2014年12月号
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スティーブ・モリヤマのクリエイティブサロン

「言葉を超越した」 技術・経営・アートとは

西村邦裕(テンクー代表取締役社長)

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ゲスト・西村邦裕氏(テンクー代表取締役社長)/於・MEGRO text by Steve Moriyama

右)テンクー・西村邦裕氏、左)ジュリアス・ニールセン氏(デンマークの投資家)、中央)筆者

西村氏  スティーブさん、このお店、東大の卒業生がやってるみたいですよ。

――面白いお店ですね。本郷でマグロに集中したニッチ戦略をとってるお店は珍しい。マグロといえば、ある意味で、西村さんも僕も「マグロ」ですよね。回遊魚マグロって、常に泳ぎ続けないと死んでしまうといわれています。で、実際、僕らも常に動き回っている。しかも、西村さんはマラソンもやるから走っている(笑)。現代人のことを「ホモ・サピエンス」(知のヒト)と呼ぶのはよく知られてますが、原人をふくめたヒトのことを「ホモ・モビリタス」(移動するヒト)というのはあまり知られていません。知られてないので「マグロ」と表現してますが、動けば動くほど、思いがけない出会いがあって、違った景色が見えてきます。

西村氏  我々マグロもそういうご縁の連鎖の結果、出会えたわけです。

 

――ええ、ありがたいことです。このマグカップでマグロさんたちに乾杯しましょう(笑)。さて、西村さんは、東京大学先端科学技術研究センター(以下、先端研)で研究されていたので、周囲の人たちは、学者の道を究めていかれると思っていたのではないでしょうか。起業された経緯についてお聞かせいただけますか。

西村氏  理由を一言でいえば、「ソーシャル・インパクト」という言葉に集約されます。私は東大機械情報工学科を出てから、バーチャル・リアリティの世界にすっかり魅了されてしまいました。膨大な情報を映像化する研究が楽しくて仕方がなかったのです。

 

――人生の早い時期に天職に出会えたのですね。素晴らしい。

西村氏  ええ、恵まれてました。また、大学4年生の時の恩師が、組織の壁を越えて研究に打ち込むタイプの方で、システム生物医学部門とゲノムサイエンス部門の教授たちとゲノム情報の可視化の研究を始めたのです。私の研究室は先端研のビルの5階にあったのですが、ゲノムサイエンスの研究室もたまたま3階にあって、しかも6階には知財権など法学系の研究室もありましたから、部門の壁を越えたゲノム関連情報が自由に飛び交う環境にいたのです。そういう偶然が重なったこともあり、自然とゲノムにのめりこんでいったわけです。

 

――バーチャル・リアリティー(VR)とゲノムの掛け算。素敵な横文字のカップリングですね。大企業もそうですが、聞くところによると、多くの教育機関でも部門間、組織間のコラボレーションはなかなかうまくいってないようです。でも、本当のところ、二十一世紀に人類が直面する諸問題って、様々な事柄が複雑にからみあっていて、専門家と称する人たちが、一つの側面から解を導こうとしても不可能なんです。自分の専門知識だけに閉じこもっていては、解けない問題が世の中には溢れている。東大工学部の研究者の方たちはそのあたりをよくわかってらして、組織の壁なんて取っ払って、解にたどりつこうと切磋琢磨されているわけですね

遺伝子を可視化した画像

西村氏  そう言っていただけると、喜ぶひとは多いでしょうね(笑)。私自身、ある意味「モザイク的」といいますか、業界、組織、国境といった境界(ボーダー)を超越して活動するのが好きなんです。そうやって研究しているうちに、研究成果を社会に役立てたいという気持ちが日に日に強くなっていきました。もちろん、そのまま大学に残って、アカデミック・インパクト(学術界の発展に貢献)を追及する選択肢もありました。ですが、それではごく一部の人たちにしか使ってもらえません。それよりもソーシャル・インパクトを意識して、何億人の人生を豊かにする一助になるほうが魅力的に思えたのです。それで、2011年4月に起業しました。

 

――「ソーシャル・インパクト」という志は素晴らしい。その目的を果たすために「モザイク的」でありたい、ということですね。そういえば、マグロも西村さんのいう「モザイク的」です。狭い水槽の中でじっとしていられない。大海原のいろんなところに首をつっこみながら移動しないと生きられない(笑)。社名のXcoo(テンクー)の由来も「モザイク的掛け算」でしょうか?

 

西村氏  一つの意味としては、音のとおり「天空」からきてます。「天の空間」です。「X」には「橋を架ける」や「エクスチェンジ」(情報等の交換)といった意味をこめ、「COO」にはCooperation(協力)等の意味も含ませています。

 

――なるほど、そういう意味だったんですね。実は、最初、テンクーというお名前を伺ったとき、真っ先に僕の頭に浮かんだのは、色即是空の「空」でした。この言葉の意味は、「空っぽ」という意味ではありません。「人は、人と人のつながりの中でしか生きられない。そういう存在である以上、自分に執着するなかれ」というのが、本当の意味です。その意味で、西村さんの志である「ソーシャル・インパクトを与えたい」とも合致してますし、とても縁起の良い社名ですよね。

西村氏  なるほど、面白い。そうおっしゃっていただけると嬉しいです。新たな解釈が加わりました(笑)。

 

