アメックス女性上席副社長が語る、女性役員に必要な「スキル」

管理職や経営幹部への女性登用は、日本ではまだ進んでいない分野だ。アメリカン・エキスプレス・インターナショナル,Inc上席副社長の中島好美氏は、「女性役員候補のための『学びとる場』が必要」と指摘する。

創業時の運送業から、総合金融サービス会社に進化してきたアメリカン・エキスプレス。その成長の原動力は、多様性を大切にするコーポレートカルチャーにある

女性活躍推進法への期待

アメリカン・エキスプレス・インターナショナル,Inc上席副社長の中島好美氏は、活躍する女性経営者のロールモデルと言える人物だ。中島氏は新卒では銀行に入行したあと、中途採用や女性登用を積極的に行っていた外資系企業でキャリアアップを図り、2002年にアメリカン・エキスプレス・インターナショナルに入社。女性クレジットカード会員拡大のための新マーケティング施策を立案、成功に導くなどで会社の成長に貢献し、2011年からはシンガポールのカントリー・マネージャー(社長)に就任、多様な人種や宗教をもつ大組織を率いた。

そんな中島氏は、4月1日に施行される女性活躍推進法について、「いい意味で、企業が危機感を抱くきっかけになる」と期待する。

「日本では過去、男女雇用機会均等法などを背景に、それぞれの企業で環境整備を行ってきましたが、女性役員の登用まで十分な成果を出せている企業は多くありません。企業や人は追い詰められなければ動かないもの。女性活躍推進法という制度ができたことで官も民も、男性も女性も『今やらなければ大変だ』という共通認識が生まれ、現在の取り組みの内容やスピードを見つめなおすきっかけになるはずです。法律は企業にとってアクセラレーターや触媒、あるいは爆弾にもなるかもしれません」

中島 好美(アメリカン・エキスプレス・インターナショナル,Inc個人事業部門 アクイジション・マーケティング統括上席副社長兼 アメリカン・エキスプレス・ジャパン代表取締役社長)

多様性を楽しむことが肝心

もちろん、法律や制度だけなく、社会全体で女性活躍のための変革が求められることは言うまでもない。「悲観する必要はなく、アメリカも1970年代のTVドラマ『名犬ラッシー』や『奥様は魔女』で描かれたように、女性=主婦というカルチャーが一般的でした。それが少しずつ女性の就業比率が高まり、家事や育児の支援体制も整っていった。アジアでも今や女性が働くことは当たり前です。社会は必ず変われると思います」

女性活躍やダイバーシティの推進は、企業にとって建前だけのものではなく、今や成長を続けるために不可欠な要素となっている。消費財であろうと金融サービスであろうと、市場の半分は女性である。商品の製造や開発が国内だけで完結する企業も、もはや稀だ。

「女性活躍や、人種や国籍にしばられない人材登用は、企業活動のベースであり、それに取り組まなければ生き残れないと、トップから現場社員まで、全員が理解しなければいけません。製品やサービスのライフサイクルは短くなり、常に新しいアイデアが求められています。人材の流動化や、多様な人材の登用をしなければ新事業創出は実現しません。皆が反対するような意見にも真摯に耳を傾け、組織の力にできるダイバーシティが必要ですし、何よりも『多様性を楽しむこと』が肝心です」

制度以上に大切なこと

アメリカン・エキスプレスも長年、多様性をコーポレートカルチャーとし、イノベーションを起こしてきた企業だ。その事実は、会社の歴史が如実に物語っている。1850年に創業したとき、アメリカン・エキスプレスは運送業者だった。そこからトラベラーズチェックやクレジットカードといった現在の主力事業を生み出し、さらに保険、投資信託なども幅広く展開する総合金融サービス会社として進化を続けている。

成長とともにダイバーシティ推進の仕組みも進化させてきたアメリカン・エキスプレスだが、欧米に比べて女性社員比率が低かったアジアでは特に、女性活躍推進に力を入れてきた。育児・介護休暇や時短勤務などの労働環境の整備、有能な女性の登用にむけた制度づくりなどはもちろん、マネージャーが積極的に啓蒙活動をしてきたことが女性活躍を進めるエンジンになったという。

