2015年1月号

今日から始めるロボット事業

サイバーダインの新戦略 ロボットの「サービス化」で市場開拓

久野 孝稔(サイバーダインメディケア推進部部長、湘南ロボケアセンター代表取締役社長)

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高価なロボットを社会に浸透させるためには、製品販売だけでなく、「サービス化」というアプローチも必要になる。トレーニングセンター事業を開始した、サイバーダインの取り組みに迫る。
(取材協力:リンカーズ)

 

車いす生活だったPhilippe von Gliszynskiさんは、HALを用いた臨床試験に参加。HALを使わず歩行器で1000m以上歩けるまでに回復した

海外にも広がる市場

立ち上がる、歩く――。装着する人の意思を感知して、動作をアシストする世界初のサイボーグ型動作支援ロボット「ロボットスーツHAL®」(以下、HAL)。言わずと知れた、日本を代表するロボットベンチャー・サイバーダイン(茨城県つくば市)が開発・販売を手がけるロボットだ。

筑波大学大学院の山海嘉之教授(兼サイバーダイン代表取締役CEO)がロボットスーツの研究を始めたのは約25年前のこと。2009年に福祉機器としてロボットスーツを市販化し、2013年にはロボットで世界初の国際安全規格(ISO/DIS13482)を取得。上市から5年で、病院や介護施設などの約170施設で約400台が利用されている。

サイバーダインメディケア推進部の久野孝稔部長(兼湘南ロボケアセンター代表取締役社長、サイバーダイン100%出資子会社)は、「脳梗塞や交通事故で手足にまひが残っている人も、脳から手足の筋肉への微弱な生体電位信号が検知できれば、それに応じて身体を補助し、装着者の立ち座りや歩行のトレーニングをアシストできます。さらにこのトレーニングによって『立てた』、『歩けた』という成功体験を経験していくことで、身体機能の向上を目指していきます」と説明する。

久野孝稔 サイバーダインメディケア推進部部長、湘南ロボケアセンター代表取締役社長

国内外の医療機関で実証された臨床データによって、医学的な効能効果が証明されたことで、EUでは医療機器としてCEマーキングを取得。ドイツでは2013年8月、HALによる治療が公的労災保険の適用対象となった。車いすから自力歩行までには60回の装着、期間にして約3ヶ月という治療プログラムが組まれ、すでに多くの人が社会復帰を目指して治療を受けている。

アメリカでも11月、米国食品医薬品局(FDA)にHAL医療用の医療機器承認の最終申請書類を提出。2015年中のFDA承認を目指している。

フィットネス事業を開始
ものづくり+サービスで成長へ

成長軌道を描きはじめたサイバーダインだが、ここまでの道のりは平坦ではない。もともと茨城県商工労働部の職員だった久野氏は、HALに惚れ込み、08年から営業部長として介護施設や医療機関を走り回ってきた。

「営業に行くと、ロボットと聞くだけで門前払いされる例は本当に多かったです。今でも見る前から拒否反応を示される場合があります。理解が深まりにくいのは、ロボットが生活に溶け込んでいる状況を想像できないからでしょう。

『科学は人の役にたってこそ意味がある』というのが山海先生や我々の想い。いくら高度なロボットを作っても、社会実装されなければ意味はありません。そこでサイバーダインは、ものづくりだけでなく、サービス開発も同時に取り組んでいるのです」

2013年には、直営のトレーニングスタジオを全国4カ所に設置。湘南ロボケアセンターはその最大の拠点だ。富士山を展望できる開放的なスペースで、HALを装着した立ち座りや歩行練習といったロボットによるフィットネストレーニングHALFIT®(ハルフィット)を提供する。看護師や理学療法士ら医療・介護従事者をスタッフに揃えており、HALを使わない運動機能訓練特化型のデイサービス(通所介護)も併設して展開中だ。

下肢用だけでなく単関節用(写真)や作業支援用など、サイバーダインは数多くのタイプのHALを開発

「一般的な医療機関で働いていた方が、ここで仕事をするようになったことで、能動的にロボット等の機器を応用しようというマインドに変わってきました。こうしたプロフェッショナルユーザを増やせば、今まで以上に現場のアイデアを介護ロボット等の活用に反映できるはずです」と手応えを話す。

行政・他企業を巻き込む

湘南ロボケアセンターでは地元の藤沢市がHALを使ったトレーニング向けに助成制度を設け、10回分のトレーニングは無料で受けることができる。この助成制度利用者の中には、酸素ボンベを背負って通う人もいるという。

「パブリックセクター(自治体等の公的機関)に働きかけ、制度作りを提案していくことも社会実装を進めていくうえで大切です。4カ所のトレーニングセンターはいずれもロボット産業振興やライフイノベーションを目指す特区エリアの中に位置しており、理解が得られやすい環境があります」

理学療法士や看護師を含む専門スタッフが、利用者一人一人に合ったHALトレーニングメニューを組む

また、「他のメーカーと連携し、『業界』を作っていくことが不可欠」と久野氏は強調する。今年12月からは、センター内に他社の医療・介護ロボットも並べた体験・販売ルームをオープンする。排泄介助や見守りシステムなど、20種類程度のロボットを常時販売するという。たとえ大手企業でも、新規事業のロボットはリソースが少なく、販売活動に苦労している例が多い。ロボットを受け入れる社会的土壌を育てるためには、まずは競争よりも協力が肝心と言える。

「社会実装の切り込み部分をどんどん増やし、医療介護の現場や消費者、行政、企業などに理解者を増やしていくこと。そうしなければロボット産業は成長しません」と久野氏は力を込める。

日本のロボットベンチャーの先頭を走るサイバーダイン。ものづくり+サービスのハイブリッドで飛躍する同社の取り組みからは、ロボットビジネスを構想する上での多くのヒントが見えてくる。

膝の屈伸、立つ、歩く、座るなどさまざまな身体動作を支援する


新事業のアイデアを考え構想する
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