2015年5月号
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パイオニアの突破力

限界突破を目指し、さらに深い海へと

岡本 美鈴(フリーダイバー)

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2014年12月、バハマで開催されたフリーダイビング国際大会のCWT部門で、岡本美鈴は深さ91mの潜水を記録し、日本記録を塗り替えた。ヒトの力だけで海の深みへ潜っていくためには、とっさの判断ができる観察眼と平常心を保ち続ける心の強さが武器となる。限界を超えるために、彼女の武器はどのように鍛えられてきたのだろうか。
文・小島 沙穂 Playce

 

フリーダイビングという競技は「アプネア」とも呼ばれる。スキューバダイビングで使う呼吸をするための器具は用いずに、呼吸を止めて潜水し、人間の限界に挑むスポーツである。

なかでもコンスタント・ウィズ・フィン(CWT)は、人間の力とフィン(足ひれ)のみを使って潜る種目である。海の底へ向かって垂直に深く、ひたすら深く何m潜れるか競うのだ。

競技をはじめて13年目、今も記録を伸ばし続ける岡本美鈴は、フリーダイビングと出合 ったころには、実はほとんど泳げなかったという。

はじめは、ただイルカと泳いでみたかっただけだった。イルカが自由に泳ぎ、遊ぶさまを見て、海の魅力に惹きつけられた。なんとか25m泳げる程度の泳力しかなかった彼女は、いつの間にか自分の“進化”が数字に表れるスポーツに夢中になっていた。それからわずか数年、岡本は世界に挑戦するフリーダイバーになっていた。

“小さな日本”から“強い日本”へ

岡本が初めて世界大会に出た2005年頃、フリーダイビングの世界では、日本は歯牙にも掛けてもらえない弱小チームだった。

「当時の私の潜水記録は50m程度。表彰台に登っていた人たちの記録は80mを超えていました。日本人ではとても追いつけない、圧倒的なレベル差を感じましたね」

フリーダイビングが盛んな地中海近辺の人々に比べて、日本は競技人口が少なく、パワーも肺活量も体格のハンデがある。だが、それだけではない差があった。当時の日本チームには決まったコーチや指導者がおらず、自主的に練習をしたり、仲間内で教え合ったりしていた。我流の練習ではこれ以上伸びない。そう感じた岡本たちは、練習方法を改めることにした。世界大会に出場した際には、他国の選手たちがどんな練習をしているのかをよく観察して日本に持ち帰り、自分たちの練習へと活かす。また、同じ水泳競技でも別の種目である競泳やフィンスイミング(足ひれを装着して泳ぎ、スピードを競う競技)の先生に、フリーダイビング向けの練習プログラムを考案してもらった。

「あえて違う畑の先生につき、それぞれの競技からフリーダイビングに活かせることを“つまみ食い”したのです。また、水泳以外からも何かフリーダイビングに活かせるものはないか、他のスポーツやその他さまざまなジャンルのものを試しましたね」

例えば、メンタルトレーニングの一環として座禅やヨガを取り入れた。これらは効果が目に見えて現れたので、岡本は2015年現在も続けている。一方、試してみて効果がなければ、すっぱりやめる。工夫と実験を繰り返し、効果があれば仲間と情報交換をしつつ取り入れ、日本の競技レベルを徐々に底上げしていった。

そして2010年。世界大会の女子団体で日本が初めて金メダルを獲得する。岡本はそのチームのひとりだった。それまで難しいとされていた、日本の優勝を実現できた。日本人としての可能性を国内外に示すことができた。そして、岡本たちの活躍を見た人々のうちの一部が「フリーダイビングに挑戦したい」と門戸を叩き、その結果競技人口が少しずつ増えてきた。選手全体のレベルも上がり、今では日本人選手が表彰台に立つ回数も少なくない。

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