直感的UIで災害情報共有を実現

自動車システム製品の開発技術を基に、デンソーでは、クラウド型の地域サービスプラットフォーム「Lifevision」(ライフビジョン)を開発した。開発の背景と使用者の利便性を追及したその有用性とは。

酒井敏也 デンソー 新事業推進部 情報ソリューション事業 室長

自社の車載制御技術を地域情報サービスに活用

2010年を過ぎたあたりからデンソーではそれまで積み上げてきた車載制御技術を「自動車以外の分野」において応用する取り組みを強化してきた。2014年1月には新事業推進部情報ソリューション事業室が立ち上がり、本格的に非自動車分野での技術開発がスタートした。室長の酒井敏也氏は、「ITを活用し、配信者は使いやすく、地域住民に伝わりやすい情報伝達を目指そうと研究開発を進めています。人間の五感に訴える操作を実現するヒューマンマシンインタフェース技術を始め、カーナビで培ったマップ技術、システム構築技術、さらには各システムと連携したアプリ開発実績を最大限に活用しています」と話す。

システムを導入しながら地域の情報格差を無くす

情報ソリューション事業室では名古屋大学と連携して研究開発を進めている。中でも防災情報提供に活用することができるサービスプラットフォームLifevisionの開発においては情報の配信者、受信者双方にとってメリットがある仕組みを構築したことから、業界内外で注目を浴びている。

情報を配信するCMS(コンテンツ管理システム)はインターネット環境下であれば場所を選ばずどこからでも配信することが出来る。また、多様なシステムと連携し情報入力を一元化出来る点も評価されている。特に災害等の緊急時には入力作業をなるべく簡略化し、地域住民に迅速かつ正確に情報を伝えることが重要だ。他方、地域に暮らす若年層から高齢者まで、誰でも簡単に利用できる機能とUI(ユーザーインターフェイス)を備えている点も特徴的である。

アプリにはスマートフォン版とタブレット版の2種類がありニーズに合わせて様々な拡張機能の追加が可能となっている。特に、色覚障害者などに配慮してディスプレイの色をコントラストで分けるなど、認識しやすいデザインを意識しているという。また、若年層に比べて端末操作に不慣れな高齢者向けに、タブレットの基本操作を習得するためのトレーニングゲームアプリを開発したり、UIは可能な限りシンプルにし、使用者が混乱しない配慮をするなどしている。

これまでの戸別受信機等の音声端末同様に音声情報は端末に触らなくても自動再生されるので既存インフラの置換えとしての活用も可能である。

酒井氏は、自治体で実証実験を行うにあたり、使用者のニーズに合わせて仕様をオーダーメイド感覚で決めていくことが活用されるポイントだと話す。「端末操作に不慣れな高齢者の方でも『触っていただく』だけで操作ログが残り、それを見守りに役立てることができます。いかに触っていただけるサービスをつくるかが私たち技術者の腕の見せ所だと思います」。

Lifevisionはクラウドを利用しているため、導入工事や専用ソフトをインストールしたりする必要がなく短時間でサービス利用を開始できる。既存の防災無線やJアラートともシステム連携が出来るため、導入・運用において自治体の負担が少ないことが特徴だ。また、香川県直島町での導入事例では町内全戸(1400世帯)に端末を配布し、お悔やみ情報やフェリーの運航情報など、防災情報以外の生活情報コンテンツも充実させている。このように、クラウドであるがゆえに外部システムと連携して柔軟に防災以外の情報も配信できることが大きな強みとなっている。

タブレットの操作に慣れるためのトレーニングアプリも開発している。

被災地の声を活かし、使用者の利便性を追求

酒井氏はデンソーならではの車載制御技術を応用し、Lifevision上でさらなる防災サービスの拡充を目指したいと話す。「熊本地震の時にはどこの避難所へ行けばいいのか判断できず車中泊をする人が多いという報道がありました。デンソーではLifevisionとナビの機能をつなげ、こうした方を避難所に誘導する仕組みづくりを進めています。また、災害時のいざという時に迷いなく利用頂くために、発災時だけでなく日常から活用できる防災機能の充実にも力を入れています。例えば、普段は避難所の場所や備蓄品情報を公開することで日常から防災意識を高めてもらう。災害時にはその情報をリアルタイムに更新して、避難所の状況や支援物資の情報を配信するなどフェーズごとに合わせた情報の活用を考えています。今後はUIを考慮した操作性に加えて、自動車で培ったセンシング技術などを活かして、災害時の被害状況把握から情報伝達の迅速化に貢献していきたい。」

デンソーの防災に関わる技術開発は社会的価値の高い目的意識のもとで市域の課題を解決する。

ライフビジョンのサービス概念図

スマートフォン画面(左)とタブレット画面(右)。デンソーがカーナビで長年培った独自の技術を活かし、シンプルながらも使いやすいユーザーインターフェースになっている。

お問い合わせ


新事業推進部 情報ソリューション事業室
TEL.0566-55-0178
URL:http://www.lifevision.net/

 

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