2014年10月号

営業の真髄

「デザインは未来志向か?」 前代未聞の車の新商品開発

神保智一(ピーアールビジョン取締役社長)

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新製品開発を意味する「R&D」。広告会社が飲料や食品などのR&Dを担当することもあるが、筆者はこれまでにない“車”の開発を行う機会に恵まれ、画期的な車作りを提唱した。

国内営業局長時代。1991年、博報堂オフィスにて

広告会社が車のR&Dを担当

1983年に営業部長になったとき、我々の部へ十数人の人達が参集してくれたが、その中に一人、車のアカウントを持ってきた仲間がいた。

車のメーカーは言うまでもなく、得意先として、広告会社にとっては「垂涎の的」である。この車メーカーは国内の代表的な会社ではあったが、残念ながら我が社の扱い額は当時微々たるもので、言わば同社に出入りしている広告会社の中で3番手、4番手の存在であった。しかしその会社の懐の深さを考えると重点開発得意先であることは言うまでもない。担当の仲間共々、私もかなり足繁く通ったがなかなかチャンスは巡って来なかった。

得意先の宣伝部長のAさんは大変温厚篤実なお人柄で私は大好きであった。このAさんが人事異動で広報部長に移られた。広報部長も広告会社にとっては重要な相手ではあるがやはり宣伝部長と比較すると間合いが違う。

従って、どうしても広告会社の担当者の訪問頻度は両者の間に差が出てくるのが普通である。私の場合は広告扱いが少ないこともあって両者へ同じ頻度で通っていた。一つには私は前述の通りA部長が大好きだったので同社を訪問する時は必ず広報に立ち寄って雑談をして帰るのが習慣化していた。

会社にとって為になるのは”新しい経験”

ある日、そのA部長から私に電話が入った。「神保さん、ちょっと相談したいことがあるので時間のある時、寄ってくれますか?」

私は即日Aさんを訪ねた。「どんなお話でしょう?」

尋ねる私にAさんは淡々と話をされた。「おたく車のR&Dは出来ますか?」

「えっ?」と私はわが耳を疑った。そして尋ね返した。「車のR&Dですか?」

Aさんは静かに返答された。「そうです。」

「R&D」とは専門用語で新製品開発を意味する。私が聞き返したのは当然で、食品や飲料については広告会社が「R&D」を担当することはままあるが、少なくとも私の知る範囲で車のそれを広告会社が担当した事例は耳にしたことがない。私は即答は出来なかった。「このお話持ち帰って上司と相談したいのですが宜しいでしょうか?」

Aさんは気軽に答えられた。「良いですよ。また無理をする必要もありませんよ」

私は慌てて帰社すると上司と相談をした。「こんな、リクエストですがどうしましょう?」。上司は私の話を聞いた後すぐに質問。「そのR&Dを成功させれば新車の扱いは来るんだろうな?」。実はこれについては私も先刻、同じ質問をAさんにしていた。回答は「車のR&Dと新車の扱いはまた別です。それはその時点で数社でコンペをして内容が良い広告会社に扱いを決めます」。その旨を上司に話すと「そんなバカなことがあるか、苦労だけして一番美味しい所を食べられないなんてバカげている。断って来い。」との指示。

私は食い下がった。「R&Dをやっていればコンペをしても圧倒的に有利だと思うんです。是非やらせてください」。上司は「勝手にしろ!」と部屋を出て行ってしまった。私は「では、勝手にします」と背中に言葉を投げかけた。

そして翌日同社に行き「是非、R&Dを担当させてください。」と懇請した。上司の指示には逆らったがこれには訳がある。幸い私はその上司に可愛がられていたので仮に逆らっても最後には許してもらえる自信があった。そして何より新しい経験は社にとって絶対為になるとの確信があった。

外部のブレーンも集め新商品開発へ

翌日、得意先からのOKが出た後、上司にその旨報告すると彼は微苦笑していて無言、すでにそれは許可してくれている証拠でもあった。かくて前代未聞の車の新車開発を担当することになる。

私はどうすべきかを懸命に考えた。身近にそんな経験をした先輩や同僚もいない。自分で考えるしかない。

まず、車のマーケティングに関する本を会社の図書館で探し、片端から読み始めた。読んでいくと基本は食品であれ、飲料であれ、車であれ、同じであることが分かってきた。幸い私は過去にマーガリンのR&Dをみっちり経験している。

大分自信が出てきたところでマーケティング担当のスタッフに相談をした。いろいろなブレーンを集めたい、社内もさることながら外部で優秀な人達、例えば文明論の専門家、未来学者、デザインの専門家、車の販売促進に詳しい人等など。一から考えるしか無かった。でも「面白い」と思った。

思いっきり自由に考える。まずは「車のコンセプト。(どんな車にするか?)」「ターゲットは。(主要顧客はだれか?)」「デザインは未来志向か?」「売り方は新しいか?」

そんなことを皆でワイワイガヤガヤやって決めて行った。

「楽しかった」。まず第一にメーカーの人達以外あまり経験したことのない領域を考えていることが楽しかった。そして約2年ほど「試行錯誤」し、最終的に得意先にプレゼンテーションした結果は「成功」。当時としてはかなり画期的な「車作り」を提唱した。

無論、メーカーの方でも色々考えられていて、我々の提案の中で良い所を取り入れられたのではあるが、初めての仕事であることを考え合わせると「我々の努力は実った」と結論づけた。

このプロジェクトの後、私は「NECチーム」の専属リーダーとして暫くこのメーカーと離れることになる。

1991年5月、またも期の半ばで私は国内の営業局長に昇格したがその折、このメーカーさんは私の局扱いとなり再びお付き合いすることとなる。

私の局に戻ってきたその年、一挙に3車種のAE扱いが決まった。私が部長として担当していた当時の扱いに比してこの年の同社扱い額は約100倍となる。この快挙を裏付ける様にその年の暮れに催された社内表彰式で社長特別賞を受賞している。

国内での経験を国際でいかす

さて、このようにしてこの後もこのメーカーさんとの付き合いが続いていくがこの2年後私は突如として国際に人事異動となった。私の場合、人事異動に関して予想できないことが多いがこれも運命のいたずらだろうか?

国際に異動した後そちらでも韓国の自動車メーカーの新車販売を担当することになるがこの国内での経験が役立って先方から高い評価を得ることが出来た。まさに国内における経験のおかげである。

さて、車に関する話を縷々述べてきたが最初は唐突な話から始まった。しかしこれは結果として幸運以外の何物でもなかった。時折、幸運をもたらす要因は何だろうと考えることがある。色々な原因が考えられるのだろうが根底には人との付き合いを大事にする気持ちが横たわっているような気がするのだが、読者はどうお考えだろうか。

神保 智一(じんぼ・ともかず)
ピーアールビジョン 取締役社長
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