「モノからサービスへ」を実現する事業開発手法サービスデザイン

成熟市場で成長を続けるための事業開発手法として注目を集める、サービスデザイン。日本で同分野のコンサルティングを数多く実践してきたコンセントの長谷川敦士氏は、サービスデザインは「これからの事業開発の王道」と表現する。

ゲータレードはドリンクをスポーツ選手ごとにカスタマイズするプロジェクトを始動。IoT技術などを活用し、ドリンクのサービス化を進めている Photo by John Loo

「顧客価値の最大化」が実現可能な時代に

サービスデザインとは、企業が顧客に提供するものは有形無形を問わず、すべてサービスであると捉えて、ビジネスを顧客視点で体系的に編成するという取り組みだ。顧客が求めているものをきちんと提供すればそこに価値が生まれる――これはマーケティングの世界では、決して新しい概念ではない。むしろ、多くの企業が当たり前に行っていることだ。ではなぜ、全世界的にサービスデザインが盛り上がっているのだろうか。

米調査会社のフォレスターリサーチは、過去100年間の社会を振り返り、時代ごとの企業の競争力の源泉を分類している。20世紀初頭からは「製造の時代」、1960年代からは「流通の時代」。1990年からは「情報の時代」であり、ブランディング、広告、ITなどを活用して製品の情報をいかに流通させるかが成長のカギとなった。

そして2010年以降は「顧客の時代」。モノや情報の取得が、地域に関係なく可能になった今、個人の嗜好にあわせた価値を提供することが求められている。

1960年代には既に、マーケティングの大家であるセオドア・レビットが著書『マーケティング発想法』の中で「顧客はドリルを欲しいのではなく、ネジ穴が欲しいのだ」というレオ・マックギブナの言葉を紹介し、顧客価値の重要性を指摘していた。ただ、当時はドリルを買うか、大工に頼むしかなかった。今ならば、『1000円であなたの家の壁にネジ穴を空けます』というマッチングサービスで実現できるかもしれない。

空虚だった「顧客価値の最大化」という言葉が、技術や市場の成熟によって、いよいよ実現可能なものになってきた。サービスデザインとは、デザインという手法でそのプロセスを体系化したものだ。

長谷川 敦士(コンセント 代表取締役)

ビジネスを根本から見直して「サービス提供体」へ

サービスデザインは、製品やサービスの開発と同時に、商習慣や組織、事業指標を見直していく。ビジネスを根本から見直す、リフレーミングであるとも言える。

現在、多くの企業はモノを売ることに組織を最適化させている(グッズ・ドミナント・ロジック)。販売が最大の目的であり、サポートやメンテナンスのコストは最小化することが望ましい。アフターサービスでさえも再び購入してもらうための手段でしかなかった。

今後は、企業は「サービス」提供体に進化しなければならない(サービス・ドミナント・ロジック)。顧客価値の実現にはひょっとしたらモノを売ることもあるかもしれないが、モノが利用される(サービス)ことで初めて価値が生まれるという考え方だ。販売ではなく、利用によって収益性をあげるために、大胆に事業や組織を再編する必要がある。

わかりやすい例がコピー機だ。コピー機本体は安価に提供し、収益性の高いメンテナンスを重視したビジネスモデルに移行している。Amazonも電子書籍端末「Kindle」をコンテンツサービスの入り口として販売している。

今後、製品はカスタマイズの時代に入ると考えらえている。清涼飲料水「ゲータレード」は、ドリンクを個人にカスタマイズするパイロットプロジェクトとして、ブラジルとアメリカのサッカーチームの選手全員にカスタマイズしたドリンクを提供。

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