スティーブン・スピルバーグ 新たな世界への挑戦

136_01.png

アメリカ合衆国第16代大統領エイブラハム・リンカーンを描いた伝記映画「リンカーン」が今秋、全米で公開される。アカデミー賞最有力候補の呼び声も高い本作のメガホンを握ったのは、ハリウッドの巨匠、スティーブン・スピルバーグ。65歳を迎えた今も、精力的に作品を撮り続けている。

1972年に撮ったテレビ映画「激突!」で名前が世に知れ渡るようになって以来、「ジョーズ」「インディ・ジョーンズシリーズ」「E・T」「シンドラーのリスト」「ジュラシック・パーク」「プライベート・ライアン」・・・と、スピルバーグの手がけた作品は次々に空前の大ヒットを記録してきた。その傍らで、1994年には映画製作会社「ドリームワークス」を設立。経営者としても辣腕をふるい、プロデューサー(製作総指揮)業も数多く、監督業以外にもフィールドを広げている。アドベンチャーからSFアクション、歴史大作、ホラーまでジャンルや時代を超えて、世界の人々に共感や感動を与え続けながら、活躍の場を次々に創出するスピルバーグ。はたして彼はどんなビジョンを描いて作品を生み出し、仕事の幅を広げ、ビジネスを組み立てているのだろうか。

圧倒的なバランス感覚

スピルバーグの作品を語る時、映画人が口をそろえて言う言葉がある。

「圧倒的なバランス感覚のうえに成り立っている」。

136_02.png

その根底には、クリエイティブとビジネス、アートとエンターテインメントは同一であるという価値基準が横たわっている。つまり、大勢の人が面白くて感動、満足できるものを企画段階から目指しているからこそ、万人に受け入れられるのだ。そうした発想から生まれた作品は、80年代以降の多くの作品でヒューマニズムをベースとしており、アクションやサスペンスフルな演出がバランスよく効果的に盛り込まれている(それがゆえに、ヒューマニズムと離れた作品への批判も多い)。

映画「ヘルタースケルター」のプロデュースを務めたアスミック・エースエンタテインメントの宇田充プロデューサーは、「映画冒頭の20分と最後の20分のテクニックがずば抜けている上、間のつなぎ部分も長けている。起承転結がしっかりと成立し、ストーリーテリングが見事」と賛辞を惜しまない。ストーリー自体はヒューマンテイストだが、展開はあくまでもスピーディーで、日常シーンをスペクタクルなものに変えてしまう演出を大事にする。それらの調和がとれているのがスピルバーグ映画の特徴。こうした映画にするには、当初のビジョンからずれない映画作りが不可欠という。

チーフクラスのモチベート管理に長ける

大作主義といわれるスピルバーグ映画は、製作に関わる人数が膨大である。全スタッフが一丸となって撮影するためには、監督があらかじめ明確なビジョンを持っていることが大前提だ。そしてビジョンをスタッフに正確に伝え、全員のモチベーションを高めていくことが要求される。どんなに技術が優れていても、全スタッフのやる気を引き出せなければポテンシャル以上の仕事は生まれない。膨大なスタッフ全員を導くのは難事だが、実の所、大規模な映画づくりの現場であっても、スピルバーグと直接やりとりを交わすのは、スタッフの中のチーフクラスに限られる。つまり、スピルバーグの成功は、チーフクラスへの明確なビジョン提示とモチベーション、そしてチーフクラスの高い伝達能力に拠っている。後述するが、高い能力をもつチーフクラスを選び、育てることこそ、スピルバーグの類稀な戦略の一つと言える。

1 2

月刊「事業構想」購読会員登録で
全てご覧いただくことができます。
今すぐ無料トライアルに登録しよう!

初月無料トライアル!

  • 雑誌「月刊事業構想」を送料無料でお届け
  • バックナンバー含む、オリジナル記事9,000本以上が読み放題
  • フォーラム・セミナーなどイベントに優先的にご招待

※無料体験後は自動的に有料購読に移行します。無料期間内に解約しても解約金は発生しません。