2014年11月号

営業の真髄

「博報堂ウェイ」を浸透させた 国際戦略の鍵はネットワーク

神保智一(ピーアールビジョン取締役社長)

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国際業務局に異動になり、「国際2000年構想」を打ち出した。海外戦略で重要となるのは、いかにして現地パートナーのネットワークを築くか。国別、地域別にパートナーを選別し、独自のネットワークづくりに取り組んだ。

2000年に向けた国際戦略

1993年12月、私は珍しく定期の人事異動を命じられた。異動自体は別に驚かない。何故なら既に私はある内示を受けていたからである。ところが驚いたことに行き先が急に変わった。

当時、私は16営業局の局長であったが、かねてから目を掛けていた後進に席を譲り、私自身は国内の別の営業局の局長に異動することが決まっていた。ところが国際業務局の方で、ある問題が発生し、どうしても局長を変える必要が起こったらしい。そしてその標的となったのが私である。

上司に呼ばれて「お前さん、国際!」と言われ、「えっ?」と私は驚いた。「国際ですか?」。別に国際が嫌いな訳ではない。ただ、急に異動先が変わったので驚き、かつ、その理由を聞こうとした。上司は何も答えてくれない。

「良いからとにかく行け!」と答えるばかり。もう質問するのも面倒となって「分かりました」と受諾した。

さて、異動先が急遽変わったので私も用意していた方針を変えざるを得ない。内示を受けていた国内営業局はかつて私が担当していた大手得意先が大黒柱で、ある意味極めてやりやすい。しかし守備範囲が180度変わったので新しい方針を考えなければならない。暫くして私は頭を切り替えた。「やってやろうじゃないの!」

まず私は国際業務局を取り巻く状況を研究し始めた。以前、国際と縁の深い「NECチーム」という営業部隊を率いたことがあるし、私自身ニューヨークで働いた経験もあるので理解はしやすかったが、やはり国際の現場に立ってみると知らないことが多い。でも新しいことに挑戦することは楽しかった。

当初「なんで俺が国際なの?」と考えていたが、頭を切り替えれば挑戦しがいのある職場だと思った。なぜなら私の目からすると国際環境はかなり未整備で、やるべきことが沢山あると思えたからである。爾来、十数年に及ぶ国際担当生活が始まる。博報堂の海外オペレーションの歴史は決して新しくはない。しかし今後の得意先の展開を予測すれば十分な対応は難しい、と思った。そこで早速国際グループの中に「国際戦略委員会」というチームを立ち上げて「2000年に向けての国際戦略」を考え始めた。

リーダーは私であるが、サブリーダーとして私が信頼する棒田君を選んだ。彼はマーケティング思考に優れ、同時に国際の状況に精通している。チームの構成員の中に海外で働いている仲間も入れて、国内目線ばかりではなく、国外からの目線も大切にしようと思った。

米国を代表する広告業界誌である「アド・エージ誌」に、博報堂の国際戦略に関する記事が掲載された

海外でビジネスチャンスを

私が国際も面白いと考えたのには二つの理由がある。まず第一はこれからの日本の大手得意先は今まで以上に海外で稼ぐ必要が出て来るだろうということ。そこにビジネスチャンスが生まれる。もう一つの理由はライバル電通に追いつき追い越すチャンスが海外にはあるのではと考えたからである。

半年ほど掛けて皆で戦略を練り上げた。内容は多岐に渡った。まず市場環境の認識から始まり、国際化の重要性と国際ビジネスのドメイン、海外展開の現状と課題、そして最重要の「国際2000年構想」。それをベースとした基本戦略、重要施策などについて考えて行った。

あるとき副社長をヘッドに幹部の役員を対象にしたプレゼンテーションを実施、余りにもプレゼン内容が多いのでややトップの方々は消化不良に陥っているやに見えた。ともかく基本路線については了承をとり、その実施に向けて動き出すことになった。

1996年2月、私は取締役国際局長に昇進した。内示はマレーシアへの出張中に受けた。現地の得意先を訪問してオフィスに戻ると、本社の東海林社長から電話があったという。折り返し電話をすると社長は特徴のある山形弁のイントネーションで「君、2月から取締役をやって貰うよ、頑張ってくれよな」という激励。嬉しかった。それは偉くなるということより、今までの努力が認められたという誇りと、今まで以上に組織に影響力を行使出来そうだという期待から来ていた。

電話を置くと近くにいた現地法人のパートナー「ダトー・チョン氏(故人)」が心配そうに私に質問する。「電話は何だったの?」。私は役員昇進への内示を受けたことを話した。それを聞くとダトー(男爵)は我がことの様に喜んでくれた。彼は博報堂マレーシアの開闢以来のパートナーで数年後に亡くなった。私は葬儀への参加は勿論のこと、その後の出張の際は墓参を常とした。

パートナーをネットワークに「教育と研修」が鍵

海外ネットワークを築くため、中堅幹部を日本に招聘して「エクゼクティブ・トレーニング・プログラム」を開始した

国際オペレーションの中で実施したことは数々あるが、まず第一に考えたのは「海外ネットワーク整備」ということである。

得意先にどういうネットワークで対応するか?これには大別して二つの考え方がある。まず第一は既に出来上がっているネットワークを買収する、あるいはそれと提携すると言う考え方。この方法のメリットは短期間でネットワークを創れるということだが、一方、場合に依っては「使い勝手が悪い」というケースも儘ある。もう一つのやり方は国別、地域別に相手を選別し買収あるいは提携をしてネットワークを整備するという方法。こちらの方は間違いが少ないが時間が掛かるというデメリットがある。

私はどちらの方法を選択すべきかまず皆の意見を聞いた。そしてその後自身でかなり考えて結論を出した。選択したのは後者。国別、地域別でパートナーを見つけてそれに横串を刺してネットークを築くという方法。名付けて「メガ・インディペンデンス」。これは私のネーミングではない。仲間の一人佐野君(現、明治大学教授)のアイディア。

ではそれぞれ違った性格の会社をどう結びつけるか?これが問題となる。私はそのキーは「教育と研修」にあると思った。そして毎年、新しく選んだパートナーから中堅幹部を日本に招聘して「博報堂ウェイ」を浸透させていく。名付けて「エクゼクティブ・トレーニング・プログラム」。いささか時間は掛かるが結局は一番手堅いやり方ではないかと考えた。

神保 智一(じんぼ・ともかず)
ピーアールビジョン取締役社長
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