一次産業を かっこよく・感動があり・稼げるへと変革する若きリーダー

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みやじ豚 代表取締役 宮治勇輔氏。地元湘南エリアの地域振興に向けた事業構想も進める

宅配無料の地域特産品販売で独自の価値を活かす

─みやじ豚 代表取締役 宮治勇輔氏

日本全国の農業従事者の平均年齢は66歳。地域によっては70歳代のところもあるという。国の基幹産業のひとつであるにも拘らず、農業の事業承継者難は深刻だ。

この状況に危機感を抱き、業界革新に立ち上がった若きリーダーがいる。神奈川県で養豚農家を営む「みやじ豚」代表取締役・宮治勇輔さん(35)である。

今回は、彼がどのような事業構想にもとづき革新を推進しているのか見ていきたい。

農業の事業承継者難の要因

みやじ豚豚舎

百貨店や大手スーパーなどで、生産者の顔写真つきの野菜などを目にする機会は増えてきたものの、農家の生産物は、基本的には、出荷したが最後、流通過程で他の生産者の作ったものと一緒にされて「~県産・・・」という名称で販売される。そのため、自分が丹精込めて育てた物が、最終的にどんな人々に食べてもらえたか知ることはできないし、生活者からの感想や要望を耳にする機会もない。

それに加えて、農家には価格決定権がないために、利幅は薄く、経済的にも厳しい。

こうしたことも手伝って、農業は、長期にわたって、「きつい、汚い、かっこ悪い、臭い、稼げない、結婚できない」6K産業だと言われてきた。

それだけではない。生産者と生活者がお互いに相手の顔を知ることができないというこの業界特有の流通の複雑さ・不透明さは、とりわけ畜産関連で不正の温床ともなり、過去には、「ミートホープ」「飛騨牛」をはじめ、数々の偽装事件にもつながった。

さらには、豚インフルエンザ、狂牛病、鳥インフルエンザなどの疫病や、O157の感染源疑惑などが次々に発生。風評被害も相俟って、農家の置かれる立場はいよいよ厳しいものになっていった。

平成大不況下、都市生活に疲れ、脱サラして就農を目指す人々が急増したものの、農業を取り巻く厳しい環境に対する認識が足りないケースも多く、そのほとんどが、短期で撤退していった。

こうして、農業従事者の数的減少と高齢化が着実に進行していったのである。

問題意識から「発・着想」へ

先代(父親)と宮治大輔氏(実弟)。トータルプロデュースを通じて、農業をネガティブな6K産業から、「かっこよくて、感動があって、稼げる新3K産業に」転換することを考え、父親を説得して後を継いだ。同時に大輔氏も外食産業を退職して後を継いだ

宮治さんは、農家としては4代目、養豚農家としては2代目に当たるが、最初から養豚業を営んでいた訳ではない。慶應義塾大学総合政策学部を卒業した彼は、家業を継ごうという気持ちもなく、大手人材派遣会社パソナに入社して、第一線のビジネスパーソンとして多忙な日々を送っていた。

そんな彼が、最終的に家業を継ごうと決断するまでには、2つの契機があったという。

「大学時代に友人たちを招いてバーベキューパーティをやったところ、"こんなに美味い豚肉は食べたことがない〟って言われたんですよ(注・写真)。"うちの豚ってそんなに美味かったのかぁ〟って感動したのも束の間、"この肉、どこに行けば買えるの?〟って訊かれてハッとしたんです」 彼も彼の父親も、その質問に答えられなかったのである。

第2の契機はパソナ時代だ。

起業家を目指して独学で勉強を重ねる中で、宮治さんは、上記のような、農家を取り巻く苛酷な実情に触れ、農業の仕組み自体を変革する必要があると痛感する。

「出荷までやってハイ終わりの従来型の農業ではなくて、生産から生活者の口に入るまでをトータルプロデュースする仕事として農業を捉え直したらどうだろうって『発想』したのです」そして、彼のそのアイディアは、やがて、その後の彼の行く末を決定づける素晴らしい『着想』へと導かれる。

すなわち、彼は、トータルプロデュースを通じて、農業をネガティブな6K産業から、「かっこよくて、感動があって、稼げる新3K産業に」転換しようと考えたのだ(以後、彼はこれを自らの「ビジョン」と位置づける)。

それを実現するために必要なこと。それは、旧来型流通システムの革新を通じた「生産者と生活者がお互いに相手の顔を見ることのできる関係作り」(と、それを担うリーダー作り)だ。

こうした「構想案」を持って、宮治さんは、農業経営の厳しさを熟知し、わが子の行く末を心配する父親を説得し、後を継ぐことになった。2005年、パソナを退職。大手外食チェーンを退職した弟の大輔さんとともに、新しい農業を構築する活動に取りかかる。

バーベキュー・マーケティングで躍進

大人気のバーベキューパーティ。宮治さん自身も「みやじ豚が一番おいしく食べられるのはバーベーキュー」と話す

だが、正直言って、「金なし・コネなし・ノウハウなし」というのが当時の宮治さんの実情だった。

そこで、「Start early、Startsmall!」で、まずは、自分が今持っている経営資源だけで、できることから開始することにした。それが、自宅近くの観光農園で毎月実施する「みやじ豚バーベキュー」であった。

彼は、友人や元同僚など、実に850人にメールを送った。

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