2014年12月号

チェンジ・リーダー

「一歩踏み出せない症候群」 解決策のキーワード

松田智生(三菱総合研究所・主席研究員)

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事業構想を実現させるためには、決断力、行動力が必要だ。今回は、事業構想や新たな挑戦を阻む「一歩踏み出せない症候群」を紹介する。過去のしがらみや失敗を恐れず、優れた構想を描くリーダーはどのように進むべきか。

一歩踏み出せない症候群とは、社内のしがらみやリスクを気にするばかりで、何度も同じ計画や会議を繰り返し、結果的に何も進まない現象である。いくら優れた事業構想であっても、決断力と行動力が伴わないと何も起こらないのである。

なぜ一歩踏み出せないのか、その要因を考えてみよう。

第一に過去のしがらみにとらわれることだ。やるべきことは分かっているが、「この新規事業は創業者の事業を否定することになる」とか、「これはお世話になった上司のあの部署と摩擦を起こす」というように過去のしがらみのボトルネック化である。

第二に失敗を過度に恐れることだ。「もしうまくいかなかったらどうしよう」、「失敗したら役員からたたかれる」、「もう少し様子を見たほうが良いのではないか」というように、失敗を過度に恐れるあまりに良い構想がありながら行動が伴わない。そして延々と計画を練り直すばかりになる。

またやるべきことは明確なのに、上司や役員が自らリスクを負いたくないので、度量が広いように見せかけて「もっと良く話し合え」、「議論を尽くせ」と決断を先延ばしにする「よく話し合え症候群」もある。

一歩踏み出せない職場には共通の特徴がある。発展段階論的に言えば「緩やかな衰退」にいることだ。業績が右肩下がりで回復の兆しが見えない企業、人口減少と財政悪化が徐々に進んでいる市町村などだ。ただし急激な落ち込みや大赤字には至っておらず、「緩やか」に衰退しているので、問題意識はあっても危機意識に至らない。

もし、債務超過や財政破綻といった存亡の危機となると、もう一歩踏み出すしか選択肢はない。しかし緩やかな衰退にある職場は、「何かおかしい」、「何かすべきだ」と頭では分かっていながら動けない。危機に対する感覚が麻痺しているのだ。

この状態を「茹でガエル現象」として思い浮かべる方も多いだろう。カエルを熱い湯に入れるとびっくりして飛び出して生き残るが、一方で水に入れてゆっくりと温められると、水の温度上昇に気づかず、最後には死んでしまうという話である。一歩踏み出せない症候群とは、環境変化に気づかない茹でガエルと一緒なのだ。

他者・他社を利用する

では一歩踏み出せない症候群を変えるにはどうしたらよいか?解決のヒントは何か?

まず、一歩踏み出せない上司に対しては、「他者・他社を利用する」ことだ。一歩踏み出せない人々は、慎重過ぎて常に他とのバランスを気にする傾向にある。それならばその傾向を逆手に取り、次のようなフレーズで背中を押すのだ。

例えばこのような流れだ。

リーダー :この事業構想で役員会に諮りたいのですが。

上司: しかしこれはあの専務の部門と摩擦を起こすのではないかな。

リーダー: でも、隣の部長も新規事業の検討を始めていて、近々役員会にかけるそうですよ。

上司:えっ、そうなのか!うーん、隣の部長に先を越される訳にはいかないな。

 

リーダー :この事業構想の承認をお願いします。

役員: うーん、これで本当にいいのか?リスクがまだあるのではないか?関係部門とよく話し合いなさい。

リーダー :ライバルのあの会社はもう動き始めましたよ。

役員: えっ、そうなのか!うーん、あの会社に先を越されたら社長に何を言われるか分からないな。では承認するしかない。

良い意味で、外圧を利用することだ。

3年後の自分を思い浮かべる

次に、自分自身が一歩踏み出せない場合はどうするか?「3年後の自分を思い浮かべる」ことだ。過去に破綻した金融機関や業績悪化で買収された企業で働いた方々に話を聞いてみると、「振り返るとあの時が分岐点だった」、「あの時一歩踏み出すべきだった」、「分かっていたのに、なぜ行動しなかったか」という話は枚挙に暇がない。

過去を後悔しても何も帰ってこない。そうならないためには、将来の自分を思い浮かべることである。ただし、それは10年先の話ではない。想像しやすい3年後の自分の姿である。今一歩踏み出せば、これまで検討してきた事業構想は、こんな事業に成長し、顧客から喜ばれ、やって良かったと「なりたい自分」が見えてくる。

逆に今一歩踏み出さない自分を想像する。相変わらず計画ばかり作って、出来ない言い訳ばかりしている「なりたくない自分」が見えてくる。

私は超高齢社会の新産業を専門分野としていることから、高齢者のコミュニティや老人ホームなどで、様々な高齢者の声を聞く。彼らが語る現役時代の後悔として、最も多い言葉は何か?それは「もっと自分に正直に生きれば良かった」という言葉である。

言うべき時に言えなかった、行動すべき時に行動出来なかったということだが、引退後に後悔しても過去は帰ってこない。まず今動くことだ。

少しの強制力とインセンティブ

   

もうひとつの解決策は「少しの強制力」だ。真面目な事業構想家ほど「これで良いのか?」、「もっと構想を詰めないと」、「まだリサーチが足りない」と一歩踏み出せない率が高い。その背中を後押しする方法として、「基本構想を作ってから1年以内に具体的な事業計画を出さねばならない」、「事業計画策定後、1年以内に事業開始をしなければ支援を打ち切る」。逆に、「1年以内に始めれば金融面や販路開拓面の支援を会社として強化する」といったようなインセンティブとセットにすることだ。

 

強制力とインセンティブという制度設計、仕掛けづくりの視点である。

 

幾らビジネス書を読み漁っても、幾らセミナーでインプットに努めても、幾ら異業種交流会で名刺を配って人脈を広めても、何も動かない。自ら腹を括り開き直って一歩踏み出さねば事業構想は実現しないのである。

松田智生(まつだ・ともお)
三菱総合研究所 主席研究員
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