開発アイデアは「子ども目線」 創造性を育むキッズデザイン

子どもを事故から守り、子どもの創造性を育む「キッズデザイン」。子どもの目線で見ると、一見改善の余地がない商品にも新たな開発の糸口が見いだせる。遊具、生活用品、空間、サービスまで、幅広く生かされるキッズデザインとは。

子どもの目線でデザインする「キッズデザイン」。デザインといってもモノの色や形だけではなく、安全性など仕組みも含まれたデザインとして注目を集めている。

子どもの死亡原因の上位には常に「不慮の事故」が挙がる。どのような製品も、多かれ少なかれ事故につながる危険性を持っている。企業はこのような危険性を、消費者の声にもとづいて取り除いていく。しかし、子どもは製品に対して声を上げることができないので、子どもが事故に遭う危険性は取り除かれにくい。大人にとっては安全な製品が、子どもにとっては危険であることも多い。

子どもの事故の多くは親が「自分が目を離したせい」と思い込み、子どもが事故に遭っても、その事故の情報が、収集されずに消えてしまうことが多い。情報が収集されても、製品づくりに生かされることが少なかった。

そこで、子どもを事故から守るために、民間企業が集まって2007年に設立したNPO法人が、キッズデザイン協議会である。理事の高橋義則氏は、設立の経緯を語った。

「子どもたちをユーザーとして想定していない製品によって、子どもたちが事故に遭う、ひどいときには命を落とす、ということが後を絶ちませんでした。そこで当時、経済産業省が事故サーベイランスプロジェクトを立ち上げました。これは、事故情報を収集してデータベース化し、それを共有するための活動でした。ただ、データベース化したものをすぐに反映するのは難しい。ならば、民間側のプラットフォームをつくろう。このようにして、『キッズデザイン協議会』はスタートを切りました」

高橋 義則(ユニバーサルデザイン総合研究所 代表取締役社長 キッズデザイン協議会 理事)

空間、サービスも子ども目線で

キッズデザイン協議会は、「キッズデザイン賞」を主催し、毎年すぐれた製品を顕彰している。製品といっても、「モノ」ばかりではない。子ども向けのワークショップや展覧会といった「コト」もまた、顕彰の対象である。

「『キッズデザイン』『キッズデザイン賞』と言うと、パッと聞いたときには、『子ども用品のデザイン?』と思うかも知れません。しかし、そうではありません。一般のユーザーが使うものであっても、子ども目線で考えられたものはすべて対象です。さまざまな日用品から、大きな空間、サービスや活動まで、幅広い応募があります」

キッズデザイン協議会の活動は、3つの「デザインミッション」にもとづいている。「子どもたちの安全・安心に貢献するデザイン」、「子どもたちの創造性と未来を拓くデザイン」、そして「子どもたちを産み育てやすいデザイン」である。キッズデザイン賞は、これらのミッションを独創的な形で達成した製品に贈られる。

キッズデザイン賞の過去の受賞作を見ると、まったくの新製品ではなく、既存の製品にわずかな改善を加えたものが多く、評価されている。

高橋氏は、ズーム・ティーが開発した「ドクターベッタ哺乳びん ブレイン」を例に紹介した。ミルクが耳管に流れ込むことを防ぐ哺乳びんで、小児科医が考案した製品である。

「デザインというアプローチを考えたとき、『哺乳びんのデザインはもうすでに成熟している』と思ってしまいます。しかし、たとえば小児科医から症例を聞いたり、お母さんに情報を聞いたりすると、デザインで解決することができる課題は多くあることに気がつきます」

改善の余地がないように思われた製品でも、子どもの視点に立てば、新しいアイデアが得られる。

同じように、「新しい製品開発のヒント」も、多く見出されているという。オランダの建築家がつくった「STOCS(ストックス)」は、ステンレスの心材が入った紐。もともと建築家の研修でつくれられたものだが、子どもの玩具として商品化された。自由に結び、立体構造をつくることができる紐は、子どもの創造性を引き出す商品となった。

心材の入った紐「STOCS(ストックス)」(CAST JAPAN)は、建築家の発想から生まれた遊具

子どもの自由を奪わずに事故から守るミッション

子どもを事故から守ろうとすると、子どもを危険源から遠ざけるという発想に陥りがちである。しかし、それは子どもから遊ぶという自由を奪うことでもある。子どもの自由を奪うことなく、子どもを事故から守ること。それこそが、キッズデザインの目標である。

「危ないからという理由で、公園から遊具を全部撤去してしまうことが、はたして正しいのでしょうか。子どもが何をするのか、また何をしたいのかということ。そのことを知る必要があります」

子どもを見つめることによって、子どもの特性を知り、それを製品づくりに生かすべきだと主張する。

「子どもたちが自由に遊べ、その感性が引き出されるようなポジティブなデザインと、それが重篤な事故につながることのないようにするデザイン。その二つを表と裏として、ものをつくることが重要なのです」

最後に高橋氏は、「キッズデザイン」こそ、あらゆるデザインの根源であることを話した。

「『キッズデザイン』とはどういうものなのか。それは決して、子どもだけのためのデザインではありません。むしろ、それはさまざまなデザインの根幹を成すものだと考えています。なぜなら、社会には必ず子どもがいるからであり、そして子どもは未来の担い手だからであり、さらに言えば、子どもは未来の消費者であり、生産者であるからです」

ミルクが耳管に流れ込むことを防ぐ「ドクターベッタ哺乳びん ブレイン」(ズーム・ティー)

高橋 義則(たかはし・よしのり)
ユニバーサルデザイン総合研究所 代表取締役社長
キッズデザイン協議会 理事

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