――さて、貴社は斬新なサービスを提供されています。少しご説明いただけますか。

西村氏  はい、今日は、弊社の主要ビジネスであるChrovis(クロビス)に絞ってご説明させていただきます。Chrovis(クロビス)は、Chromosome(染色体)× Visualization(可視化)を掛け合わせた造語ですが、一言でまとめると、「ゲノム等のクラウド解析とビジュアル化による安心健康サービス」となります。近年、技術の進化により、ゲノム情報の処理スピードが格段に速くなり、また低コスト化も図られてきました。皆さんの遺伝子を見るという時代も、もはやSFの世界の話ではなく、間近に迫っているのです。

 

――なるほど、西村さんはそうしたパラダイム・シフト(根本的な変革)の一翼を担っているわけですね。ここでも「つながり」という意味での「空の発想」ですね。

西村氏  恐縮です。人間も含めたあらゆるゲノム情報を解析して、わかりやすく可視化していくサービスです。具体的には、研究者や医師から入手した大量の遺伝子情報を、クラウド上で閲覧ソフトを用いて自動解析し、その結果をわかりやすいビジュアルとスムーズな操作感をもってウェブ上でクライアントに提供していきます。弊社独自のビューアで染色体から塩基配列まで、なめらかにズームしながら確認でき、変異(SNP)や置換・欠損(IN/DEL)なども見ることができるサービスです。

 

――このサービスを思いつかれたのは、研究室時代の掛け算の発想(バーチャル・リアリティーとゲノム)の延長線上にあるとおもいますが、もう少しご説明いただけますか。

西村氏  そうですね、確かに20歳ぐらいからこんなことを考えていたのです。私は、高校生の頃から思いついたことをノートにメモする習慣があるのですが、20歳の頃のノートを読み返してみたら、「技術・経営・アート」というキーワードが書いてありました。クロビスにあてはめると「技術=ゲノム情報処理」「経営=起業」「アート=可視化」となります。この3つは一貫してキーワードになっています。ちょうど、ゲノム情報処理技術の進化と低コスト化が起こってきた時期とも重なっていたので、思い切って会社を立ち上げました。

 

――クロビスのUSP(ウリ)は何でしょうか?

 

西村氏  クロビスのサービスは、ゲノム情報の解析処理と可視化に集約できますが、解析処理において大切なのは、何よりスピードとコストパフォーマンスの高さです。この点、我々はクラウド上で自動計算をおこなうため、迅速かつ費用対効果の高いサービスを提供できます。特に、最大のウリは、滑らかな可視化です。いくら可視化できても、お客様が滑らかに操作することができなければ、顧客満足度は上がりません。また、ズームイン・ズームアウト、比較閲覧など、情報にアクセスする際の利便性が高くないと、思考活動を止めてしまいます。操作性と容易な情報アクセスをはじめとした利便性を高めることで、お客様はよりクリエイティブに問題解決にあたることができるのです。

 

次世代DNAシーケンシング技術(NGS)によって、先天的な塩基配列のみならず、現時点での遺伝子の働き具合(発現)といった情報も解析可能になりました。個別化医療においても利用できうる重要な手法といえます。これからも次世代シーケンサを利用した話題が益々増えていき、シーケンサの医療応用がどんどん進んでいくでしょう。その普及と稼働率が高まっていく過程で問題になるのが、データ解析技術なのです。だからこそ、我々はそこに注力していきます。

 

――ゲノムの読み取り装置には、いわゆるPCの世界でいう「ムーアの法則」が当てはまるという理解でよろしいのでしょうか?また、DNAシーケンサーの価格が下がっていくとすると、ハードの下落スピードに応じて、ソフト(関連サービスやソフトウェア)の提供価格も影響をうけるのではないでしょうか?

西村氏  ヒトゲノムは、2000年に初めて解読されました。当時は、ヒト一人の全ゲノム配列の読み取りに13年の歳月と3000億円以上のコストがかかりました。しかし、次世代シーケンサの登場により、現在では10万円程度の費用で、わずか1日で読み取れるようになっています。近いうちに数万円程度で数時間で読み取れるようになるでしょう。実際、ハードウェアの部分では「ムーアの法則」よりも速く、一説には半導体チップの6倍とも言われるスピードでコストが下がっています。また、仰るように、ハードのコストが下がり、データが大量に出てくると、関連サービス、ソフトの提供価格もコストが下がるはずです。現状は、ソフトの面では、手作業が入ったり、さまざまなソフトを利用したりと、効率的ではありませんが、その部分を自動化、分散化、高速化して、効率よくクラウドで解析する、というのがクロビスの提供するサービスです。データが大量に出てくると、考えなければいけないのは、データの管理、解析、その理解、となります。解析は自動化、分散化、高速化などにより実現できると思います。データ自体も巨大かつ多量なため、きちんと管理しなければなりません。また、理解するためには、可視化、ブラウザが重要になります。この管理、解析、ブラウザの3つをクロビスでは低価格で提供していきます。

 

――現状、貴社のブラウザは突出した技術に基づく利便性の高いものかとおもわれますが、類似サービスを提供している競合との価格競争は起きつつあるのでしょうか?可視化のみならず、データ解析をふくむ関連サービスのコモディティー化の波に対する貴社の戦略はどのようなものでしょうか?

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