2014年9月号

未来の学び産業

自分のノウハウを体系化 「教える」スキルで市場を拓く

藤本崇(ストリートアカデミー代表取締役CEO)、堀内恭隆(ライフ・デザイン・メソッド代表)

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現在、教える人と学びたい人をつなぐマッチング・サービスが人気を集めている。自分自身の可能性に気づけば、誰もが講師になれる時代。自分の知識、ノウハウを教えることで、生き方の選択肢を広げることができる。

ストリートアカデミーは、誰でも教室やワークショップを開催できるスキル共有のコミュニティサイト

人は誰でも、何かの先生になれる。現在、自分で教室を開くためのツールは充実し、「教える」ことをお金に換える手段も、さまざまなものが登場している。

アメリカで生まれたスキル共有サービス「Skillshare」は、誰もが先生になれるプラットフォームだ。何かを教えたい人が「Skillshare」のサイトで講座の告知・募集を行い、学びたい人とのマッチングを行う。

そうした教える人と学ぶ人をつなぐサービスは日本でも増えており、「ストリートアカデミー」や「shAIR(シェア)」などが登場している。また、自分の空き時間を30分単位で販売する「TIME TICKET」のようなサービスも、自分が伝えたいこと、教えたいことを誰かと共有するために活用できる。

教える対象を100人など大規模に設定しなければ、誰でもすぐに講師になれる環境は整っているのだ。

全国で広がるスキルの共有

ストリートアカデミーは2012年7月の設立。CEOの藤本崇氏はスタンフォード大学のMBAを修了し、投資ファンド勤務などを経て、ストリートアカデミーを創業した。

「学びを自由にしたいという思いが、起業の原動力でした。起業とは、『社会にこうしたものがあればいい』という問いかけであり、究極の自己表現です。自己表現が社会に刺さることで、収益モデルとして成立していく」

事業のヒントになったのは、アメリカの「Skillshare」だ。「Skillshare」は2011年に誕生している。もともと藤本CEOは、個人と個人をつなぐCtoCに興味を持っていた。当時から、デジタルデータやモノのやりとりをするCtoCは盛り上がりを見せていたが、人に依存するサービスのCtoCは実現しづらかった。

藤本 崇 ストリートアカデミー 代表取締役CEO

「サービスのCtoCには可能性があると、ずっと思っていました。人的サービスで究極のものは『教える』こと。Skillshareを見た瞬間、日本でもいけると思いました。日本にはお稽古の文化があり、習い事の市場が大きく、資格ブームもある。出会うことに対する欲求も強い。日本でも絶対に成功すると思いました」

現在、ストリートアカデミーの利用者は登録ベースで1万8000人、講座を公開している人は約550人にのぼる。現在は7割が東京での利用だが、全国にも広まりつつある。300人、12講座がそろった地域は公式オープンとなり、すでに大阪、神奈川、埼玉、千葉で始まっている。さらに京都、福岡の公式オープンも視野に入れるなど、着実にスキル共有のコミュニティは広がっている。

習い事の市場を見える化


ストリートアカデミーの公式講座に参加する、たくさんの受講生たち。講座では、実践的なワークの時間もあり、参加者どうしで交流を楽しむ

今、スキル共有のビジネスには、さまざまな企業が参入している。マーケットの状況について、藤本CEOはどう見ているのか。

「習い事は、外食における『食べログ』がない業界です。講座の告知が、自治体の広報紙やフリーペーパー、町内会の掲示板などで行われ、情報の見える化が進んでいません。私たちがやっているのは、インターネットの外側で起きていることを、インターネットに取り込むこと。カルチャーセンターの顧客はシニア層が中心ですが、インターネットで見える化することで、若い人への広がりが生まれ、個人の教室にも人が流れやすくなる」

ストリートアカデミーには、月4~5人に教えられればいい、という小さな講座がたくさんある。講師は、教えることが本業でない人がほとんどだ。ストリートアカデミーでは、講師デビューを後押しするための公式講座を開いている。

「教える人が、そんなにすごい人である必要はありません。何をどこまで教えればいいのか、まずはやってみて、フィードバックを得ることが重要です」

自分のノウハウを体系化

しかし世の中には、自分が何かを教えられるとは思っていない人も多い。「インスピレーション力」をテーマに、プロのセミナー講師として毎回満員の人気講座を開くライフ・デザイン・メソッド代表の堀内恭隆氏は、自分のノウハウを体系化するポイントについて、こう語る。

