男子シンクロのレイルロード、切り拓いた先にある新ステージへ

安部篤史は、日本初の“男子”シンクロナイズドスイミング選手である。彼が長年追い続けているのは、「人の心を動かすエンターテインメント」。元々競技者ではなく、表現者畑のプレーヤーであった彼は、世界水泳でもショー公演でも同じ想いで水中を舞う。自分の想いを表現するため、安部が進みつくりあげてきた道程とは。
文・小島 沙穂 Playce

 

©朝日新聞社/amanaimages

2015年7月、第16回 FINA世界水泳大会ではシンクロナイズドスイミングの新たな正式種目として、男女ペアで行われるミックスデュエットが追加された。その日本代表選手として選ばれたのが安部篤史である。日本で初めて男性の“シンクロ日本代表”となったのだ。

「水に浮く」ことが前提となるシンクロは、脂肪の割合が少なく沈みやすい男性には本来向かない競技である。一方、男性だからこそ魅せられる武器がある。演技を魅せるために鍛え抜かれた肉体からは、女性の演技とは異なるダイナミックな技を描き出せる。男子シンクロ選手が世界的にも少ないこともあり、ミックスデュエットは、まだまだ発展途上の種目。しかし、今後男子選手が増えていけば、女子ペアとはまた違った表現方法が生まれていき、さらに注目されていく種目となっていくだろう。世界的にも日本国内でも発展途上の種目で、2015年、安部篤史はシンクロの新しい歴史を刻みつけた。

心踊るパフォーマンスと出合った夏

競泳はもう辞めよう。そう決めたのは安部が高校3年生の夏。しかし、翌年2001年、大学に入ってからも塩素の香りが忘れられず、結局は水泳部に足が向いてしまっていた。水に触れることは好き、だが競泳は自分がしたいことと何かずれている気がする......。競泳以外の方法で何か水に関われる方法がないか、悶々と考える日が続いていた。

そんな安部が出合ったのが、2001年に公開された映画『ウォーターボーイズ』である。男子高校生がプールで繰り広げる水中パフォーマンスに、安部は心を奪われた。

「人生を変えた映画でした。水泳は競泳だけではない、こんな水の楽しみ方や表現方法があるんだ!という発見がありました。何度も何度も劇場に足を運び映画を見て、そのパフォーマンスから得た感動を反芻して、自分でもやってみたくなったんです」

そして安部は、『ウォーターボーイズ』のシンクロシーンの振り付けを担当した、不破央が代表を務める水中パフォーマンス集団、トゥリトネスの門を叩くのであった。映画に魅せられた翌年、2002年1月のことである。

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