日本で初めてパブリックビューイングをビジネス化

「現代版 三方よし」型事業構想
──東京富士大学 経営学部イベントプロデュース学科教授 岡星竜美氏

岡星教授。東京富士大学経営学部で、日本初となるイベントプロデュース学科の創設に尽力。現在は東京オリンピック招致にもかかわる

近年、スポーツ・イベントに定着した観戦方法に「パブリックビューイング」(以後、PVと略す)がある。試合会場とは別の会場に、有料でお客さんを集め、大画面に映し出された試合をリアルタイムで観戦し、みんなで盛り上がる。

この方式は、2002年の日韓共催サッカーW杯に際し、特別に結成されたプロデュースチームによって日本で初めて実施され、その後急速に一般化していった。そして、この時、一躍名をあげたのが、イベント・プロデユーサー岡星竜美さん(54)である。

今回は、それまで世界でもほとんど例を見なかった「PVのビジネス化」という構想に、彼が、どんな思いを込めて関わり、現場の演出・進行を行なったのか、ということを中心に検討したい。そしてそれを通じて、事業構想において大切なポイントは何なのかという点を確認したいと思う。

「絶望は毒薬、希望は特効薬」

現在は各地でイベント学などの講演を行っている

「私の生まれ育った山口県の海沿いの小さな町は、曜日の感覚もなくなるほどの刺激のないところでした。娯楽といえば、祭と花火大会くらい。自分ではいろいろと仕掛けたい夢があっても何もできない。大げさに言えば、そこにあるのは絶望感でした。

私の座右の銘は、〝絶望は毒薬、希望は特効薬〟です。人生において、すべて削ぎ落とした後、最後に残らないといけないもの、それは希望ではないかと思うんです。家や食べ物はなくても希望さえあれば人は生きていける。でも、故郷にはそれがなかった」

ある日、そんな町のふだんは何もないお寺の境内にサーカスバイクの曲乗りが突如出現する。彼がその異形の世界に圧倒されたのは言うまでもない。しかし、それ以上に衝撃的だったのは翌日。前日にそんなことをやっていた痕跡すら残さない見事な撤収ぶり。釘一本落ちてはいない。そこに岡星さんは、忽然と現われ、姿を消す「怪人二十面相」のような魅力を感じたという。

イベントならではの〝仮設性〟、〝聖なる一回性〟! そうしたイベント=非日常の提供というものを通じて、絶望を希望へと変えてゆくことができるのではないか? 少年時代のこの強烈な体験と思いが、現在へと続く彼のあらゆる事業構想の原点となってゆく。

時は流れる。大学を卒業し、イベント・プロデューサーとして、海外を含め東奔西走の日々を送っていた岡星さんにも、やがて環境変化の波が襲いかかる。巨大イベント全盛を誇ったバブル経済は崩壊し、イベントをめぐる事業環境も劇的に変容したのだ。

時代のキーワードは、〝マ・イ・ウ・エ・コ+レ〟

FIFAワールドカップ・パブリックビューイングの様子。

「〝イベントは集客さえ成功すればよい〟という、それまでの価値観は崩壊し、これからの時代は〝マ・イ・ウ・エ・コ+レ〟が重要になると思いました」

1992年に電通テックを退職し、イベントコンサルタントオフィスシリウスを立ち上げた岡星さんは、このコンセプトで、数々の仕事を受注してゆく。〝時代の読み〟が当たったのだ。

では、そもそも、〝マ・イ・ウ・エ・コ+レ〟とは何だろうか?「マ」は、マネジメントで、費用対効果を追求し、利益を生むビジネスとして成立させるということ。「イ」は、インフォメーションで、〝主催者(=実施側)のメッセージがお客さん(=対象側)にちゃんと伝わるか〟という、情報到達度をきちんと検証するということ。「ウ」は、ユニバーサルで、老若男女を問わず、あるいはハンディキャップの有無を問わず、誰もが参加しやすい、事故が起こらないための環境作りができているかということ。「エ」はエコロジーで、ハード面で再生可能性を重視したり、カーボンオフセットを導入したりすること。「コ」はコンプライアンスで、個人情報の管理の徹底など、文字通りの法令順守ということ。

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