酒文化、飲み屋街が地域を救う 「地域性×歴史性」にチャンス

今や、全国津々浦々で、地域創生策が種々検討されている。その一方で、日本人の「酒離れ」、それに伴う酒文化&飲み屋街の衰退は、留まるところを知らない。しかし、酒文化&飲み屋街の有する「地域性×歴史性」こそが、創生のカギを握るのではないだろうか?

世界的人気のグリンツィング

本誌先月号(2016年12月号)の温泉特集において、温泉郷の創生のためには、「温泉力×X」のX、つまり、地域のコア・コンピタンスと言うべき「独自性・らしさ」の確立こそがカギであると述べた。

そして、実は、同じ地域資源という意味において、「温泉力」は「酒」と置き換えることもできる。「酒×X」のXの確立が地域の創生を可能にするのである。

オーストリアの首都ウィーンの市街地からトラムで1時間ほどのところに「グリンツィング」という村がある。ここは、17世紀末以来、ワインの造り酒屋がその年の「新酒」を飲ませる「ホイリゲ」(ワイン居酒屋)の街として知られ、世界的な人気を博している。

Photo by Photo by Photodiary of an Endless Summer

ホイリゲ(ワイン居酒屋)の街として知られる、オーストリアのグリンツィング。昔ながらの街並みが残り、往時の雰囲気の中で、庶民的なワインや家庭料理、音楽を楽しむことができる Photo by korom

一帯は景観保護条例により往時の雰囲気を維持もしくは再建。各店舗では、白ワインのほかに素朴なオーストリア家庭料理を出し、19世紀以来のシュランメル楽団がオーストリアの民俗音楽の生演奏を聴かせている。筆者も、映画「会議は踊る」(1931)の挿入歌「新しい酒の歌」や「ただ一度だけ」をリクエストしてテーブル脇で演奏してもらい、ほろ酔い気分、しかもヘタなドイツ語で歌ったが、それは今も忘れ得ぬ思い出である。

海外から来る観光客にとって、ウィーンの老舗ホテル「ザッハー」のカフェで、ハプスブルク帝国伝統の「ザッハー・トルテ」に併せて少々高級な渋めの赤ワインを味わう極上の歓びとはまた別の、庶民的でインティメイトな雰囲気がここには漂っているのである。

もちろん、グリンツィングにも悩みはある。海外からの観光客が殺到し続けた結果、自家製ワインの「新酒」だけでは賄い切れなくなって、よそから仕入れるようになったり、地元民の客足が遠のいたり、団体客が入れない零細店が廃業に追い込まれたりしている。また、事業承継者難もある。

しかし、そうした「課題」はあるにせよ、ひとつの飲み屋街が、ひとつの国のインバウンドの重要な要素になり得るという明確な事例が、ここには存在している。

グリンツィングを特徴づけている「独自性・らしさ」とは、自家製ワインの新酒を核に、地域の家庭料理、民俗音楽でもてなす「ホイリゲ」という存在の特異性。そして、それが多数密集し歴史を重ねる中で醸成される独特の「文化・風土」である。

「地域性×歴史性」を極めると、やがてそれは世界的評価に通じる、というのが筆者の持論であるが、グリンツィングは、国際観光都市ウィーンから1時間程度というアクセスの良さも味方して、まさにそれを地で行っていると言える。

「地域性×歴史性」を極める

英国が世界に誇るスコッチウイスキーは、もともとはスコットランドのハイランド(高地地方)の密造酒であった。しかし、同地の大地主ゴードン公爵の国王ジョージ4世への進言によって合法化され(1823)、その後の「技術革新」(連続式蒸留機の発明)により、大量生産可能な“工業製品”へとシフト。

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