自治体の予算管理や実例を学び 地域のブリッジ人材を養成
社会情報大学院大学が2021年10月に開講した「地域プロジェクトマネージャー養成課程」。自治体と外部専門人材、民間企業、NPOなどをつなぐ〈ブリッジ人材〉の養成を目指す。第1期が終盤を迎えるなか、受講生の井上佳純氏に、同課程での学び、今後のキャリアなどを聞いた。
地域活性化に欠かせない
地域プロジェクトマネージャー
「地域プロジェクトマネージャー」 とは、総務省が2021年度に創設した新制度。地域活性化には、産官学連携によるプロジェクトの推進が重要だが、地域の自治体がそうしたプロジェクトを行うには、行政と民間の違いを理解し、様々なステークホルダーをつないでいく「ブリッジ人材」が欠かせない。
そこで、市町村がそうした人材を地域プロジェクトマネージャーとして任用する、新しい制度として創設された。
地域プロジェクトマネージャーの雇用には、総務省から自治体に650万円/人を上限に特別交付税措置を行っている。多くの自治体が活用を検討する一方で、適切な人材を探し出すのは難しい状況にある。
2021年10月、社会情報大学院大学が開講した「地域プロジェクトマネージャー養成課程」(第1期)では、地域プロジェクトマネージャーを目指す人材をはじめ、地方自治体に関する知識や地方創生・地域活性化の取組みを学びたい人材のほか、地域おこし協力隊OB・OG、地域と関係の深い専門家などを対象に、5か月(全40講・総受講時間60時間)のカリキュラムを提供している。また、オンラインのため場所に捉われず学ぶことができる。
同課程の特長は大きく4つある。
1つ目が地方自治体の独特の仕組み、ルール、組織、慣習、思考、予算管理等がわかること。公務員経験のある教員や各自治体での指導実績のある教員、現役第一線の公務員による講義で、実践に役立つスキル、知識を身につけることができる。
2つ目が、公民共創プロジェクトの組成の仕方、運営、資金調達など成功への道筋がわかること。公民共創プロジェクトに、これまで400件以上携わり、自治体や企業に指導してきた教員から体系的に学ぶことができる。
3つ目が、志を同じくする仲間、人脈を得られること。講義に登壇する市長をはじめ、多様なゲスト講師から、様々な経験を積んできた他の受講生と切磋琢磨することで、業界や地域、職種を越えて人脈を形成することが可能となる。
4つ目は、地域活性に関する理論と実務の双方が習得できること。講師には、自治体の局長級から課長級職員や「博士号」を取得している職員もいる。また、実務中心、理論中心の教員がそれぞれいるため地方創生に関する理論と実務の双方を学ぶことができる。
こうした同課程で習得する知識やスキル、人脈は、地域プロジェクトマネージャーとしてだけでなく、自治体が募集する副業や自治体を巻き込んだ自主的な共創事業でも発揮することができる。
産官学連携プロジェクトの実例から
フレームワーク等を学ぶ
新潟県三条市のNPO 法人ソーシャルファームさんじょうが募集する地域おこし協力隊(以下「協力隊」)として、農業、スポーツ、教育などの分野で活動し、現在は同NPOの職員として現役の協力隊メンバーと共に活動を続ける井上佳純氏。
2021年10月、協力隊としての3年の任期を終える直前に、「地域プロジェクトマネージャー養成課程」の受講を決めた。
「NPOの代表から『卒業後のキャリアも見据え、受講してみては』と勧められたのが受講のきっかけです。これまでの活動を通して、地域づくりをより力強く進めるためには、行政側をよく知り、良好な関係性を築くことが重要だと実感しています。一方で、行政とのやり取りの難しさを日々感じていました。どうしたら自分の活動をもっとスムーズに拡大できるのか。地方自治体について民間との違いや仕組みをより深く学ぶことで、今後の地域活性化に生かしたいと思い、受講しました」
協力隊時代、自治体とのやり取りで、まず躓いたのが予算の問題だ。地域のために活動しようと何か提案する度に「予算がない」と出鼻をくじかれる。
「民間企業の感覚だと、ある程度急な企画でも、なんとか予算を組んでくれます。当時はスピード感も含め『自治体はなぜ融通がきかないのだろう』とモヤモヤしていましたが、本課程を受講し、自治体の予算の組み方を理解することで、モヤモヤを解消することができました」
また、同課程を受講し最も良かったことは「様々な自治体における、産官学連携プロジェクトの成功事例を聞けたこと」だという。「河村昌美先生の横浜の事例などは、ベースにあるモデルの考え方、フレームワークなどが大変勉強になりました。この学びを、NPO職員として、協力隊のメンバーと共有することで、新しいものを創り出したり、自治体とのやりとりをよりスムーズにしていきたいですね」
井上氏は、同課程での学びを活かし、年度末までに、「自治体と民間の違い」、「NPOとして自治体とどう連携するべきか」などをまとめ、協力隊を対象とした働き方ガイドを作ることを計画している。
自治体と民間・NPOの橋渡し
キャリアの選択肢を増やしていく
井上氏が所属するソーシャルファームさんじょうは、農業とスポーツを中心に、人口減少、高齢化の進む中山間地域で人づくりをしていくことを軸としている。
廃校となった小学校を拠点とし、農業・スポーツ・教育などの各分野で協力隊が活動。地域で育てた芋を焼酎にする芋焼酎『五輪峠』の取組みは既に6年ほど続いており、地元の特産品として三条市内を中心に流通している。
協力隊として実際に活動してきたキャリアを土台に、同課程の受講を通して自治体への理解を深めたことが自分の強みとなったと井上氏は話す。
「養成課程終了後は、これまでの経験と養成課程で学んだことを活かし、現場にいる協力隊と自治体の〈ブリッジ人材〉として、自治体と民間、NPOとの橋渡しができればと考えています。まだ学びの途中ですが、自分の視野を広げて、今後のキャリアの選択肢を増やすきっかけにもしたいですね」
【5月開講】地域プロジェクトマネージャー養成課程 第2期 受講者募集中
社会情報大学院大学では、5月に開講する「地域プロジェクトマネージャー養成課程」(第2期)の説明会を下記のとおり随時、オンラインで開催しております。
①地方自治体の地域プロジェクトマネージャーや副業人材を目指す方、
②地方自治体に関する知識や地方創生・地域活性化の取組などについて学びたい方、
③地域おこし協力隊OB・OG、地域と関係の深い専門家など、ご関心ありましたら、下記URLからお申込みください。
https://www.socialdesign.ac.jp/lab/lpm/
<説明会日程>
3月 3日(木)19時~20時
3月17日(木)19時~20時
4月 7日(木)19時~20時
4月21日(木)19時~20時
他随時開催。
- 井上 佳純(いのうえ・かすみ)
- NPO法人ソーシャルファームさんじょう職員