コンシェルジュと旅を共創 オンラインと人のハイブリッド戦略

オンライン予約の普及に伴い、旅行業界が大きく変化する中で、旅工房は専門のスタッフによる、顧客の要望に沿ったきめ細かい対応を強みにビジネスを展開する。オンラインと人の「ハイブリッド戦略」が、それを可能にしている。

高山 泰仁 (旅工房 代表取締役会長兼社長)

画一サービスから脱却し
顧客に合った旅を提案

インターネットの普及に伴い、旅行業界では、顧客が自ら情報を得てオンライン予約するというビジネスが発達した。このような変化によって従来の旅行会社のビジネスモデルも変革を求められている。

「従来の旅行業界ではスケールメリットを活かした大量仕入れが主で、類似のツアーがマーケットに出回り、必要以上に価格競争が激化していたと思います。各社が似たような商品を展開し、顧客から見ると違いは値段しかないような状態になってしました」

株式会社旅工房代表取締役会長兼社長の高山泰仁氏は、こう指摘する。高山氏は1994年に創業メンバーの1人として旅工房を設立、1996年には社長に就任した。

旅行のオンライン予約は1990年代から始まっている。1996年にはマイクロソフトの一部門として、旅行代理店と同様の業務をインターネット上で行うサイト「エクスペディア」が設立された。そして1998年には旅工房も、国内の他の旅行会社に先駆け、オンラインの旅行商品販売を開始した。「当時はまだ、『旅行がインターネットで売れるのか』という懐疑的な見方が多く、成功するかどうかはわかりませんでした」。

その後、エクスペディアは世界最大規模の旅行予約サイトに成長し、旅行業界全体にオンライン予約が普及することになった。他方で、現在も「オンライン予約はしない」という顧客層が存在する。

消費者庁による2016年の「オンライン旅行取引サービスに関するアンケート結果」によれば、ビジネス旅行を除く宿泊を伴う旅行の予約時に、オンライン予約をしなかった人が挙げた理由の1~5位は、①詳しい説明を受けたい、②細かい要望を伝えたい、③旅行について相談したい、④(オンラインでは)きちんと予約手続きが完了しているか不安になる、⑤個人情報が漏洩するのではないかと不安、というものだった。

このアンケート結果について、高山氏は「オンライン化する旅行業界においても、旅先に詳しく、旅行計画を親身に考える旅行会社は、それを強みにできることを示すもの」とみる。

専門地域に特化した
コンシェルジュが旅を「共創」

旅工房の社員は現在、約340人で、売上は224億円(2016年度)、オフィスは東京、大阪、名古屋、福岡、札幌にあり、ハワイ、ベトナムには子会社を持っている。2016年2月には、オンラインで航空券と宿泊施設を自由に組み合わせて予約できる「ダイナミック・パッケージサービス」を本格開始。2017年4月には、東証マザーズに上場した。

個人旅行、法人旅行、インバウンド旅行の3つの主要事業を展開するが、中でも個人旅行は事業全体の取扱額の約8割を占める。その強みは、各顧客の要望に沿ったツアーアレンジやオーダーメイド旅行の提案だ。

図 組織体制の特徴

出典:旅工房

一般的な旅行代理店が「機能別」組織であるのに対して、旅工房は「方面(エリア)別」組織となっている。

 

「従来の旅行会社は、本社に仕入や企画、PR、販売、手配といった『機能別組織』があり、各スタッフは世界各地を担当するのが普通でした。しかし、旅工房は『方面別組織』から成り、専門地域を持つ各セクションが、企画から手配までを行っています」

地域ごとに企画から手配まで行うセクションを作ることで、スタッフは各地域の専門知識を蓄えることが可能になる。また、旅工房では、これらのセクションで働くスタッフを「トラベル・コンシェルジュ」と呼ぶ。トラベル・コンシェルジュは蓄積した知識や経験を活かし、顧客と共にオーダーメイドの旅を創造(共創)していく。方面別組織では、各スタッフが希望する地域の旅行を担当しやすくなることから、スタッフ自身のやりがいも生まれる。

「オンライン予約は、顧客がよく知っている国へ旅行する場合には良いですが、全く知らない国では難しいと感じます。また、旅のプランは同行者によっても大きく変化するため、顧客の人間関係や深層心理を理解することも必要で、人工知能(AI)による自動化などは困難でしょう」

オンライン販売が世界的に拡大しても、ネット販売では、きめ細かなアレンジや相談サービスが顧客に行き届かない面がある。旅工房が展開するのはオンライン販売とトラベル・コンシェルジュによるハイブリッド・サービスだ。オンラインでツアーを予約した後でも、飛行機や宿泊施設、観光や食事に関するアップグレードやダウングレードについてトラベル・コンシェルジュへ相談できる。

「オンラインと人によるサービスのハイブリッド戦略を展開している旅行会社は、旅工房以外には、まだ世界にないと思います。両者の良い部分を組み合わせ、より良いサービスを提供していきます。また日本のホスピタリティは世界一だと考えており、それを世界に持っていきたいと考えています」

海外では、特に経済発展が著しく、海外旅行ブームが訪れつつある東南アジアに注目している。顧客の想いを実現できるオーダーメイドの旅づくりによって日本と海外をつなぎ、国際的な相互理解の促進に貢献していく。

 

高山 泰仁 (たかやま・やすひと)
旅工房 代表取締役会長兼社長