世界に誇る「イチローズモルト」
酒造りに憧れる青年は、困難を繰り返し、いつしか、憧れていた醸造の仕事にたどり着いた。イチローズモルト。海外からも高い評価を受ける日本のプレミアム・シングルモルトは、秩父の、ウイスキー専業メーカーの蒸留所から生み出されている。
サントリーやニッカが市場のほとんどを占め、あとはほぼ輸入物──そんな国内のウイスキー市場にあって、創業から最も歴史が浅いながら、唯一の専業メーカーによる製造で、国際的にも高い評価を受けるウイスキーがある。イチローズモルト。
個性豊か、上質な味わいで愛好家を魅了してやまないシングルモルトウイスキーだ。
世界100ヶ国以上で愛読されている専門誌「ウイスキーマガジン」主催のワールド・ウイスキーアワード(WWA)ジャパニーズモルト特集では最高得点の「ゴールドアワード」に選ばれている。
メーカーはベンチャーウイスキー。
前身ともいえる東亜酒造のウイスキー事業の原酒を守り抜いた肥土伊知郎が、04年9月に創業。名が示す通り、イチローズモルトとは、肥土の名を冠したものだ。福島県の笹の川酒造で製造を行った日々を経て、現在は、埼玉県秩父市に自前のマイクロディスティラリー(小規模蒸留所)を持ち、徐々に生産量を増やしている。
酒造りのはずが、営業に。挫けず、新戦略打ち立て
「戻ってこないつもりで仕事しろ」―東京農業大学で醸造学を学び卒業後、そう父に言われ、覚悟を決めてサントリーに入社した肥土。
酒造りを念願としていただけに、同社では山崎蒸溜所での勤務を希望していた。しかし、サントリーのウイスキー醸造士は院卒に限られており、東京・横浜で輸入酒のブランドマネージャーを担当することになる。
いきなりの挫折である。
しかし、挫けなかった。「現場を知らないでブランドを考えるのはどうなのか」と、営業を希望。小売、飲食店を中心に営業して回った。
「仕事は非常に面白く」、業績表彰も2回受けている。
本人曰く「会話力の高い営業マンタイプではない」が、その一方で高い戦略性があった。
酒屋に小型のオープンショーケースの設置を展開。90年代に入っての話だが、酒屋は意外と冷えた状態でビールを売っていなかったためだ。設置店舗を定期的に巡回、他社を排除し、自社ビールを設置するのみならず、ケースの上下左右に、ショーケース用の6本パックを補充用として設置するよう営業。すぐに担当エリアでシェアが上がった。これが、全国に水平展開できる事例として表彰を受けたのだ。
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