「無意識でできていることを、どれだけ言語化できるかがカギになります。誰でも、自分で意識化できる領域には限界があります。パターンとして、以前はできなくて克服したものは自覚しやすい。一方で、最初からできていたことは、感覚的にこなせるので、そのノウハウを言語化するのは難しい」

堀内代表によると、自分自身を掘り下げるには、他の人との対話が大事だという。

「他の人からの質問は、自分を知る手がかりを与えてくれます。自分では当たり前だと思って伝えていないことが、質問の発生源だったりするからです。『なぜ、そうなっているのか』、『何のためにしているのか』など、質問に一つひとつ丁寧に答えていくことで、自分が何を前提にしていたのかに気づくことができます」

自分では価値があると思っていなくても、他の人からすると興味深いものはたくさんある。ストリートアカデミーの人気講座の一つに、「包丁研ぎ」がある。その講座が生まれたのも、人との交流がきっかけだった。

「会社を退職された方が公式講座に来られたのですが、最初は『自分には何も教えることがない』と言っていました。聞くと、以前は外食産業にいて、調理人に包丁の研ぎ方を教えていた。それを聞いていた主婦の方が、『ぜひ学んでみたい』と。考えてみたら、包丁の研ぎ方を本や動画で身に付けるのは難しく、リアルな講座に向いている。それに料理学校の講座の一コマとして、包丁の研ぎ方を教えることはあっても、それだけを単発で教えているところはない。そうした単発系のニーズはいろいろあります」(藤本CEO)

堀内代表によると、日々の「仕事の段取り」にも、その人が培ってきたノウハウが詰まっているという。

実際、ストリートアカデミーでは、元証券マンによる「Excelで事業計画書をつくる」講座が人気を集めている。金融で働く人にとっては、当たり前にこなしている業務にも学びのニーズがあるのだ。

従来は「学び」とみなされていなかったことも「学び」になる。堀内代表は学びの可能性について、こう語る。

「天才がやっていることの中にも、他の人が再現できるノウハウが隠されているかもしれません。天才がなぜ天才なのか、天才を解明することでも、新しい学びのジャンルを生み出せると思います」

場をシェアする文化も後押し

まずは第一歩を踏み出すのが重要だとしても、そこから講座の質を高めるには、場数を踏み、改善を繰り返すしかない。プロとしてセミナーを開催する堀内代表も、一つのコースの完成度を高めるのに3年はかかるという。

堀内 恭隆 ライフ・デザイン・メソッド代表

「1年目は、自分が意識化していることを可能な限り棚卸しする。そして2年目で、たくさんの質問を受けて改善していく。3年目は実際に使ってもらって、最終調整していきます」

マニュアルのつくり方や時間配分、会場の設営、講座の適正人数なども、現場で確認しながら決めていく。

「成功する講座は、一方的に話すだけでなく実践的なワークを組み合わせたものが多い。知識レベルの深さは、あまり問われません。それよりも、参加者が楽しいと思えるような場づくりの能力が重要です」(藤本CEO)

ストリートアカデミーからは、企業に勤めながら1ヵ月で100万円を稼ぐスター講師も生み出されているという。

「講師デビューすることは、小さな起業のようなものだと思います」(藤本CEO)

「学びを自由にする」ことを目指す藤本CEOは、ストリートアカデミーの未来として、自分が学びたい講座を組み合わせて自由にコースを設計できるキュレーション・サービスを思い描く。例えば、ビジネススクールのような講座とデザインなどクリエティブの講座を組み合わせて、自分だけの「創造的な学びのコース」をつくり出すことができるようになる。

教える人にとって、場所をどうするかは課題の一つだったが、この7月にストリートアカデミーは、講師と空きスペースをマッチングする新サービスを開始した。

近年、コワーキング・スペースなどが増加しており、そうした場所は講座の会場としても使いやすい。場所をシェアするトレンドも、「教える」ことの可能性を広げている。

自分が教えたいことを教え、人が集まれば、そこがその人の学校になる。

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