2014年9月号

未来の学び産業

「教育×ゲーム」で問われる真価 低学力生徒の市場にチャンス

湯野川孝彦(すららネット 代表取締役社長)

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ゲーム的な要素を組み合わせ、勉強を楽しめるように工夫したサービスは数多い。「ゲーミフィケーション学習教材」を掲げる「すらら」も、その一つだ。近年、トレンドとなっている「教育×ゲーム」で勝ち残るためのポイントとは何か。

湯野川 孝彦(ゆのかわ たかひこ)すららネット 代表取締役社長

苦痛で退屈になりがちな勉強を、いかに楽しくするか。その工夫の一つが、ゲーム的な仕掛けだ。今年、DeNAが教育市場への参入を果たしたが、それもソーシャルゲームで培ったノウハウを教育で活かすことを狙ったものだ。古くは任天堂も教育系ソフトで数々のヒットを飛ばした。

また、勉強を持続させる仕掛けとして、「仲間づくり」も重要になる。SNSなどソーシャルな要素を組み合わせることも、EdTechのサービスでは一つの潮流になっている。

すららネットは、ゲームやソーシャル的な機能を備えた教育サービスを手掛ける企業の一つだ。同社は、小学生から高校生までを対象にしたeラーニングの学習教材「すらら」を開発・提供している。すでに600以上の学習塾で活用され、計2万9000人以上の生徒が「すらら」で学ぶ。2010年にMBO(経営陣による買収)で独立した後、昨年には黒字化を果たすなど、順調に拡大を続けている。

現在、多くのベンチャーが教育分野に参入しており、収益化に向けて真価が問われている。競争が激化する中で、すららネットが成長を遂げたきっかけは、「未開拓市場」の発見にあった。

低学力生徒の市場にチャンス

すららネットの湯野川孝彦社長は、FC(フランチャイズ)などの中小企業支援を行うベンチャー・リンクの出身。2004年、ベンチャー・リンクでは個別指導塾のFCチェーンの支援を手掛けることになり、その際、自分たちで塾を経営してノウハウを開発することになった。

「有名塾が学力の高い生徒を囲い込む中で、実績もブランドもない塾を新たに開校したわけですから、最初に来るのは学力の低い生徒さんばかりでした」

低学力の生徒に教えるのは手間がかかり、学習の効果も出づらい。従来の学習塾にとっては、難しい顧客である。しかし湯野川社長は、そこにビジネスチャンスを見出したのである。

「学力の高い生徒の親は、所得も高い傾向にあります。ビジネスを考えたら、そこをターゲットにしたほうが効率的で、企業の参入も多い。一方で、低学力生徒を対象にした教育サービスに競合はありませんでした」

学習の頻度やテスト結果を分析し、一人ひとりの生徒の学習状況を詳細に分析することができる

低学力生徒の学力向上のためには、生徒ごとに異なる「つまずき」を見つけ、学び直すことが必要になる。そうした課題を解決する手段として、ベンチャー・リンクでeラーニングの事業が始まったのである。「すらら」の原型は、そこでつくられた。

「すらら」の授業は一方的ではなく、随所で先生役のキャラクターが問いかけを行い、問題に答えていくというインタラクティブ性を備える。また、わからない理由を探る「弱点自動判別システム」、生徒ごとに最適な問題を出題する「出題難易度コントロール」などを搭載。それらの機能は、当初から実装されていた。

湯野川社長は、eラーニングの学習効果に手応えを得て、事業としての可能性を感じていた。しかし、業績不振のベンチャー・リンクに、eラーニング事業を成長させる余力は乏しかった。そして2010年、湯野川社長はベンチャー・リンクから事業を譲り受け、独立を果たしたのである。

低コストが生み出す可能性

従来の個別指導塾と比べると、eラーニングには低コストという事業構造の強みもある。

「個別指導塾は学生アルバイトが教えるので、教育の質が安定しづらく、人件費の負担もある。そのため、授業料単価を高く設定しなければならず、生徒は週に何度も通うのが難しい。eラーニングならば講師の人件費がかからず、生徒数が増えても固定費は一定です。そのぶん、低価格にすることが可能で、学び放題のコースも提供できます」

同じような業種でも、費用構造を変えることで新しい可能性が生まれるのだ。

低コストの強みは、海外展開でも発揮されている。「すらら」の導入塾は、中国の北京、上海、タイのバンコク、マレーシアのジョホールバルにも広がる。eラーニングは遠隔で提供するシステムであり、大きなコスト増もなく海外進出が可能なのだ。

また、学校や塾といったBtoBに重点を置いたのも、湯野川社長の戦略的な判断だ。スマホのアプリなど、エンドユーザーを対象にしたビジネスを展開する教育系ベンチャーは多い。BtoCは参入のハードルが低いものの、有料課金を増やすのは簡単ではなく、そこで収益を稼ぐのは容易ではない。

「BtoCはサービスを広げるのに、広告宣伝などの投資が必要です。BtoBならば、やり方次第でお金をかけずに顧客を増やすことができる」

すららネットでは、同社のeラーニングの導入塾を独立開業する人に対して、独自の支援を行っている。加盟金はとらず、ロイヤリティも不要。開業に際しての研修費、「すらら」の利用料は負担してもらう。独立開業者にとっては、初期投資が少なく、低い損益分岐点で塾を経営できる。そうした仕組みづくりには、湯野川社長がベンチャー・リンクで培ったFC経営の経験が活かされている。

現在は、「ゲーミフィケーション学習教材」をコンセプトにしている「すらら」だが、ゲーム的な要素は後から付け加えられたものだ。すららネットは、現場の声を聞きながら、コンテンツの改善を繰り返してきた。

すららネットの強みは、コンテンツだけにあるのではない。教育の現場でeラーニングを適切に運用するためのコンサルティング力、「eラーニングの塾」というパッケージを開発・提供する力など、総合力で成長を遂げてきた。一時のトレンドで、生み出されたサービスではないのである。

「すらら」は不登校専門の塾や発達障害児向けの塾でも活用されており、最近は、院内学級への試験的導入も行っているという。病院には、入院患者の勉強をサポートする人材が乏しいという課題があるからだ。eラーニングが活用されるべき未開拓の市場は、まだまだある。

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