TPP、各業界へのインパクト 「ルールの変化」が生むチャンス

TPPによって、世界のGDPの4割を占める巨大な自由貿易圏が誕生する。それは、日本企業にどのような影響を及ぼすのか。TPPに精通する日本総研の研究員が、各業界への影響、今後の展望を語る。

――今年10月5日、TPP(環太平洋経済連携協定)が閣僚会合で大筋合意に至りました。TPPについて、どのように評価されていますか。

手塚 TPPとは、FTA(自由貿易協定)/ EPA(経済連携協定)の一つであり、域内経済のルールを可能な限り統一し、国境をまたぐ経済活動の壁を低くすることが目指されています。

TPPは当初、2006年に発効したニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイの4ヵ国の枠組みがあり、そこに米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシア、メキシコ、カナダが加わり、日本も参加することを表明しました。

TPPは、是か非かという二分論で語られがちで、思いこみや誤解による感情論も横行しています。しかし、ネガティブに捉えても始まりません。個々の企業にとっては、戦略の自由度が増すことになりますから、これをチャンスと捉えて柔軟に対応する姿勢が、自社の成長を目指すうえで重要になります。

手塚貞治(てづか・さだはる)
日本総合研究所 総合研究部門 成長戦略グループ プリンシパル、部長

 

粟田 TPPで最も多く関心を集めているのは、「関税」だと思います。その点に関して言えば、コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物(砂糖)の重要5品目は、「関税撤廃で市場が無くなるのでは?」と懸念され、「聖域」とされましたが、それらは一定程度、守られたという印象です。

一方で、我が国の輸出を支える工業製品については、11ヵ国全体で99.9%の品目の関税撤廃を実現しています。強弱が見事に分かれましたが、海外市場の開拓を目指す企業にとっては、大きなチャンスになるとも言えます。

政府の2013年時点の試算によると、TPP参加による実質GDP押し上げ効果は3.2兆円。サービス貿易や投資の自由化、政府調達、知的財産など、関税以外の効果も含めると、TPPによって、その倍以上の押し上げ効果を見込む試算も出ています。

粟田 輝(あわた・あきら)
日本総合研究所 総合研究部門 成長戦略グループ シニアマネジャー

海外市場の獲得にチャンス

――日本の代表的な産業である製造業への影響について、どう見ますか。

粟田 関税が撤廃されることで、日本に製造拠点を置くべきという議論が再燃するかもしれません。ただ、実際に製造拠点を国内に戻すかと言えば、その可能性は低いと思います。

中長期的で見ると、大きく影響を与えるのは、関税ではなく為替です。TPPによって引き下げられる関税は、数%にすぎません。一方、為替レートは、数年前が1ドル80円前後で現在は120円~130円。この変動幅は、関税では30%以上の変動に相当します。為替変動のほうが、はるかに大きな影響を及ぼします。

手塚 現地で製造・販売すれば、為替変動のリスクを避けることができますから、現地調達比率を高めることがベースになると思います。

一方で、TPPの参加国間でルールが統一されますから、改めてどこに拠点を置くかを検討する場合に、TPP域内が選択肢に入りやすくなるのは確かでしょう。

今回、タイはTPPに参加していませんが、同国は、自動車業界にとって主要な生産拠点になっています。その意味で、自動車業界にとっては、TPPのルールは使いづらいかもしれません。

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