女性の政治参加 ダイバーシティあふれるノルウェー議会に学ぶ
女性活躍研究会では、ノルウェーの政治選挙に関する著書の多い三井マリ子氏(女性政策研究家、元都議)を招聘。クオータ制について解説いただくとともに、日本でダイバーシティあふれる議会にするための方策についても伺った。
全決定シーンで男女比を割り当てる
ノルウェーのクオータ制度
日本では衆議院の女性議員割合はわずか10.1%。男性が9割を占める国会で、政治経済をはじめ女性の活躍推進などの政策や方針が決められる。これでは男女共同参画社会の構築は難しい。
三井マリ子氏は、「女性を政策決定の場に増やし、家事育児など私的分野に男性を増やすことが男女平等社会の実現に必須である。その最も効果的手法は、クオータ制(割当制)です」と強調した。
クオータ制とは、物事を決定する場における男女の割合を定めた制度で、ノルウェーでは公的委員会などは男女どちらも40%を下回ってはならないと法律で規定されている。政党は同規定の対象外だが、ほぼ全政党が自主的に採用してきた。その結果、現在169名の国会議員のうち女性議員は41%、首相も女性、内閣閣僚は半分以上が女性である。
クオータ制は、今では育児休業、私企業の取締役にも導入されているが、発端は公的な決定の場への女性参加を促すためだった。作家インゲ・アイズボーグの唱える「『より平等に』と願うノルウェー人の価値観が底流にあったと思う」と三井氏は、4点具体例をあげた。
①貧富の格差が小さい社会大胆な累進課税制度が導入されている。過去の数字だが、首相は月収1793万円のうち793万円を納税していた。
②市民と政治権力の間の距離が近い社会国会議員は有償だが地方議員は無報酬である。地方議会の議員職はボランティアまたはホビーといえる。議員バッジもなく、「先生」と呼ばれることもない。
③ハンディのあるなしで差別されない社会教育・医療は無料なので、すべての子どもが意志と能力次第で進学できる。特別学級・養護学校もない。例えば、聾唖の子どもも普通クラスに入って手話のできる先生がサポートする。
④地方と都市の格差が小さい社会極北の県でも首都オスロと同じような教育雇用環境となるよう、優遇策が講じられている。
「こうした平等政策は一足飛びにできたわけではありません」と三井氏。「現在のノルウェー社会は、1960年代からの『女性解放運動』がなければ実現は不可能でした」
シングルマザーや高校生も議員に
国民と議会の距離が近い社会
60年代以前のノルウェーはどうだったか。保育園や介護サービスは不足。妊娠中絶は違法で女性に自己決定権はなかった。小さな子どもを持つ母親の9割は専業主婦。地方議会の女性議員はわずか6%程度で、女性議員が一人もいない「女性ゼロ議会」は全自治体の30%に上った。
「今の日本と共通点がありますね」と三井氏。こうした状況を変えようと60年代に女性が声をあげた。そのひとつが、地方紙編集員の女性の提案による「女性の選挙キャンペーン」という女性議員を増やす運動である。超党派で賛同者が増え、71年の地方選挙では、オスロ、トロンハイム、アスケールの3市で女性議員の数が男性議員の数を上回った。マスコミは「女のクーデター」と報道した。
次に73年の国政選挙でクオータ制を導入した政党が躍進した。その後、クオータ制を取り入れる政党が増えていった。85年には女性国会議員が30%を占めるまでになり、88年、ついに「男女平等法」(78年制定)が改正されて40%のクオータ制(公的委員会等における両性の参加)が明記された。
「ノルウェーの偉い点は、『法律とは守られないものだ』を前提に『男女平等オンブッド』を男女平等法に明記したこと。この公的監視機関が違反者に厳しく目を光らせ、さかんに啓蒙活動を行い、国民の関心を喚起してきたからクオータ制が守られてきたのです」。
さらに三井氏はノルウェーでクオータ制が成功した前提条件の一つに選挙制度を挙げた。ノルウェーの選挙は比例代表制で、各政党の獲得票に比例して各政党の当選数が決まる。各政党の当選数が決まると「候補者リスト」の上から順番に当選する。投票者は、候補者ではなく政党を選ぶ。
政党は、選挙管理委員会に候補者リストを提出するのだが、そのリストを決める場は「推薦会議」と呼ばれ、詳細は法律で定められている。重鎮国会議員が自分の都合で候補者を擁立したりできないばかりか、リストは、住所、職業、年齢、性別においてバランスがとれてなくては「推薦会議」で突き返される。だから、各選挙区の政党は、クオータ制を守る。
「候補者リストが男女交互に並んでいるのですから国会や地方議会に女性が40%を占めるのはあたりまえなのです」(三井氏)。
ノルウェーでは選挙権・被選挙権ともに18歳以上。供託金もない。高校生もシングルマザーや移民でも議員になるチャンスがある。実際、2017年の選挙では、当選者の26倍もの人が立候補し、投票率はほぼ8割と、選挙に対する国民の関心は非常に高い。ちなみに日本の衆院選の候補者数は2.5倍。投票率は過去3回とも50%台であった。
女性の国会議員に占める割合
日本に求められるのは
「政治的意思」と「選挙制度の見直し」
以上のような環境では、どのような議会が誕生するのか。三井氏は長年定点観測してきたオーモット市の例を紹介した。
オーモット市は人口約5000人の農林業の盛んな町である。市議会議員19人のうち女性は11人で58%。議員の所属政党も5つに上る。また地方議員は全員本業を持っている。オーモット市議会の内訳は、会社員、大学生、精神障がい者ホーム主任、清掃作業員、教員、年金生活者などさまざまで、まさにダイバーシティそのものである。
三井氏は問う。「90%を男性が占める議会と、さまざまなフィールドの人たちのパワーが均等に配分されたダイバーシティあふれる議会。そこから出てくる政策は同じだと思いますか?」と。そして日本への示唆として、次の2点を挙げて講演を終えた。
「1点目は現行法の改正です。2005年の男女共同参画基本計画は『2020年30%』。2018年候補者男女均等法では『政党や政治団体は候補者を男女均等に』。これらを掛け声倒れにしないためには、ノルウェーのような強制力のある監視機関が必要です。しかし、そういう政治的意思を持つには、与野党の均衡状態が必要で、簡単ではないでしょう。2点目は選挙制度です。クオータ制を日本で実現しようにも、小選挙区制ではほぼ絶望的。比例代表制選挙への移行、もしくは比例区の定数増に向けて議論を高める必要があるのではないでしょうか」。
- 三井 マリ子(みつい・まりこ)
- 女性政策研究家