者を選ぶだろうか?答えはNOだ。大資本参入者の顧客規模では既存発電設備(原子力や火力等)を前提にしなければ総量を賄うことはできない。つまり、一般電気事業者から卸された電気を扱う割合が大きくなり、反原発を実践することにはならない。そしてもちろん、彼らが求めるのは「グリーン電力」である。
他方で、同じく「グリーン電力」を志向する消費者がいる。それは、地方創生を前提とした地域エネルギー事業による「グリーン電力」である。こちらは、反原発を前提としたムーブメントではなく、地域の雇用やキャッシュフローを想定したエネルギーの地産地消モデルとして志向される。自治体が参画したバイオマス発電事業等がその例だ。
これらの例は、エネルギーが既にマスエフェクティブなものではなく、様々な価値を持った「脱コモディティモデル化」していることを意味する。
そして、脱コモディティモデルを加速させ、ビジネスポテンシャルを高めるためには、もうひとつのキーワードが必要だと考えている。それが「ライフライン統合型ビジネス」である。
電力だけではなく、ガスや通信までも含めた統合型ビジネス、あるいは統合型マーケティングを実践することで、消費者個々のライフスタイルに合ったプランを提供し、生活価値(生活上の便益を満たす)と情緒価値(個人の生き方、ポリシーと符合させること)を徹底して提供することが、脱コモディティの布石とならないだろうか。
電力・ガス自由化市場において、脱コモディティモデルを志向しなければ、価格や流通等の資本力優位な戦いを強いられ、資本力が弱い新規参入者の勝ち目はない。そして、脱コモディティモデルを可及的速やかに加速させるためには、電力・ガス・通信等のライフラインスペックを束ねて、消費者ひとりひとりの生活・情緒価値に見合うサービス提供を行うことである。これは、電力やガスの価格弾力性の低さを担保するためのリスクヘッジとしても充分機能することを申し添えておきたい。
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