フィリップス、IBM... 海外の先駆者に見る「経営としての知財戦略」

Phillipsは、もはやメーカーではなく知財の会社である――。PhillipsやIBMなどの海外企業には、知財を活用してダイナミックな事業変革を成し遂げた数々のレジェンドがいる。今回は、「経営としての知財戦略」を切り拓いたリーダーたちの取り組みを紹介する。

PhillipsのTV事業が、
一瞬にして黒字になった理由

第1回では、PhillipsのHouten CEOの「もはやメーカーではなく知財の会社である」という話を書きました。Phillipsとは縁があり、当時Phillipsの知財を率いていた元副社長のRuud Petersは、素人であった私の先生でありメンターとなってくれています。Ruud Petersは、ヨーロッパの知財ビジネスのリーダーでもあります。

さて、PhillipsブランドのTVは、今でも欧州や米国で見かけます。しかしPhillipsは、今ではTVを製造していません。PhillipsのTV事業は、長らく低収益が続いていました。『もの作り』、すなわち原材料や部品を仕入れて、組み立てて、検査をして、在庫を持って、広告をして、販売をして、アフターサービスをしてと、製品を製造して販売するのはとても大変なことです。そんなPhillipsのTV事業が一瞬にして黒字になりました。Phillipsは、一体何をしたのでしょうか?

みなさんは、EMSという言葉を知っていますか? 色々な略語に使われますが、この場合は、electronics manufacturing serviceの略であり、当初、EMSはTVやオーディオの他、様々な製品の組み立てを行う下請けを意味していました。シャープに出資したホンハイもEMSですね。

さて、ホンハイと同様、台湾にTPV TechnologyというEMSがあります。TVのモニター組み立てでは世界一の会社で、日本の多くの会社もTPVに製造を依頼しています。組み立てから得られる1台当たりの収益は大きくないものの、フィーを必ずもらえる赤字にならないビジネスモデルで世界一の生産量を誇るのですから、積み重ねた安定収益はとても大きなものです。なおかつ、自らの技術を高めて、設計やデザインも依頼先の代わりに行っており、実際のTVを作っている会社なのです。

そのTPVにPhillipsは、TVの製造技術とブランドの使用権を一部売却、ライセンスすることになります。Phillipsは、売り上げに応じてライセンス料を得ることになるので、TPVが1台も売れなくても、収入はゼロになりますが、赤字にはなることはありません。TPVが販売してくれればくれるほど、TPVが結果として赤字になってもPhillipsは収益を得ることができます。

Phillipsは、自らモノを作って売ると赤字になってしまうような事業から脱却し、技術とブランドをライセンスすることで、赤字のリスクを無くして収益を得て、その収益をホワイトスペース(未開拓の分野)や注力分野に投資していく。ここに小手先ではない、知財を使った事業変革のダイナミズムがあります。

IBMの変革を牽引した
知財のレジェンド

欧州では知財のリーダーとしてPhillipsが存在していますが、米国にも知財の活用によって大きな変革を果たした会社があります。それは、IBMです。

IBMでMarshall Phelpsという知財のレジェンドが活躍し始めるのは、1992年からのことです。名経営者として名高いGerstnerがCEOとなり、その右腕として辣腕を振るったのがPhelpsであり、さらに彼はマイクロソフトに移り、同社を知財の会社として変革させ確立していきます。

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