「例えば、女性のシニアリーダーが自分の経験を語り、ロールモデルを見せるというカジュアルなミーティングを定期的に開いています。また、マネージャーは後継者育成において必ずジェンダーバランスに配慮します。もし後継者候補が男性ばかりになってしまったときは、自身のコーチングやセッションに問題があったということ。その際には他の部署から優秀な女性人材を異動させることもあります」

ゼネラリストとプロフェッショナルのどちらを目指すのか、出産や子育てにどれほど時間を割くのかなどによって、女性のキャリアのゴールやスピードには差が生まれる。こうしたキャリアプランを社員とマネージャーが共有し、コミットメントを合致させることも女性活躍推進においては大切だ。

執行役員に占める女性比率が高い企業のほうが、女性がいない企業に比べ利益率が高い

出典:McKinsey&Company(2007-2009)

女性役員に必要な構想力とセルフブランドの開発

日本企業の場合、新卒採用における女性比率は一定レベルに達していても、出産や子育てなどで退職する女性が多く、管理職や役員として経営を牽引する女性人材が不足しているという課題がある。女性活躍推進法において、安倍晋三首相は「まずは役員に1人は女性を登用して頂きたい」と経団連に要請したが、数値目標ばかりが先行し、能力が十分でない人を登用する可能性もないとは言えない。

女性役員の成長には、メンターやサポーターとなる女性経営者の存在が不可欠だが、そうした女性と出会うことは簡単ではない。こうした環境の中で、「女性役員候補が、優れた女性経営者と交流し、さまざまなバックグラウンドを持つ仲間と切磋琢磨することで自育できる、『学びとる場』が求められています」と中島氏は指摘する。

「役員や役員候補になることはゴールではなくスタートです。成果や立ち居振る舞いなどを試されるし、企業で責任を持つ立場に立つためには、相応の準備が必要です」

役員に求められるスキルのひとつに、長期的な視点に基づいて事業を成長させる構想力があるだろう。社会をリサーチし、アイデアを生み、構想を具現化していく力が身に付けられれば、女性の持つコミュニケーション能力や感性は何倍にも活かすことができるはずだ。

また、中島氏は「セルフブランドを開発すること」も役員に求められると強調する。「『キャラが立つ』『顔が見える』とも言い換えることができます。○○さんと言えばこんな人、こんなことが好き、この分野なら何でも相談できるという印象を身に付けなければ、一流の役員とは言えません。セルフブランドを身につけるには、ビジネススキルや自分の主張を確立・発信するスキルに加えて、構想力と人脈を育てることも重要になります」

こうした女性役員を取り巻く環境を変えるために、事業構想大学院大学・事業構想研究所は中島氏を客員教授に招聘し、女性限定の研究会「女性役員自育プロジェクト研究」を2016年度に立ち上げる。今属している組織だけでなく、多くの場面でリーダーとしての魅力を発揮できる女性役員やロールモデルとなりうる人材の輩出を、研究会は目指していく。

中島好美氏は、社内外・国内外での講演活動などを通して、女性リーダーの人材育成に関わっている

中島 好美(なかじま・よしみ)
アメリカン・エキスプレス・インターナショナル,Inc個人事業部門 アクイジション・マーケティング統括上席副社長兼 アメリカン・エキスプレス・ジャパン代表取締役社長

全文をご覧いただくには有料プランへのご登録が必要です。

  • 記事本文残り1%

月刊「事業構想」購読会員登録で
全てご覧いただくことができます。
今すぐ無料トライアルに登録しよう!

初月無料トライアル!

  • 雑誌「月刊事業構想」を送料無料でお届け
  • バックナンバー含む、オリジナル記事9,000本以上が読み放題
  • フォーラム・セミナーなどイベントに優先的にご招待

※無料体験後は自動的に有料購読に移行します。無料期間内に解約しても解約金は発生しません。