医療産業に起こる革新 パーソナルデータ利活用の本丸を分析

パーソナルデータ利活用の本丸と言える、医療福祉分野。匿名化されたデータとしても、マイナンバー等個人のIDのもとに集約された生涯健康データとしてもその価値は高い。その活用方法をEY総合研究所の小川高志主席研究員が解説する。

本来の意味での「ウェアラブル」なインナーウェアや肌着などの開発も進んでいる。画像は非接触式センサーを織り込んだベビーウェアシステム「The Mimo Baby Monitor」

パーソナルデータの活用で生活習慣病に歯止めを

児童から高齢者に至るまで、運動不足、食生活の乱れなどによって生活習慣病が増大しています。生活習慣の乱れがその95%を引き起こしている糖尿病の患者とその予備軍の合計は2012年には2000万人以上となっています。また、糖尿病は認知症への引き金となることが近年の研究から分かってきており、10年には認知症患者が高齢者の9.5%程度を占め、今後とも増加する見込みです。

小川高志(EY総合研究所未来社会・産業研究部長、主席研究員)

この結果、「健康寿命」(日常生活に制限のない期間)は10年には男性70.42歳、女性73.62歳と、平均寿命(男性79.55歳、女性86.30歳)と比べ低く、また、その差は近年広がってきています。

こうした傾向に歯止めをかけることが急務となっており、地域の各機関が連携して、健康管理を身近にすることが必要です。そこで重要になるのが、パーソナルデータの利活用です。

具体的には、地方自治体は、健診・検査結果や血圧、活動量等のバイタルデータに基づきメタボリックシンドローム対策などの生活習慣改善指導をきめ細かく実施するとともに、医療機関は治療から予防や健康管理に重心を移していく、といった取り組みが必要です。最近では、地方自治体がフィットネスクラブと連携して、クラブ施設を活用した形での介護予防運動プログラムに取り組みはじめており、高齢者を中心として運動機会を増やすとともに、参加者の一部は自治体補助が切れた後も引き続きフィットネスクラブ会員になるようになってきました。こうしたことから、これまでフィットネスクラブ業界の課題だった「3%の壁」(民間フィットネスクラブへの参加率が人口の3%にとどまっていること)を超えていく可能性が出てきました。

Apple Watchなどのウェアラブル端末が登場し、クラウド型の健康管理サービスも普及しはじめている

ウェアラブル端末の登場によるデータ・ビッグバン

さらに、情報通信技術やネットワーク環境の進化によって、ウェアラブル健康管理端末等を活用したクラウド型の健康管理サービスも徐々に普及してきています。その際の端末としては、以前は、万歩計のようなものが主流でした。しかし最近では、見た目はおしゃれでハイエンドな時計ですが、活動量や消費カロリー数を記録することができ、さらにはボタンを押すだけでタクシーを呼べるような端末が登場したり、また、本来の意味での「ウェアラブル」なインナーウェアや肌着などの開発も進み、ますますライフスタイルに溶け込んでいく可能性が広がってきています。そして、これら端末から得られるパーソナルデータは、今後、加速度的に増えていくはずです。

こうした新たな運動プログラムや健康管理サービスによる健康増進効果については、地方自治体等が保有する個人の特定健康診査データを匿名化したうえで統計処理・オープンデータ化して、個々のプログラム等の効果の評価のために提供するとともに、良好な効果が出たプログラム等については横展開を進めることで、地域全体での医療費負担の軽減につなげられます。バイタルデータは数が多ければ多いほど付加価値が高まるので、新しいサービスが生まれるきっかけにもなります。

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