都市にもある「ローカル」とは 「顔が見える」価値観に変化

人口減少時代に入り、地域の政策目標は人口維持や人口増加の手段や方法論にとらわれつつある。その社会の流れの中で、「目的志向型の計画ではなく、個人の内面の変化を柔軟に捉えること」に焦点を置いたのが本書だ。

著者の大阪市立大学大学院の松永桂子准教授は、「例えば若い世代の農山村への移住が増えていますが、移住はキャリアチェンジ志向とスローライフ志向の重なりが関係している」と話す。

2014年に国が東京都在住の1200人を対象にした調査では約4割が移住する予定、あるいは移住を検討したいという結果も出ている。

「消費、社会意識、雇用・働き方において、若い世代の価値観は変化しています。雇用・働き方は、高度成長期にはサラリーマンが主でしたが、現在は『ワーク・ライフ・バランス』を重視するように変化しました。消費においても、『モノ』から『つながり』、『経験』といった可視化できないものの価値が高まっています」

このような世代の価値観の転換を地域はどう捉えていくべきだろうか。

  1. ローカル志向の時代
  2. ― 働き方、産業、経済を考えるヒント
  3. 松永桂子(著)
  4. 光文社
  5. 本体740円+税

都市にもある「ローカル」

松永氏は、海外ではイタリア、ドイツ、国内では大阪府など都市圏、島根県、徳島県など地方と幅広い地域のフィールドリサーチを重ねている。

「『ローカル志向』と称していますが、単に地方を指しているのではありません。現在の若い世代の価値観では、顔が見える関係性があり、社会貢献できるコミュニティに属したいという傾向になっています。都市でも地方でも、その傾向に当てはまる地域が存在感を高めています」

個人と社会の距離感が近く、顔の見える範囲の社会としての「ローカル」。ソーシャルネットワークの影響も大きいが、社会のなかで自分の立ち位置を明確にする欲求が強くなっているという。

本書は、ローカル志向を解き明かすために、地域をベースにして、広く経済や消費、産業の領域から、個人と社会の方向性について考えた一冊だ。

松永桂子(まつなが・けいこ)
大阪市立大学大学院 創造都市研究科准教授

今月の注目の3冊

学校蔵の特別授業

― 佐渡から考える島国ニッポンの未来

  1. 学校蔵の特別授業
  2. ― 佐渡から考える島国ニッポンの未来
  3. 尾畑留美子(著)
  4. 日経BP社
  5. 本体1,600円+税

 

「日本で一番夕日がきれいな小学校」を舞台に地域のあり方を考えた書籍。その西三川小学校は、2010年に廃校となったが、著者である「真野鶴」五代目蔵元が中心となり、2014年に酒造りの場、酒造りを学ぶ場、交流の場、そして環境の場として活用する「学校蔵」としてよみがえった。島内外の人が学校蔵の教室に集まって、「佐渡から島国ニッポンの未来を考える」というワークショップを開催。その講義の内容をまとめた。

限界費用ゼロ社会

― <モノのインターネット>と共有型経済の台頭

  1. 限界費用ゼロ社会
  2. ― <モノのインターネット>と共有型経済の台頭
  3. ジェレミー・リフキン(著)
  4. 柴田裕之(翻訳)
  5. NHK出版
  6. 本体2,400円+税

 

資本主義からシェアリング・エコノミー(共有型経済)へ変わりつつある。IoT(モノのインターネット)が原動力となり、経済パラダイムの大転換が進行している。IoTにより、モノやサービスを1つ追加で生み出すコスト(限界費用)は限りなくゼロに近づき、将来モノやサービスは無料になり、企業の利益は消失して、資本主義は衰退を免れないという。21世紀に実現する社会と経済の潮流がわかる一冊。

マンションオーナーの赤字脱却術

  1. マンションオーナーの赤字脱却術
  2. 川口豊人(著)
  3. 幻冬舎
  4. 本体800円+税

 

東京都内で賃貸物件の空室率は12%以上と高い傾向になり、家賃水準は2000年以降下がる一方だ。赤字に陥り、運用に苦しむアパート・マンションオーナーは多い。祖父から赤字状態の物件を受け継いだ著者は、2000万円の赤字物件を2年で黒字化した実績を持つ。その成功事例をもとに、不動産のノウハウをまとめた一冊。国内に相次ぐ「賃貸物件の供給過多」という社会問題に対峙する考え方とビジネスのヒントが得られる。

名著

クリエイティブ・マインドセット

人口減少やグローバル化、情報化に伴って外部環境は著しく変化し、人工知能などの技術進化も進んでいる。「新しいことに挑戦する力」は今まで以上に求められており、事業構想家にとっても、「創造性」は核となる力である。ビジネスの世界に「創造性」という概念を取り戻した立役者が、IDEOとスタンフォード大学d.schoolの生みの親であるケリー兄弟である。人間が本来持っている創造性に気づき、日常にイノベーションを取り戻すことが彼らの願いである。そのメッセージはシンプルである。しなやかに失敗を恐れず、創造性に自信を持つこと。そのために生み出されたデザイン思考は、イノベーションのための万能な方法論としてよりも、皆が持つべき心構えとして読まれるべきではないだろうか。

  1. クリエイティブ・マインドセット
  2. ― 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法
  3. デイヴィッド・ケリー(著)、トム・ケリー(著)
  4. 千葉 敏生(翻訳)
  5. 日経BP社本体1,900円+税
 


2016年度入試 出願受付中

事業構想大学院大学は、社会で必要とされる事業の種を探し、事業構想を考え構築していくMPD(事業構想修士)を育成する、クリエイティビティを重視した、従来の枠を超えた新しい社会人向け大学院大学です。1学年30人の少人数制、平日夜間と土曜日に授業を行い、院生全員が社会人です。
今年も30名の事業構想家を募集します。
詳細はこちら

全文をご覧いただくには有料プランへのご登録が必要です。

  • 記事本文残り0%

月刊「事業構想」購読会員登録で
全てご覧いただくことができます。
今すぐ無料トライアルに登録しよう!

初月無料トライアル!

  • 雑誌「月刊事業構想」を送料無料でお届け
  • バックナンバー含む、オリジナル記事9,000本以上が読み放題
  • フォーラム・セミナーなどイベントに優先的にご招待

※無料体験後は自動的に有料購読に移行します。無料期間内に解約しても解約金は発生しません。