2016年5月号

SXSW 2016 レポート

イーロン・マスクのハイパーループ構想が実用段階へ

ディルク・アルボーン(ハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジーズCEO)

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イーロン・マスク氏が2013年に公表した次世代輸送システム「ハイパーループ」。チューブ内を空中浮上して走行し、時速は1200kmに達するという。奇想天外とも思われるこの構想は、いかにして実用段階へと進んでいるのだろうか。

ディルク・アルボーンハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジーズCEO

今年着工、2018年完成予定

ハイパーループは、人を乗せるコンピュータ制御のカプセルと、カプセルが通る高架式のチューブとで構成される。カプセルを磁力で浮上させ、チューブ内を巨大なバキュームで低圧にすると、少ないエネルギーによる高速移動が実現する。上空を移動する飛行機と同様に、空気抵抗が少ないためだ。音速に迫る時速1,200kmを出すことが可能になり、電車では5時間かかるロサンゼルス―サンフランシスコ間をわずか36分で駆け抜ける計算だ。

このマスク氏のアイディアを実現させようとしているのがハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジー(HTT)社だ。カリフォルニア州中央部にあるクエイ・バレーに、長さおよそ8kmにわたる実物大プロトタイプを建設する。

クエイ・バレーが選ばれたのは、「21世紀のモデルタウン」と称して、太陽光発電を利用したグリーンな街づくりをしているからだ。また、リゾート施設やショッピングモールもあるため一千万人の輸送を想定できることも、選ぶ際のポイントとなった。2016年に着工し、2018年の完成を予定している。

今こそ新輸送システムを作る時

既存の鉄道は100年前のシステムに縛られているとディルク・アルボーン氏は指摘する。例えば線路は馬車の車輪に合わせて作られている。幅を少し広げるだけでスピードも安全性も増すにもかかわらず、100年前に決められた幅を使い続けている。

他の交通機関はといえば、飛行機に乗れば荷物を延々と待たなければならず、自動車は渋滞に悩まされる。

また、大気汚染という問題もある。北京だけでなく、北米を含む世界中で汚染は深刻だ。化石燃料を使う輸送手段から、持続可能な輸送手段へと切り替えるべき時が来ている。

ハイパーループは、環境に優しいシステムだ。太陽光、風力、運動エネルギーなどの再生可能エネルギーを利用する。余剰エネルギーも生まれる見込みで、それによって管理費を抑えることができ、ビジネスを成り立たせる要因のひとつとして期待されている。再生可能エネルギーの技術は進歩しており、コストも年々下がってきている。

建設コストも低額だ。カリフォルニアでの高速鉄道の建設費は650億ドルといわれているが、ハイパーループは60~70億ドルを見込んでいる。高架式のハイパーループは支柱の部分しか土地を使用しないため、土地買収にかかる費用を大幅に抑えることができるというのが大きい。

加えて耐震技術も1970年代から積み重ねてきた実績がある。アラスカに建設したパイプラインはマグニチュード8.0の地震も乗り越えている。それから50年の間に技術はさらに進歩し、より安全になっている。

さまざまな技術が進歩した今こそ、ハイパーループのようなまったく新しい輸送システムの登場が求められているのである。

ハイパーループがある生活

ハイパーループは私たちの生活を大きく変えるはずだ。今まで日帰りでは困難だった都市間の移動も簡単にできるようになる。100km以上離れた場所でも都心に10分足らずで到着するため、地価の安い郊外に住むことが可能になる。

空港間をハイパーループでつなげば、人を分散させ、空港の混雑を解消することもできるかもしれない。

港の設備は海岸の貴重な土地を広く占有しているが、ハイパーループのプラットホームを海上に設置し、船から直接アクセスできるようにすれば港湾施設は縮小できる。

では、ハイパーループ構想はどのようにして実現に向かっているのだろうか。

新しい形の会社が道を切り拓く

ハイパーループのコンセプト自体は特に新しいものではない。ニューヨークには、メトロが誕生する前に圧縮空気を利用した地下鉄があった。その他にも、チューブ内を移動する鉄道や低圧のトンネル内を走る鉄道の建設が、アメリカやスイスで計画されたが、いずれもうまくいかなかった。政府主導だったため、政府が代わると立ち消えになってしまったからだ。しかし、今回のハイパーループ構想は企業主導だ。それも今までの企業とは異なる形態の会社なのだ。

ハイパーループ構想の大きな特徴は、各サイドプロジェクトをクラウドソーシングで進めていることだ。世界中の人々がチームに参加し、意見やアイディアを出し合っている。普段は世界の名だたる企業で働く人々が、空いた時間を利用してハイパーループ構想の実現に貢献している。

2013年にマスク氏が発表したハイパーループ構想は、プロジェクトを進める過程で、多くの人が参加を希望するようになった。そこでストックオプションと引き換えに週10時間以上の参加を呼び掛けたところ、200人以上からの応募があった。現在も1日に何通も申し込みのメールが届く。

そのようにして集まった人々に意見を募るのは、例えば「切符は必要か」といった問題だ。紙の切符を使うかどうかということだけではなく、「切符を売ることがマネタイズする上で最善か」という問題について話し合う。実は世界中の多くの鉄道は政府からの助成金に大きく依存している。ハイパーループをビジネスとして成功させるためには、マネタイズ方法をきちんと確立する必要があるのだ。

情熱を持った人々が意見を出し合うことで、さまざまな奇抜なアイディアが生まれる。今までに、チューブを支える支柱の内部にハチの巣のような空間を作って庭として使うとか、空気中の水蒸気から水を取り出すなどといったアイディアが登場しているという。

「情熱を持っていること」が重要だとアールボーン氏は強調する。自分と同じことに情熱を持つ人を見つけることができれば、クラウドソーシングという形で一緒にプロジェクトを進めることができる。現在ハイパーループ構想は520人もの人々と80社の企業によって進められている。マンハッタン計画に携わった技術者と科学者と大学を卒業したばかりの若者とが対等に働いており、とてもうまくいっているという。

もちろん実現を疑問視する声や批判も少なくない。しかしアールボーン氏は、否定的な意見も有用だと語る。疑問点を指摘されるたびに、それが既に議論された事柄かどうかを確かめるため、計画を見直すきっかけとなるからだ。市場が大きい方が外国からの参加も見込めるからと、ライバル企業の存在にも肯定的だ。

今までと異なる形態の会社が作り出す新しい輸送システム、ハイパーループ。スロバキアなど他の地域での建設も予定されており、今後の動きが注目される。

picture by Edit1306

picture by RichMacf

ハイパーループのイメージ

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