世界の未来を変えるアイデア

最近では、1つの商品の機能をアップするような生物模倣技術だけではなく、生命、エネルギー、環境分野といった分野で人間社会に貢献するようなアイデアが生まれ始めている。

エネルギー

太陽光や自然風に代表される再生可能エネルギーは、半永久的に枯渇することがなく、発電で二酸化炭素を排出することもない。それゆえ、世界各国は、エネルギー安全保障や地球温暖化防止への有効な施策として、再生可能エネルギーの活用を積極的に推進している。

しかしながら、再生可能エネルギーにも、いくつかの課題が残されている。たとえば、太陽光発電は日光を必要とするため、天候に影響を受けやすく、夜間は利用できない。また、風力発電は、風速の変動に伴ってエネルギー出力量の変動が避けられず、風力発電システムのブレードから発する騒音が周辺の住環境に影響を及ぼすこともある。

そこで、動植物の機能や習性に注目し、これらの課題の解決策として応用しようという研究開発が進められている。

騒音を20%軽減するザトウクジラの胸ビレ

ザトウクジラの胸ビレは、前縁にある「こぶ」のような凸凹が特徴である。胸ビレのまわりの水が凸凹の谷にあたって渦を発生し、この渦によって、水流を狭くまとめ、安定させることができる。つまり、ザトウクジラは、「こぶ」を使って水流の断面積を狭くすることで、水の抵抗を抑えながら、胸ビレの揚力を生み出し、水中をより楽に移動しているのである。

米ウエストチェスター大学のフランク・E・フィッシュ博士は、この胸ビレの「こぶ」に着目。カナダ・トロントに設立したホエールパワー社において、このメカニズムを回転翼の羽根に応用するための研究開発に取り組み、独自の翼型を開発した。

この翼型は、ザトウクジラの胸ビレの「こぶ」に倣って前縁に凸凹を付けたことにより、迎角(気体や液体の中の物体の流れに対する角度)を33%向上させ、同時に空気抵抗を抑制し、競合製品と比べて騒音を20%低減している。実際、この研究チームでは10メートルの風力タービンを改良し、前縁に「こぶ」をつけたところ、年間の出力量が20%増加し、操業時の騒音を大幅にカットすることができた。

同社はこれまでに、デスクトップコンピュータやコンピュータサーバー向けの冷却ファンを開発しており、その効率は、世界最高レベルのものと比べて10%高くなっている。また、現在、共同研究開発プロジェクトを通じて産業向け風力タービンの開発に着手するとともに、2013年中には、ディーゼルエンジン向け、自動車エンジン向け、冷蔵庫など家電製品向けに、それぞれ冷却ファンの開発をスタートする予定だという。

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風車の回転効率を上げるカエデの種子の「翼果」

植物の種は、真下に落ちると、その植物が影となって日光を受けづらいため、成長しにくくなる。そこで、かえでの種のまわりには「翼果」とよばれるプロペラのような薄い羽根があり、種が熟すと、この羽根がクルクル回りながら拡散する仕組みになっている。勢いよく回転することによって、わずかな風を利用し、より遠くへと種を散布できるだけでなく、地面にゆっくりと落下するので、種子を落下の衝撃から守ることもできるという。

福島大学共生システム理工学類の島田邦雄教授は、趣味の紅葉狩りを楽しんでいるとき、カエデの種が勢いよく回っている様子を見て、「このカエデの種の仕組みを風車に応用できるかもしれない」と思いつき、研究開発をスタートさせた。

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